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初夜1
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紗々羅の居室には、ほとんど使用したことがないもう一つの寝室がある。この寝室には、専用の浴場も併設されていて、紗々羅が普段使用している湯殿より大きい作りとなっていた。
そこは、ベガの間と呼ばれ、女王の普段過ごしている居室を通ることなく、入ることもできる。しかし、女王の居室を通らずに入るには、二人の衛兵が立つ門を抜け、殺風景な廊下を通ってから寝室の前にある扉を開けることになる。
風雅が門の前に行くと衛兵が頭を垂れ、門を開ける。後宮官吏官から今日のことを聞いているのだろう。
侍従のスイは、これ以上の侵入は許されないと心得ていたのか門の手前で止まって、主が入っていくのを見届けた。
風雅は門の両脇にいた鎧を着た衛兵と、薄絹を纏わされている自分とを比べ、心もとなく思った。このような恰好をさせられるのは、女王に危害を加えないとの証なのだろうが、入宮間もない室に対して、だいぶ信用がないらしい。
短い廊下を歩き、金の装飾が施された扉を自ら開けると、天蓋付きの大きな寝台があった。
5,6人は一緒に眠れそうだ。
寝台の奥にガラス扉があったので、開けてみると、そこは巨大な浴場で、贅沢にも湯がなみなみと注がれていた。
二人で使うにしても大きすぎる浴場の扉を閉め、部屋を改めて確認すると、自分が入ってきた扉とは違う真っ白な扉があった。
ここは、絶対開けてはならないと、教えられている。きっと女王の居室につながる扉なのだろう。
寝台の近くには、布張りの長椅子と小さめのガラステーブルがあった。そこには冷えた葡萄酒がおいてある。
風雅はひとまず、長椅子に腰かけ女王が来るのを待った。
侍従のスイから先ほど言われたことを思い出す。
『女王陛下は、今宵のことに決心がつかず、風雅様の元にいらっしゃらないかもしれません。でも決して気を落とさないでください。女王陛下といえどもまだ18歳の少女なのですから。』
それを聞いた風雅は、『23歳まで女性の手をまともに握ったこともない男もいるのだが』と心の中で思っていた。
「陛下、風雅様が門を通られたと先ほどご報告がありました。」
侍女のハルカが、紗々羅に声をかける。
紗々羅は、政務に関する報告書を手にしていて、そこから顔を上げずに、「最後まで読んだら行く。」とだけ告げた。
紗々羅は、当然に母の後宮の中で育った。母には13人もの室がいたが、それは、歴代の女王は、なぜか女児をなかなか生むことができないためでもあった。最適な伴侶でなくては、次代を担う女児が誕生しないとも言われている。
紗々羅のきょうだいは自分の他に8人いるが、自分以外はすべて男で、紗々羅は、最後に生まれた。兄たちは、とっくに母の後宮を出て、行政の重要な役職に就いたり、大臣家や将軍家に降婿したりし、紗々羅の政務を助けている。父以外の室も母の後宮初の女児である私を可愛がってくれた。
それまで、兄や室といった男性は、自分を守り手助けし、導き、甘やかしてくれる存在だった。政務で関わる男性もお互い職務として接しているだけである。それ以外を紗々羅は知らない。故に、今宵のことに紗々羅は戸惑っていた。
「陛下、あまりお待たせしすぎますと…。」
いつも女王に対しても何でもはっきり述べるハルカも遠慮がちに言った。
紗々羅は、一呼吸おいてから無言で報告書を閉じて、真っ白な扉の方へ一歩を踏み出す。
さっとアヤメが動く。
「アヤメ、大丈夫よ。今日は自分の部屋に戻りなさい。」
アヤメはおそらく白い扉の前で一晩中明かすつもりだったに違いない。
「そうよ、アヤメ。扉の前になんかいられたら、陛下が落ち着かないわよ。」
