お前の唇に触れていたい

五嶋樒榴

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恋のおまじないプレッツェル

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駅まで着くと改札の前で橋元は、ジャケットのポケットの中に入れていた、さっきのプレッツェルの箱を礼央に渡した。
「封開けちゃったし、俺食わないし。礼央が残り食べてよ」
にっこり笑って橋元は礼央に渡す。
礼央は両手で受け取ると、橋元を見つめる。
「橋元先生。今夜は誘ってくれてありがとう。来て良かった」
礼央が笑顔で言うと橋元は満足そうに頷いた。
「それなら良かった。また、誘っていいか?」
橋元がジッと礼央を見つめる。
「……………今日みたいな時間過ごせるなら……………本当は、もっと、一緒に……………」
礼央の瞳が潤んで見えた。橋元はフッと笑うと、大きな掌で礼央の頭をポンポンとした。
「寸止めが丁度いいんだよ。もう焦ってねぇから。次があるからそれで良いさ」 

次があるから。

今日みたいな日が、またあって欲しいと礼央は思った。
橋元も礼央が次も会ってくれるのが嬉しい。
「そのお菓子、なんかすげーな。キスしたいってずっと今日思ってたら、そいつのおかげでキスもできたしさ」
ふふふと余裕の笑みで橋元は言う。礼央は嬉しそうに微笑む。
「これ、大事に食べるね。次もまたすぐ会えます様にって」
礼央はそう言うと橋元を見つめる。
「……………焦んなくていいよ。無理に俺に合わせることない。お前はお前の温度で良い。友達から始めようって決めてたしさ。礼央が好きって言ってくれただけで、今夜は十分だし」
橋元の言葉に礼央はクスリと笑う。
「うん。ありがとう。あ!僕、先生の下の名前聞いてないじゃん!」
礼央が急に思い出した。
「え?そうだっけ?俺は、総司。沖田総司の総司ね」
にっこり笑って橋元は言う。
「総司さんて呼んでいい?先生って呼ぶのなんかヤダ」
礼央が名前を呼んでくれる方が橋元も嬉しかった。
「良いよ。でも、礼央の漢字合ってて良かった。みんなが礼央って呼んでたから俺も普通に名前呼んでたけど、礼央の名前聞いてなかったの気がついてた?」
へ?と言う顔で礼央は橋元を見る。
「メールで礼央の名前送った時あったけど、何も反応ないから合ってたんだって思ってた」
思い出そうにも、いつのメールかもう覚えてない。
「……………そうだったっけ?漢字合ってたから、教えてたんだと思ってた」
びっくりした顔で礼央は言う。
「れおで変換したらその字が出てきたからそのまま使ってた。合ってて良かった」
ふふふと橋元は笑う。
礼央もプッと笑った。
お互いのことを、本当に何も知らなかったんだと今更ながらに気が付いた。
でも、こんな出会いから、何かが始まるのも良いとお互い思った。
礼央は電車に乗ると、橋元がくれたプレッツェルの箱を見つめる。
橋元とのキスを思い出すと、顔がニヤけてしまいそうで、さすがに人目が気になり緩まない様に顔を引き締めた。
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