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その罪を許せるか許せないか
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土曜日がやって来て、美紅はよく使っていたスーパーで買い物を済ませると、千秋と住んでいたマンションの前まで来た。
毎日普通に帰って来ていた部屋に向かうのが、こんなに気が重いと思うのが美紅は辛かった。
それでも自分が決めた事だと思いなおすと、美紅は玄関の扉を開ける。
懐かしい香りにホッとしながらもなぜか落ち着かない。
靴を脱いでリビングに入ると、美紅はフッと息を吐いた。
思っていたより部屋は綺麗だった。
バルコニーへ出るガラス戸を開けて空気の入れ替えをすると、部屋干しがされている千秋の洗濯物を見つめた。
洗濯物をバルコニーに出すと、美紅は買ってきた物を冷蔵庫に入れ、リビングに掃除機をかけ始めた。
体を動かしていないと、ここに来た意味がないと思ってしまう。気を抜くと、どうしてこの部屋に自分がいるんだと我に返ってしまうのだ。
千秋と共に暮らしたこの部屋にいると、自分は何も悪くないと思いながらも千秋を不倫に走らせたのは、本当に自分には非がなかったのかと責めてしまう部分もある。
それでもまだ、千秋と真正面から向かい合いたいという気持ちが少しでも残っているなら、これは間違いではないと思い、美紅は部屋の掃除が全て終わるとキッチンに立って夕飯の支度を始める事にした。
千秋は美紅が本当にマンションに戻っているのか不安だったが、なるべく早くに仕事を終えてマンションへと急いだ。
美紅にいて欲しいと願いながら玄関の鍵を開ける。
玄関に美紅の靴が置いてあって千秋はホッとするが、どんな顔で会えばいいかと心臓はドキドキとし始めた。
なるべく普通に振る舞おうと、千秋ははやる気持ちを抑えてリビングへと入った。
「た、ただいま」
千秋がキッチンにいた美紅に声を掛けると、美紅は料理をしながら考え事をしていたので、ハッとして千秋の方へ顔を向けた。
「あ、おかえりなさい。早かったね」
美紅も緊張してしまい、直ぐに千秋から視線を外した。
「土曜日だし、書類をまとめてきただけだから」
千秋はなるべく笑顔になろうとする。
「もう少ししたらできるから、着替えてゆっくりしてて」
美紅の素っ気ない口調も仕方ないと思いながら、千秋はベッドルームへ向かい着替える事にした。
どんな会話をして良いものかずっと考えていたが、とりあえずどう謝るべきか、そのタイミングを外さない様にしなければと千秋は頭の中でグルグルと考えながらリビングに戻った。
ダイニングテーブルには、美紅が夕飯を並べ始めていた。
千秋が好きなとんかつとポテトサラダ、具沢山の味噌汁と言うメニューに千秋は嬉しくなる。
「一人じゃ野菜が足りなかったかと思って」
少し照れながら美紅は言う。
「うん、なんか凄く嬉しい。美紅が作ってくれるのももちろん嬉しいけど、俺のことを気にしてくれたのがすごく嬉しい」
千秋は笑顔で席に着くと、美紅はビールを出した。
二人はとりあえずビールを注いだグラスを重ねると、なんて言って良いか分からず黙ってしまった。
「お疲れ様」
「ありがとう」
美紅が労いの言葉を掛けると千秋はお礼の言葉を返し、二人はグラスに口を付けた。
サクサクに揚がったとんかつを食べていた千秋は涙が零れた。
久しぶりに美紅が作ってくれた温かい食事に、一気に罪悪感と後悔が溢れてきたのだ。
泣きながらとんかつを食べる千秋の姿に美紅は胸が締め付けられる。
「めっちゃ美味しい。やっぱり、美紅の料理、最高」
美紅の料理を食べながら千秋は泣き、自分がしてしまった過ちの深さを知った。
毎日普通に帰って来ていた部屋に向かうのが、こんなに気が重いと思うのが美紅は辛かった。
それでも自分が決めた事だと思いなおすと、美紅は玄関の扉を開ける。
懐かしい香りにホッとしながらもなぜか落ち着かない。
靴を脱いでリビングに入ると、美紅はフッと息を吐いた。
思っていたより部屋は綺麗だった。
バルコニーへ出るガラス戸を開けて空気の入れ替えをすると、部屋干しがされている千秋の洗濯物を見つめた。
洗濯物をバルコニーに出すと、美紅は買ってきた物を冷蔵庫に入れ、リビングに掃除機をかけ始めた。
体を動かしていないと、ここに来た意味がないと思ってしまう。気を抜くと、どうしてこの部屋に自分がいるんだと我に返ってしまうのだ。
千秋と共に暮らしたこの部屋にいると、自分は何も悪くないと思いながらも千秋を不倫に走らせたのは、本当に自分には非がなかったのかと責めてしまう部分もある。
それでもまだ、千秋と真正面から向かい合いたいという気持ちが少しでも残っているなら、これは間違いではないと思い、美紅は部屋の掃除が全て終わるとキッチンに立って夕飯の支度を始める事にした。
千秋は美紅が本当にマンションに戻っているのか不安だったが、なるべく早くに仕事を終えてマンションへと急いだ。
美紅にいて欲しいと願いながら玄関の鍵を開ける。
玄関に美紅の靴が置いてあって千秋はホッとするが、どんな顔で会えばいいかと心臓はドキドキとし始めた。
なるべく普通に振る舞おうと、千秋ははやる気持ちを抑えてリビングへと入った。
「た、ただいま」
千秋がキッチンにいた美紅に声を掛けると、美紅は料理をしながら考え事をしていたので、ハッとして千秋の方へ顔を向けた。
「あ、おかえりなさい。早かったね」
美紅も緊張してしまい、直ぐに千秋から視線を外した。
「土曜日だし、書類をまとめてきただけだから」
千秋はなるべく笑顔になろうとする。
「もう少ししたらできるから、着替えてゆっくりしてて」
美紅の素っ気ない口調も仕方ないと思いながら、千秋はベッドルームへ向かい着替える事にした。
どんな会話をして良いものかずっと考えていたが、とりあえずどう謝るべきか、そのタイミングを外さない様にしなければと千秋は頭の中でグルグルと考えながらリビングに戻った。
ダイニングテーブルには、美紅が夕飯を並べ始めていた。
千秋が好きなとんかつとポテトサラダ、具沢山の味噌汁と言うメニューに千秋は嬉しくなる。
「一人じゃ野菜が足りなかったかと思って」
少し照れながら美紅は言う。
「うん、なんか凄く嬉しい。美紅が作ってくれるのももちろん嬉しいけど、俺のことを気にしてくれたのがすごく嬉しい」
千秋は笑顔で席に着くと、美紅はビールを出した。
二人はとりあえずビールを注いだグラスを重ねると、なんて言って良いか分からず黙ってしまった。
「お疲れ様」
「ありがとう」
美紅が労いの言葉を掛けると千秋はお礼の言葉を返し、二人はグラスに口を付けた。
サクサクに揚がったとんかつを食べていた千秋は涙が零れた。
久しぶりに美紅が作ってくれた温かい食事に、一気に罪悪感と後悔が溢れてきたのだ。
泣きながらとんかつを食べる千秋の姿に美紅は胸が締め付けられる。
「めっちゃ美味しい。やっぱり、美紅の料理、最高」
美紅の料理を食べながら千秋は泣き、自分がしてしまった過ちの深さを知った。
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