ハルカも応戦する。
アヤメは仕方がないという顔で、白い扉の方に向かう紗々羅を見送った。
※降婿は造語です。降嫁の男性バージョン
そこは、ベガの間と呼ばれ、女王の普段過ごしている居室を通ることなく、入ることもできる。しかし、女王の居室を通らずに入るには、二人の衛兵が立つ門を抜け、殺風景な廊下を通ってから寝室の前にある扉を開けることになる。
風雅が門の前に行くと衛兵が頭を垂れ、門を開ける。後宮官吏官から今日のことを聞いているのだろう。
侍従のスイは、これ以上の侵入は許されないと心得ていたのか門の手前で止まって、主が入っていくのを見届けた。
風雅は門の両脇にいた鎧を着た衛兵と、薄絹を纏わされている自分とを比べ、心もとなく思った。このような恰好をさせられるのは、女王に危害を加えないとの証なのだろうが、入宮間もない室に対して、だいぶ信用がないらしい。
短い廊下を歩き、金の装飾が施された扉を自ら開けると、天蓋付きの大きな寝台があった。
5,6人は一緒に眠れそうだ。
寝台の奥にガラス扉があったので、開けてみると、そこは巨大な浴場で、贅沢にも湯がなみなみと注がれていた。
二人で使うにしても大きすぎる浴場の扉を閉め、部屋を改めて確認すると、自分が入ってきた扉とは違う真っ白な扉があった。
ここは、絶対開けてはならないと、教えられている。きっと女王の居室につながる扉なのだろう。
寝台の近くには、布張りの長椅子と小さめのガラステーブルがあった。そこには冷えた葡萄酒がおいてある。
風雅はひとまず、長椅子に腰かけ女王が来るのを待った。
侍従のスイから先ほど言われたことを思い出す。
『女王陛下は、今宵のことに決心がつかず、風雅様の元にいらっしゃらないかもしれません。でも決して気を落とさないでください。女王陛下といえどもまだ18歳の少女なのですから。』
それを聞いた風雅は、『23歳まで女性の手をまともに握ったこともない男もいるのだが』と心の中で思っていた。
「陛下、風雅様が門を通られたと先ほどご報告がありました。」
侍女のハルカが、紗々羅に声をかける。
紗々羅は、政務に関する報告書を手にしていて、そこから顔を上げずに、「最後まで読んだら行く。」とだけ告げた。
紗々羅は、当然に母の後宮の中で育った。母には13人もの室がいたが、それは、歴代の女王は、なぜか女児をなかなか生むことができないためでもあった。最適な伴侶でなくては、次代を担う女児が誕生しないとも言われている。
紗々羅のきょうだいは自分の他に8人いるが、自分以外はすべて男で、紗々羅は、最後に生まれた。兄たちは、とっくに母の後宮を出て、行政の重要な役職に就いたり、大臣家や将軍家に降婿したりし、紗々羅の政務を助けている。父以外の室も母の後宮初の女児である私を可愛がってくれた。
それまで、兄や室といった男性は、自分を守り手助けし、導き、甘やかしてくれる存在だった。政務で関わる男性もお互い職務として接しているだけである。それ以外を紗々羅は知らない。故に、今宵のことに紗々羅は戸惑っていた。
「陛下、あまりお待たせしすぎますと…。」
いつも女王に対しても何でもはっきり述べるハルカも遠慮がちに言った。
紗々羅は、一呼吸おいてから無言で報告書を閉じて、真っ白な扉の方へ一歩を踏み出す。
さっとアヤメが動く。
「アヤメ、大丈夫よ。今日は自分の部屋に戻りなさい。」
アヤメはおそらく白い扉の前で一晩中明かすつもりだったに違いない。
「そうよ、アヤメ。扉の前になんかいられたら、陛下が落ち着かないわよ。」
ハルカも応戦する。
アヤメは仕方がないという顔で、白い扉の方に向かう紗々羅を見送った。
※降婿は造語です。降嫁の男性バージョン
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