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天使の悩み

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「悪りぃ、悪りぃ。帰る時にちょっと捕まった」
21時近くに橋元がやって来た。
話に聞いていたが、橋元は、真冬の目から見ても、独特のオーラがある人だと思ってしまった。
「初めまして。先生にお世話になってる千藤真冬です!」
真冬が頭を下げると、橋元は真冬を見つめた後にっこり笑った。
「初めまして、橋元です。よろしくね。これお土産」
橋元はワインを真冬に渡した。真冬はキッチンに入ってワインを冷蔵庫にしまった。
「へぇー。可愛いじゃん」
ニヤニヤして橋元は蓮見を見る。その目が何かを言いたそうで蓮見は赤面した。
「まぁな。素直で、良い子だよ」
誤魔化すように蓮見は言う。
真冬の手作りの料理を、橋元も気に入ったらしく真冬をべた褒めする。わざと蓮見に話しかけず、真冬にばかり橋元は話しかける。
前と違って、真冬もポツンと1人にならなくて済んだので、真冬も楽しくおしゃべりをしていた。
面白くないのは蓮見である。
橋元が妙に真冬にべったりなのが面白くない。
イライラしながら、橋元をチラチラと見る。
「そう言えば、橋元の彼女見てみたいなー」
星川が居るのに、蓮見はつい口を滑らせてしまい焦る。
星川が橋元を見る。
「えー!橋元さん、彼女居たんですか!」
追い討ちをかけるように、当たり前だが星川は驚きながら言う。
橋元はフッと笑う。蓮見はやっちまったと言う顔をする。
「すまん。つい」
口の軽い男だと思われたと蓮見は反省する。
「星川なら良いよ。だけど、これ以上喋ったら、お前らの頭割って脳みそ腐らせるぞ」
橋元なら本当にやりそうで、蓮見と星川はビビって口外しないと約束する。
「どんな人?」
真冬が無邪気に聞く。蓮見は真っ青になって橋元を見るが、橋元は穏やかな顔で真冬を見る。
「君みたいに、可愛くて、甘えん坊な感じ。しかも嫉妬深くてさ。俺に近づく奴に睨みきかせるタイプ」
橋元が、本当に恋人が好きなんだと真冬は嬉しそうに話を聞く。
「もう、長いんですか?」
まだ真冬は食いつく。蓮見はハラハラする。
「1年ぐらいかな。元は患者の家族だったの」
患者の家族に手を出すとは珍しいと蓮見は思った。余程惚れた相手なんだと思った。
「今は同棲中。君ほど料理は上手じゃないけどね」
あははと橋元は笑う。
それでも幸せそうで真冬は羨ましい。
自分は蓮見のことをこんな風に誰かに話せないなと寂しかった。
異性だったら橋元のように、誰にでも惚気られるよね、と思ってしまった。
その顔を見て、橋元は真冬の耳元に囁いた。
「俺の恋人は、男だよ。真冬君と蓮見と一緒。蓮見に後で話して良いよ」
橋元にそう囁かれて真冬はびっくりして橋元を見つめた。
びっくりしたと同時に、異性だったら橋元のようにと、さっき自分で思ってしまったことに自己嫌悪を感じて恥ずかしくなった。
その光景を見て、蓮見はぶち切れそうになる。
蓮見の視線を感じて橋元は笑う。
「お前がさっき俺のことバラしたの、これでチャラな」
橋元にそう言われるとぐうの音も出ない。だが、納得がいかない。

俺の大事な真冬と内緒話だと!
くっそー!
何がチャラだッ!

橋元は涼しい顔で蓮見を見て笑う。
真冬は橋元の衝撃的な告白と、真冬と蓮見のことが橋元にもうバレていることに心臓のドキドキが止まらない。
「あのッ!相談があるんでメール交換してください!」
つい咄嗟に真冬は橋元に言ってしまった。
そのセリフに蓮見と星川は驚いて声が出ない。
「良いよ」
余裕の顔で橋元はスマホを出すと真冬とメールの交換をした。
「ちょっ!何してんだよ!そこ!」
堪らず蓮見が声を上げた。
「バーカ。真冬君は脳外の事で相談があるんだって。変な詮索するな」
ふふふと意地悪な笑い顔で橋元は言う。
真冬も橋元の言葉に頷く。
「そうだよ!先生の専門外でしょ!」
真冬にまでそう言われては、星川の手前何も言い返せない。

くっそー!
誘うんじゃなかった!
真冬ー!
さっき橋元に何、耳打ちされたんだよー!

蓮見はもうさっさと星川も橋元も家から追い出したかった。
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