私を見てくれなくても……

五嶋樒榴

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四条と別れて、妙子は遼一が待つ家へと急ぐ。
仕事が順調に進むのも、遼一のおかげだと思った。

「ただいま」

妙子が玄関を開けるとリビングには遼一の姿はなく、ただ電気だけがついていた。

「遼一さん、起きてる?」

遼一の部屋をノックしてみると、部屋のドアが開いて遼一が笑顔で出迎えてくれた。

「お帰り。イヤホンしてたから気がつかなかった」

スマホで音楽を聴いていたので、ベッドの上にスマホとイヤホンがあった。

「夕飯は?」

「ちゃんと食べたよ。って言っても外食しちゃったけど」

「そうだったんだ。何を食べてきたの?」

「牛丼」

遼一でも一人で牛丼屋に入るんだと、なんだか意外な気がして妙子は笑った。

「なんで笑うのさ。牛丼じゃダメだった?」

「ううん。なんとなくイメージに合わなかったから」

「そう?学生時代は週に何度も行ったよ。早いし安いし旨いし」

「そうなんだ。あ、お風呂は?」

「お風呂も入ったよ。妙子さんも入ってきなよ」

「はーい」

妙子は一度部屋に入ると着替えを持ってバスルームに入った。
今夜のことを思い出してフッと息を吐く。
四条には、きっと普通の幸せ夫婦に思ってもらえただろうが、実際は普通の夫婦とは違う。
結婚して一度も一緒のベッドにも寝た事はない。
新婚旅行中も、常に部屋はツインだった。
このマンションで一緒に過ごすのは、食事をしている時と、ちょっとした会話をする時だけ。
遼一が好きだと四条にアピールしてきたが、実際は妙子の片思い。
二人で過ごす月日が増えて、遼一が妙子のことを負担に思ったとしても、どうしても離れていってほしくなかった。
遼一がいなくなる事が怖くなっている。
もう生活の中で遼一の存在は、妙子にとって失いなくないほど大切な人になってしまっていた。
妙子はお風呂から上がり冷えたジュースをグラスに注ぐと、喉の渇きを癒すように一気に飲み干した。

「上がったんだ」

リビングに遼一もやってきた。

「遼一さんもジュース飲む?」

「ううん。コーヒーカップ下げに来ただけだから」

キッチンでコーヒーカップを洗って、遼一はリビングを出て行こうとする。

「あ、あのね、今夜の取引先との会食なんだけど、仕事も順調にうまくいきそうだよ」

妙子の弾む声に遼一は笑顔になる。

「そうだったんだ。良かったね」

「うん!遼一さんのおかげだよ!遼一さんと結婚して、本当に良かったって思う。遼一さんがいてくれるから仕事頑張れるしうまくいくの。私、やっぱり遼一さんと結婚して幸せだからね!」

妙子が先日の話を気にしているんだと遼一は思った。
妙子が幸せだと言ってくれても、妙子を幸せにできていないと遼一が思う以上、妙子に何も言ってあげられない。

「……髪の毛ちゃんと乾かした?風邪ひかないようにしてね。おやすみ」

微笑んで遼一はそれだけ言うとリビングから出ていった。
妙子はフーとため息をつくと、飲み終わったグラスを洗ってリビングの電気を消した。
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