あなたの指先で触れられたい

五嶋樒榴

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リアルお医者さんごっこ

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蓮見の病院の受付に、真冬がやってきた。今日は大学も、授業のコマがなかった。
「あら、真冬君。何処か具合でも悪い?」
受付の佐藤さんと言う、30代の女性が真冬に声をかけた。
「ううん。バイト先から、インフルエンザの予防接種受けるように言われているんだ。お受験する幼児が多いからさ」
「そっかそっか。じゃあ、熱計ってこれに記入してね」
佐藤さんは体温計とインフルエンザの予診票を真冬に渡した。
しばらく待っていると真冬は呼ばれた。
診察室に入ると、蓮見が優しい顔で真冬を見る。
「こっちで会うのってなかなかないから新鮮だな」
笑いながら蓮見は言う。
白衣が良く似合うと真冬はその姿にドキドキする。顔が赤くなってしまった。
「胸の音聞くよ」
蓮見は聴診器をつけると、真冬の服の中にすっと聴診器を入れる。
「次、背中ね」
蓮見は医者として冷静だが、真冬はなんとなく緊張してしまった。
看護師長の酒井さんがインフルエンザの注射を準備して蓮見のデスクに置いた。
「左腕にする?」
「うん」
腕を消毒する。
「チクってするよ」
まるで子供に言うように蓮見は真冬に言った。真冬は顔を背けた。注射は苦手なのだ。
ジュッと言う感覚。ワクチンが体内に入ってきて真冬は顔をしかめる。
「はい。おしまい。30分経つまで様子見るんだよ」
「うん。ありがとう、先生」
真冬は笑顔で診察室を出て行った。
病院から家に戻り、真冬は蓮見の白衣姿を思い浮かべていた。

カッコよかった。
いつもカッコいいけど、やっぱり仕事中の先生って素敵だ。

蓮見のカッコよさに惚れ直してしまった。
聴診器を当てられた時も、蓮見の手が服の中に入ってきた時に、思わず興奮しそうになった。

なんかこの発想って、エロいよね。
欲求不満なのかな。

真っ赤になって頬に手を当てた。
頬が熱い。
蓮見の姿を思い浮かべると余計に火照りそうだったので、夕飯の買い出しに、スーパーに行くことにした。
蓮見が好きなすき焼きにしようと牛肉を選びながら、蓮見が喜ぶ顔を思い浮かべる。
材料をカゴに入れて会計を済ませると、真冬のスマホにメールが入った。
相手は母親だった。連絡が欲しいとメールされていた。
気になったので直ぐに電話をかけてみる。
何回かコールの後に母親が出た。
「もしもし、真冬だけど」
『あ、良かった、直ぐに連絡くれて』
母親はホッとしている。
「どうしたの?何かあったの?」
気になって真冬は尋ねる。
『実は、お父さんが……』
母親の話を聞いて、真冬は心配そうな顔になると、急いで蓮見の家に戻った。
蓮見は診察が全て終わりスタッフが全員帰ると、医療用のゴム手袋を何枚かビニール袋に入れた。
少しだけ背徳感を感じたが、蓮見はそれを持って家に戻った。
家に戻ると真冬が蓮見を待っていた。
「先生!おかえりなさい!ごめんなさい、僕、今から実家に行ってきます!」
突然のことで、蓮見は何が起きたのか分からなかった。
だが真冬が実家に行くくらいだから、よほど何か大変なことが起きたと思った。
「実家で何かあったの?大丈夫なの?」
心配そうに蓮見は聞く。
「それが、お父さんが、ぎっくり腰になっちゃって」
「ぎっくり腰?そりゃまた、大変だ」
「痛くて動けなくて、まだ病院も行ってないって言うから、様子を見に行きたいの。姉も居るんだけど、仕事で遅いみたい。だからまだ夕飯の支度できてないんだけど行ってもいい?」
真冬の気にするところが違うと蓮見は笑う。真冬が自分のことをちゃんと気にかけてくれるのが嬉しい。
蓮見が車のキーを持った。
「送るよ。診察もする」
蓮見の申し出に真冬は驚く。
「ちゃんと挨拶した方が良いとずっと思ってた。大事な息子さんを預かっているんだから」
蓮見の言葉が嬉しかった。
「ちゃんと親と仲直りして、それで俺と一緒にこれからも住もう」
蓮見はまだ真冬が両親と仲違いをしていると思っている。
「先生!ごめんなさい!」
突然真冬が謝るので蓮見は驚く。
何がごめんなさいなのか分からなかった。
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