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その罪を許せるか許せないか
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美紅は風呂から上がり、久しぶりにベッドルームに入った。
先に風呂から上がっていた千秋は、ベッドの上で横になっている。
「……美紅」
千秋に声をかけられて美紅は足がすくむ。
ベッドまで数歩なのに、その距離が遠く感じる。
「無理しなくても良いよ。美紅が決心つかないなら、俺は待つから」
美紅は考えた。
決心がいつつくのだろうと。
毎日一緒に暮らしたとしても、千秋を本当に許せる日は来ないと思った。
それなら、結婚して一年という区切りで、千秋と自分の関係をリセットして、新しい気持ちでリスタートしたい。
「ううん。大丈夫だよ」
美紅はそう言ってベッドに近付いた。
千秋に背を向けたままベッドに横になる。
ドキンドキンと痛いぐらいに胸がうるさい。
不安と恐怖に美紅は体が動かない。
「美紅」
背中合わせの背中越しに千秋の声が聞こえる。
美紅はドキドキが止まらなくて声が出せない。
「一緒のベッドに寝てくれて嬉しい。また美紅が少しだけ近くなった」
千秋はそう言って微妙な距離を保つ。
本当は美紅を抱きしめたい。
「……俺、すっげー震えてる。美紅が隣にいてくれて。美紅を抱きしめたくて仕方ないのに、なんでこんなに落ち着かないのかな」
千秋は振り向きたくて仕方ない。
「……美紅。抱きしめたい。ごめん。我慢できそうにない」
千秋が振り向くのが動きでわかる。
美紅は声が出ない。
どう答えて良いか分からない。
同じベッドで寝るということは、こういう事になるのも多少は覚悟していた。
「美紅」
千秋は美紅の背後から抱きしめた。
美紅の香り。美紅の体温。
失ってしまった美紅を、再び腕の中に入れることができて、千秋は抱きしめる腕の力が強くなる。
「美紅、愛してる。本当に、本当に」
美紅の首筋に千秋の息がかかる。
千秋の力強い腕に抱かれ、千秋を感じて。
「……ッ!」
美紅の押し殺す声に千秋はハッとした。
美紅が泣いている。
「美紅?」
千秋がびっくりして腕を離すと、美紅はゆっくり起き上がった。
「やっぱりダメ。やっぱり無理」
美紅はポロポロと涙を流す。
「一度だけって思っても、やっぱり嫌なの。千秋さんがあの人とLINを続けていたことが許せないの。私に見せない顔をあの人に見せていたのが嫌なの。許そうと思った。一度だけならって。千秋さんを好きなら許さないとダメだって。でもやっぱり許せない」
美紅から一気に言葉が溢れてくる。
どうしても千秋と美奈子の関係を無かった事には出来なかった。
「ごめん!本当にごめん!美紅を苦しめてごめん!ごめん!」
そんな陳腐な言葉しか千秋の口からは出てこない。
もう本当に無理なのかと、千秋は自分のした事に後悔しながら、ベッドのシーツに額を擦り付けて美紅に謝罪した。
先に風呂から上がっていた千秋は、ベッドの上で横になっている。
「……美紅」
千秋に声をかけられて美紅は足がすくむ。
ベッドまで数歩なのに、その距離が遠く感じる。
「無理しなくても良いよ。美紅が決心つかないなら、俺は待つから」
美紅は考えた。
決心がいつつくのだろうと。
毎日一緒に暮らしたとしても、千秋を本当に許せる日は来ないと思った。
それなら、結婚して一年という区切りで、千秋と自分の関係をリセットして、新しい気持ちでリスタートしたい。
「ううん。大丈夫だよ」
美紅はそう言ってベッドに近付いた。
千秋に背を向けたままベッドに横になる。
ドキンドキンと痛いぐらいに胸がうるさい。
不安と恐怖に美紅は体が動かない。
「美紅」
背中合わせの背中越しに千秋の声が聞こえる。
美紅はドキドキが止まらなくて声が出せない。
「一緒のベッドに寝てくれて嬉しい。また美紅が少しだけ近くなった」
千秋はそう言って微妙な距離を保つ。
本当は美紅を抱きしめたい。
「……俺、すっげー震えてる。美紅が隣にいてくれて。美紅を抱きしめたくて仕方ないのに、なんでこんなに落ち着かないのかな」
千秋は振り向きたくて仕方ない。
「……美紅。抱きしめたい。ごめん。我慢できそうにない」
千秋が振り向くのが動きでわかる。
美紅は声が出ない。
どう答えて良いか分からない。
同じベッドで寝るということは、こういう事になるのも多少は覚悟していた。
「美紅」
千秋は美紅の背後から抱きしめた。
美紅の香り。美紅の体温。
失ってしまった美紅を、再び腕の中に入れることができて、千秋は抱きしめる腕の力が強くなる。
「美紅、愛してる。本当に、本当に」
美紅の首筋に千秋の息がかかる。
千秋の力強い腕に抱かれ、千秋を感じて。
「……ッ!」
美紅の押し殺す声に千秋はハッとした。
美紅が泣いている。
「美紅?」
千秋がびっくりして腕を離すと、美紅はゆっくり起き上がった。
「やっぱりダメ。やっぱり無理」
美紅はポロポロと涙を流す。
「一度だけって思っても、やっぱり嫌なの。千秋さんがあの人とLINを続けていたことが許せないの。私に見せない顔をあの人に見せていたのが嫌なの。許そうと思った。一度だけならって。千秋さんを好きなら許さないとダメだって。でもやっぱり許せない」
美紅から一気に言葉が溢れてくる。
どうしても千秋と美奈子の関係を無かった事には出来なかった。
「ごめん!本当にごめん!美紅を苦しめてごめん!ごめん!」
そんな陳腐な言葉しか千秋の口からは出てこない。
もう本当に無理なのかと、千秋は自分のした事に後悔しながら、ベッドのシーツに額を擦り付けて美紅に謝罪した。
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