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美奈子の嘘
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千秋から受けた行為は想像していた以上で、美奈子はまだ身体の芯が疼いていた。
あんな風に、千秋が妻を抱いているんだと思うと何故か嫉妬に駆られる。
千秋が自分を好きだったと聞き、もしそれをもっと早くに知っていたら、言ってくれていれば、今頃千秋の隣にいたのは自分だったのではと、たらればが頭から離れない。
裕介ではなく、千秋でいっぱいになっている自分が惨めに思えてきた。
「ただいま」
ソファに座って千秋のことを考えていると裕介が帰って来た。
いつもと同じ優しい笑顔で、美奈子のいるリビングに裕介は現れた。
「おかえりなさい」
美奈子は笑顔で言う。
ちゃんと笑顔になっているか不安になる。
「直ぐに夕飯にするね」
美奈子が立ち上がると、裕介は通勤カバンを部屋に置いて手を洗いに行く。
再びリビングに戻ると、部屋着に着替えていた。
「玄関入ったらカレーのいい香りがして食欲そそられた」
ダイニングテーブルの上の、カレーとサラダを見て裕介はご機嫌になる。
「今夜は何飲む?ビールで良い?」
美奈子が冷蔵庫の前で尋ねる。
「そうだね。ビールもらうよ」
美奈子はビールを出すと裕介の前に置いた。
「たまには、私も飲もうかな」
いつも家では、美奈子はアルコールをほとんど飲まない。
今夜はビールを飲んでさっさと寝てしまおうと思った。
「うん。飲んじゃえ」
裕介も勧めるので、美奈子も自分の分のビールを出した。
2人はビールで乾杯する。
裕介はいつも通り、普通に夕飯を愉しむ。
昼間に美奈子が留守をしていたことも、全く気が付いていない。
今夜がカレーだったのも、家にある材料で、夕方遅くから手早く出来るメニューがカレーだったから。
千秋との逢瀬で頭がいっぱいで、本当は夕飯も作りたくなかった。
「やっぱり美奈子のカレーは美味しい。今日の給食もカレーだったんだけど、子供向けの甘口だからさ」
裕介の言葉に美奈子はハッとした。
給食と被らないように、いつもカレーは休日しか作らないようにしていた。
そんな事も忘れるほど今日の事に夢中になっていた。
しかもまさか、今日に限って給食のメニューと被るとは思っていなかった。
「ごめんなさい!まさか被ると思ってなくて」
「ううん。食べ比べると、やっぱり美奈子のカレーは美味しいと思ってさ。別物だから全然気にならない」
優しい笑顔で裕介は言う。
わざと嫌味を言う人ではない。
本当に美奈子のカレーを絶賛してくれたのが分かるから、手抜きした自分が恥ずかしくなった。
「今度から、給食のお便り私にもちょうだい。参考にしたいし」
「うん。でも美奈子の料理の方が凝ってるから参考にはならないと思うよ。毎日美味しい夕飯作ってくれてありがとうね」
裕介に優しい言葉を貰うたびに胸が苦しくなる。
分かっていたことなのに、自分の欲望に走ってしまった。
その反面、この優しさが恨めしくなる。
セックスレス以外には全く不満のない夫。この優しい素敵な夫を、今日、美奈子は裏切った。
本当は、裏切りたくなどなかったのに。と言い訳をしながら。
あんな風に、千秋が妻を抱いているんだと思うと何故か嫉妬に駆られる。
千秋が自分を好きだったと聞き、もしそれをもっと早くに知っていたら、言ってくれていれば、今頃千秋の隣にいたのは自分だったのではと、たらればが頭から離れない。
裕介ではなく、千秋でいっぱいになっている自分が惨めに思えてきた。
「ただいま」
ソファに座って千秋のことを考えていると裕介が帰って来た。
いつもと同じ優しい笑顔で、美奈子のいるリビングに裕介は現れた。
「おかえりなさい」
美奈子は笑顔で言う。
ちゃんと笑顔になっているか不安になる。
「直ぐに夕飯にするね」
美奈子が立ち上がると、裕介は通勤カバンを部屋に置いて手を洗いに行く。
再びリビングに戻ると、部屋着に着替えていた。
「玄関入ったらカレーのいい香りがして食欲そそられた」
ダイニングテーブルの上の、カレーとサラダを見て裕介はご機嫌になる。
「今夜は何飲む?ビールで良い?」
美奈子が冷蔵庫の前で尋ねる。
「そうだね。ビールもらうよ」
美奈子はビールを出すと裕介の前に置いた。
「たまには、私も飲もうかな」
いつも家では、美奈子はアルコールをほとんど飲まない。
今夜はビールを飲んでさっさと寝てしまおうと思った。
「うん。飲んじゃえ」
裕介も勧めるので、美奈子も自分の分のビールを出した。
2人はビールで乾杯する。
裕介はいつも通り、普通に夕飯を愉しむ。
昼間に美奈子が留守をしていたことも、全く気が付いていない。
今夜がカレーだったのも、家にある材料で、夕方遅くから手早く出来るメニューがカレーだったから。
千秋との逢瀬で頭がいっぱいで、本当は夕飯も作りたくなかった。
「やっぱり美奈子のカレーは美味しい。今日の給食もカレーだったんだけど、子供向けの甘口だからさ」
裕介の言葉に美奈子はハッとした。
給食と被らないように、いつもカレーは休日しか作らないようにしていた。
そんな事も忘れるほど今日の事に夢中になっていた。
しかもまさか、今日に限って給食のメニューと被るとは思っていなかった。
「ごめんなさい!まさか被ると思ってなくて」
「ううん。食べ比べると、やっぱり美奈子のカレーは美味しいと思ってさ。別物だから全然気にならない」
優しい笑顔で裕介は言う。
わざと嫌味を言う人ではない。
本当に美奈子のカレーを絶賛してくれたのが分かるから、手抜きした自分が恥ずかしくなった。
「今度から、給食のお便り私にもちょうだい。参考にしたいし」
「うん。でも美奈子の料理の方が凝ってるから参考にはならないと思うよ。毎日美味しい夕飯作ってくれてありがとうね」
裕介に優しい言葉を貰うたびに胸が苦しくなる。
分かっていたことなのに、自分の欲望に走ってしまった。
その反面、この優しさが恨めしくなる。
セックスレス以外には全く不満のない夫。この優しい素敵な夫を、今日、美奈子は裏切った。
本当は、裏切りたくなどなかったのに。と言い訳をしながら。
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