優しいあなたは罪な人

五嶋樒榴

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繋がる体と募る不安

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千秋が帰ってきて、美紅は食事をダイニングテーブルに並べながら、昼間に龍彦が来たことを話した。

「そうなんだよ。今うちの営業部の若手のエースは亘理だからな」

「昔の千秋さんみたいな感じ?」

「うーん、どうかな?あいつもいずれ美紅みたいな女性と結婚できたらもっと俺に近づけるかもな」

わざと上から目線で千秋が言うと美紅は笑う。
そして自分のことも褒めてくれたと美紅は思った。

「明日の土曜日は仕事?」

「取引先にはちょっと顔出す程度だけど、書類整理もあるから帰りは夕方かな」

「了解です!じゃあ、私は明日家にいるから、手の込んだ夕飯でも作ろうかな」

「楽しみにしてるよ」

いつもと変わらない会話。
夫婦として何も不満などない。
それなのに美紅を裏切り、会うことは二度としないとしながら、美奈子との関係をまだ続けたいと千秋は思っている。
美奈子が幸せになるまで見守りたいと言い訳をしながら、本当は美奈子の魅力から逃れられなくなっていた。

「千秋さん?」

美紅の声にハッとして美紅を見る。

「ああ、ごめん。急に明日の仕事思い出しちゃって、間違いがないかと考えてた」

また、嘘が増える。
美奈子と繋がりを持ち続ける以上、美紅に嘘をつき続けるんだと少しだけゾッとする。

「千秋さんらしいんだから。でもご飯もちゃんと食べてくださいね」

「ああ、ごめん」

美紅はもう食べ終わって先に食器を下げ始める。
千秋も残っているおかずとご飯を食べ終えると食器をキッチンに運んだ。

「美紅。今夜も一緒に風呂入ろう」

千秋が美紅を背後から抱きしめながら甘える。

「千秋さん、最近甘えん坊だぁ」

「ダメ?」

「ダメじゃないけど、ごめんね。始まっちゃったから」

生理が来たんだと千秋も察した。

「そっか。でも今回もまた来て良かった」

「え?」

子供ができない事をホッとしているようにも取れて、美紅は少しだけ複雑になる。
千秋は子供が欲しくないのかと思った。

「もう少し美紅を独り占めしたいから。子供できたら、絶対美紅は子供が1番になるでしょ」

千秋自身が子供みたいな事を言うので美紅は吹き出した。

「もう、千秋さん!自分の子供にまで嫉妬しないのッ!って今からこれじゃ不安だよー」

美紅の言葉に千秋は笑う。

「ごめんね。でも、もう少しだけ美紅と2人がいい。もっと美紅と2人だけで楽しみたい」

千秋の愛情を感じて、それはそれで嬉しい美紅。
そしてまだ25歳の美紅は、子供に対して焦りはなかった。
千秋が言うように、まだ2人での生活も楽しみたいと思った。
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