お前の唇に触れていたい

五嶋樒榴

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甘い

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夕飯を済ませて、礼央はソファに座り、橋元はリクライニングチェアに腰掛けた。
テレビが置いてあるリビングボードの上のプレッツェルの箱を見つけ、礼央は意外と言う顔で橋元を見る。
「甘いもの、好きなんですか?」
橋元は立ち上がり、少年から貰ったプレッツェルの箱を笑いながら手に取る。
「これ、患者だった子供がくれたんだよ。俺は甘いもの食わないけど食べるか?」
ビリビリと箱を開けて、中の袋を切った。
チョコレートコンテイングされた細長いプレッツェルを1本出すと、礼央の隣に腰掛け差し出した。
「あーん」
橋元は笑いながら言うと、礼央は真っ赤になって橋元を見つめる。
「ほら、あーん」
橋元は礼央の口元にプレッツェルを近付ける。礼央も諦めて、プレッツェルを口に入れる。
ポリポリと音を立てて礼央はプレッツェルを食べていく。
橋元はその口元を見つめる。
段々と橋元の指に礼央の唇が近付くと、ポキンとプレッツェルを折った。
もうチョコレートのコーティングはされていない部分を、橋元は自分の口に入れた。
「もらったんだから、俺も一応味見しておかないとね」
フッと笑いながら橋元は言う。
礼央は恥ずかしくて俯く。
「もっと食べるか?」
橋元が礼央をジッと見つめて言う。礼央は俯いたまま頷く。
橋元は再び礼央に食べさせる。
今度は食べ進ませて、橋元の指に礼央の唇が触れた。
橋元は指を離すと、最後まで礼央の口の中にプレッツェルは入って行った。
橋元はプレッツェルを持っていた手を礼央の頬に当てた。
「可愛い」
そう言うと、橋元は礼央の顔に顔を近付ける。
礼央もそっと目を閉じた。
橋元は礼央の唇を見つめながら自分の唇を近付ける。
「好きだよ」
橋元はそう呟くと、礼央の唇に軽くキスをした。
礼央はドキドキしながら、少し唇を開いた。
橋元は礼央の唇を堪能するように、舌を礼央の口の中に入れた。 
温かい唇の温度を感じながら、橋元は舌を絡ませ礼央の舌を吸う。
クチュ。と音がお互いの耳に響く。
「んん、んふ」
礼央の鼻にかかった声に、橋元は興奮してキスを止められない。
「んーッ」
礼央の声が甘い。
グチュグチュとキスが激しくなる。
橋元はソファに礼央を押し倒すと唇を吸う。
こんなに長いキスは橋元も礼央も初めてと言うぐらい、唇は磁石の様に離れなかった。
礼央は身体をよじるが、橋元の体重を感じて身動きができない。
ううん、うんん、と、キスの合間の礼央の息遣いが激しくなり、橋元は礼央の唇をやっと解放した。
橋元はソファの背もたれを掴んで上体を上げると、押し倒されている礼央を見下ろした。
「やべぇ。甘いもの好きじゃねぇのに、好きになりそう」
礼央とのキスの感想に、礼央は真っ赤になって橋元を見つめる。
「礼央とキスできて、あの子に感謝だな」
橋元は微笑みながら立ち上がって礼央の腕を掴むと、礼央をゆっくり起き上がらせる。
礼央は真っ赤になったまま何も言葉が出せない。
「終電逃すとまずいから、駅まで送るよ」
橋元の言葉に礼央は胸が締め付けられる。
もっと一緒にいたいと思ってしまった。
でも、それを言うのは出来なかった。
キスだけじゃ済まなくなるからそう言ってくれた橋元に、わがままは言えなかった。
「……………キス、気持ちよかった。僕も橋元先生、好きだよ」
礼央が小声で恥ずかしそうに言うと橋元は微笑む。
内心礼央は期待する。
今夜、このまま橋元と過ごせるかと。
「そっか。じゃあ、またしよーな」
橋元の笑顔に礼央のドキドキが止まらない。
期待していた言葉ではないが、幸せな気持ちのまま、橋元のシャツを掴んだ。
無理強いしない橋元の優しさを感じた。
「うん。する」
素直な礼央に、橋元は優しい顔で見つめた。
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