元殺し屋の私が異世界憑依したら溺愛ルートが待っていた~醜い辺境伯と身代わり夜伽妻~

五嶋樒榴

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辺境伯クロードのひとりごと・3

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執務室で仕事をしていると、シュナイダーがやって来た。

「エリーズ様から、ティーパーティーを開きたいと申し出がございました。招待客のリストアップも頼まれました」

シュナイダーから報告を受けて、私は時計に目をやった。
流石に午前中出掛けたせいか、昼の支度が遅れているんだな。

「聞いていらっしゃいますか?旦那様」

「え?あ、ああ。エリーズの好きにさせなさい」

シュナイダーに任せれば、エリーズの好き勝手にもなるまい。

「はい。それと、エリーズ様のお部屋にあった、ティーカップがひとつ割れてしまいました」

シュナイダーはゲンナリとした顔でため息をつく。

「そうなのか?誰も怪我はないか?」

「はい」

怪我をしてないのなら良いか。

「ただ、ドアに傷と、ドアの下に紅茶で濡れたシミが残っておりまして、ティーカップの細かな破片も落ちておりました。お部屋の中の破片は侍女に片付けさせました」

エリーズが何かヒステリーでも起こして、カップをドアに叩きつけたと言うことか。

「慣れない土地でストレスが溜まっているのだろう。パーティーでも開けば、少しは落ち着くんじゃないのか?」

シュナイダーも私と同じ事を考えている様で頷いた。

「こう申し上げては、旦那様からご不興を買うかもしれませんが」

言いにくそうにシュナイダーは顔を顰めた。

「言いたい事は何でも言ってくれて構わない。おそらく私が考えている事と同じだろう?」

どうせエリーズの事だと分かっているので、私はシュナイダーが話しやすい様に言ってみた。

「はぁ。エリーズ様は、少しわがままが過ぎるのではないかと」

「確かにね」

私も同調したので、シュナイダーはホッとした顔をした。

「それに、フィリシアさんへの態度も冷たくいらっしゃって、旦那様に対しても顔を合わせない様にしています。仮にも、ご夫婦になると望んでいただいたはずですのに」

よほど、不満が溜まっている様子だ。
この結婚に、シュナイダーはハッキリとは言わないが反対なのだろう。

「ミュルゲール男爵様のご令嬢だったので、この縁談は大変喜ばしいと思っていたのですが、旦那様がエリーズ様とおかしな約束をしたと聞いた時には……」

「シュナイダー、心配するな。確かにエリーズとは真の夫婦にはなれないかもしれないが、私はフィリシアと出会えた事に対してはエリーズに感謝している」

エリーズがいなければ、フィリシアとは出会えなかった。
皮肉ではあるが、その点に関しては、本当にエリーズに感謝している。

「そうでございますね。フィリシアさんが、旦那様の癒しの存在になってくれそうで、多少は私も気持ちが安らぎます」

フィリシアの株がどんどん上がっていく。
あんなに素敵な女性は、私が今まで知り合った中でもなかなかいない。

「ありがとう、シュナイダー。フィリシアのおかげで、お前もこうして私の素顔をまた見れる様になったのだからな」

「左様でございますね」

シュナイダーは、そうだったと思い出した様に笑った。

エリーズの存在は正直面倒ではあるが、フィリシアがいてくれれば、私もこの屋敷の者達も、楽しく過ごせるのではないかと思う。

「では、招待客のリストなんですが」

「そうだな。近隣の領主となると、ダーウィン伯爵令嬢と、カリスラーダ伯爵令嬢、少し遠くなるが、コスリー子爵令嬢辺りか?」

思いつくまま、私は思い出してみた。
いずれも、昔から私との婚約の話がなかった相手だ。
それぞれに現在、皆、婚約者もいるので、エリーズの相手として申し分ないだろう。

「畏まりました。ではその様に招待状を出しておきます」

「うん、よろしく頼む」

これで少し、エリーズの機嫌がなおるなら良いか。

「あ、招待する日が決まったら、南のサロンを使う様に。その方が、招待客も余計な気を使う事もないだろうから」

私がパーティーの主催者でもないし、下手にこちらの屋敷内を彷徨かれては、フィリシアも気を使うだろうし、何よりジョージもいるし厄介だ。

「はい。その点は心得ております」

あはは。
流石だな。

「その頃までに、エリーズが呼び寄せた侍女達がこちらに到着すれば、より良いんだけどね」

そうすれば、シュナイダーも無駄な仕事が減る。

「その辺りも、調整しつつエリーズ様に進言してみますね」

「ああ。よろしく頼む」

シュナイダーには仕事を増やしてばかりだが、シュナイダーもフィリシアに好意的なのは一安心だな。

フィリシアのおかげで、本当に私も今までの辛い日々を少しずつ忘れていきそうだ。
フィリシアを喜ばせたくて、今日も馬に乗せてしまったし。

おかげで本当は、仕事の予定が狂ってしまった。

やらなければいけない問題はまだまだ山積みだ。
この先アルバキア王国との不可侵条約だけでは、また何が起こるか油断は出来ない。
外交の強化を考えなければ。

それにしてもこの国は、大国すぎる。
この領土に隣接する国が3国も有るのだから。

アルバキア以外のマルノルデー皇国とヘグレス王国とは交易も盛んだし、友好関係を続けてはいけるだろうが、絶対とは言い切れない。
その為にも、この平和がいつまでも続く様に折衝していかなければ。

フィリシアのためにも。
フィリシアがいずれ1人で旅立つ時に、1人でも安全に暮らしていける様に……。

あー!
嫌だ!
嫌だー!

フィリシアが私の元を離れていくなんて!

フィリシアには良い顔ばかりして、本当は私の心の中はドス黒いものが渦巻いている。

フィリシアがここを出て、誰かを生涯の伴侶にするかもしれぬと思うだけで胸が引き裂かれそうだ。

私が……。

私が幸せにしたい。
私が一生フィリシアを守り続けてやりたい。

でも、フィリシアが、私を好きだとは分からない。

たとえ、あんなに熱烈なキスをしたからと言って……。

これはやはり、私がフィリシアに恋してしまったと言うことか。



「クロード様?あの、何度もノックをしたのですが……」

頭を抱えていた私の目の前に、天使、じゃなくてフィリシアが立っていた。

「ああ、すまない。考え事をしていた」

私は恥ずかしくなって、熱くなった右頬を左の手の甲で隠す様に触れた。

「遅くなりましたが、ダイニングにお昼の支度が整いました。料理長が、私が今朝リクエストしたグラタンを用意してくださって、仕上げで少し遅くなってしまいました」

グラタン?

また、聞いたことがない料理だな。

「グラタンとは?」

「食べてみてからのお楽しみですよ。さあ、行きましょう」

フィリシアの可愛い笑顔にはぐらかされてしまったが、またひとつ、フィリシアの好物が知れた気がする。

私は執務室を出るのに、いつもの仮面を顔に被せた。
外す時間が増えたせいか、この仮面が不思議な程重く感じる。
フィリシアが作ってくれている仮面を早く着けたくて仕方ない。

もう、フィリシアは私の中で1番の存在になってしまった。
たとえフィリシアと結ばれなくとも、こうして同じ時間を共有できるだけで、今はとてつもなく幸せだ。


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