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前に進む勇気
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龍彦が仕事から帰り、部屋へ着替えに行っている間に、美紅は甲斐甲斐しく龍彦の夕飯をテーブルに並べていた。
「あー、腹減った。昼間忙しくてサンドイッチしか食ってなかったんだよね」
ガタガタと龍彦はダイニングテーブルの椅子に腰掛け、美紅は冷蔵庫からビールを出してあげた。
「沙優も珍しく飲み会なんて言ってくるから驚いた」
美紅とビールで乾杯して、龍彦は飲み会の話を振る。
「それは、私に気を遣ってくれたみたい」
「ん?どう言う意味?」
龍彦は、沙優が美紅に気を遣って飲み会をする事が有るのかと不思議になる。
美紅の様子がおかしかった事に、当の龍彦は気付いていなかった。
「最近、何か心配事ある?」
美紅が龍彦に尋ねる。
「ちょっと待って、なんか話が変わってない?美紅を気遣って飲み会するって話はどこ行った?」
話が全く見えなくて、龍彦は美紅が何を言いたいのか分からない。
「たっ君の様子が変で、ずっと私気になってたの。そんな私を見てて、沙優さんが心配してくれてたんだよ」
美紅の説明に、龍彦は胸がズキッとする。
千秋と美奈子の事を気にするあまり、美紅が龍彦に対して心配していた事に気付いていなかった。
「だから、それは仕事が忙しくて」
「昼もちゃんと食べられないほどだものね」
美紅の言い方に、龍彦は何も言い返せなくなる。
確かに仕事は忙しい。
だが、それが原因ではない事を、美紅が何となく感じているのも分かった。
「仕事のことだけなら気にしない。でも、もしかして、人間関係で何かあるのかと思って」
鋭いと龍彦はギクリとして、どう答えようかと疲れている頭をフル回転させる。
このまま秘密にしておくより、いっそ打ち明けて、安心させた方が良いかと思った。
だが問題は、美奈子が龍彦に好意を持っている事だった。
美紅がもしそれを知ってしまい、再び美奈子の存在に苦しめられるのでないかと考えると、どうすれば良いか龍彦も葛藤する。
「……私が西川さんと電話をしてから、たっ君の様子が変わったよね」
「え?」
もうその話は解決したんじゃないかと龍彦は思って美紅を見る。
「いつまでも西川さんの電話と繋がっていたのが、たっ君にしてみたら面白くないよね」
言ってから美紅はハッとして俯く。
意地悪な言い方をしてしまったかと美紅は恥ずかしくなる。
「違う。そんな事はどうだって良いよ」
「そんな事?じゃあ、他に何をたっ君は気にしているの?」
「いや、別に、本当に俺は仕事のことがいっぱいいっぱいなだけだよ」
どうすれば美紅が納得するのかと、どう答えるのが正解かを龍彦は考える。
「だって、千秋さんから電話が来てからおかしくなったんだもん!本当は千秋さんと何かあったのかと気になるよッ」
「そうじゃないんだよ。本当に、西川さんと何もない」
堂々巡りだと龍彦はため息をつく。
どうして美紅とこんな事で口論になるのか、美紅を納得させるにはどうすれば良いか考えるしかない。
龍彦の真剣な顔に美紅はため息をついた。
「私が変に勘ぐってるだけなのかもね。たっ君に嫌な思いさせてごめん」
「だから、本当に違うんだよ」
龍彦は、どう言えば美紅が安心するのか分からない。
お互いの気持ちだけがすれ違う。
美紅も、こんな事を話したいわけじゃないのにと、冷静にならなければと息を吐いた。
「あー、腹減った。昼間忙しくてサンドイッチしか食ってなかったんだよね」
ガタガタと龍彦はダイニングテーブルの椅子に腰掛け、美紅は冷蔵庫からビールを出してあげた。
「沙優も珍しく飲み会なんて言ってくるから驚いた」
美紅とビールで乾杯して、龍彦は飲み会の話を振る。
「それは、私に気を遣ってくれたみたい」
「ん?どう言う意味?」
龍彦は、沙優が美紅に気を遣って飲み会をする事が有るのかと不思議になる。
美紅の様子がおかしかった事に、当の龍彦は気付いていなかった。
「最近、何か心配事ある?」
美紅が龍彦に尋ねる。
「ちょっと待って、なんか話が変わってない?美紅を気遣って飲み会するって話はどこ行った?」
話が全く見えなくて、龍彦は美紅が何を言いたいのか分からない。
「たっ君の様子が変で、ずっと私気になってたの。そんな私を見てて、沙優さんが心配してくれてたんだよ」
美紅の説明に、龍彦は胸がズキッとする。
千秋と美奈子の事を気にするあまり、美紅が龍彦に対して心配していた事に気付いていなかった。
「だから、それは仕事が忙しくて」
「昼もちゃんと食べられないほどだものね」
美紅の言い方に、龍彦は何も言い返せなくなる。
確かに仕事は忙しい。
だが、それが原因ではない事を、美紅が何となく感じているのも分かった。
「仕事のことだけなら気にしない。でも、もしかして、人間関係で何かあるのかと思って」
鋭いと龍彦はギクリとして、どう答えようかと疲れている頭をフル回転させる。
このまま秘密にしておくより、いっそ打ち明けて、安心させた方が良いかと思った。
だが問題は、美奈子が龍彦に好意を持っている事だった。
美紅がもしそれを知ってしまい、再び美奈子の存在に苦しめられるのでないかと考えると、どうすれば良いか龍彦も葛藤する。
「……私が西川さんと電話をしてから、たっ君の様子が変わったよね」
「え?」
もうその話は解決したんじゃないかと龍彦は思って美紅を見る。
「いつまでも西川さんの電話と繋がっていたのが、たっ君にしてみたら面白くないよね」
言ってから美紅はハッとして俯く。
意地悪な言い方をしてしまったかと美紅は恥ずかしくなる。
「違う。そんな事はどうだって良いよ」
「そんな事?じゃあ、他に何をたっ君は気にしているの?」
「いや、別に、本当に俺は仕事のことがいっぱいいっぱいなだけだよ」
どうすれば美紅が納得するのかと、どう答えるのが正解かを龍彦は考える。
「だって、千秋さんから電話が来てからおかしくなったんだもん!本当は千秋さんと何かあったのかと気になるよッ」
「そうじゃないんだよ。本当に、西川さんと何もない」
堂々巡りだと龍彦はため息をつく。
どうして美紅とこんな事で口論になるのか、美紅を納得させるにはどうすれば良いか考えるしかない。
龍彦の真剣な顔に美紅はため息をついた。
「私が変に勘ぐってるだけなのかもね。たっ君に嫌な思いさせてごめん」
「だから、本当に違うんだよ」
龍彦は、どう言えば美紅が安心するのか分からない。
お互いの気持ちだけがすれ違う。
美紅も、こんな事を話したいわけじゃないのにと、冷静にならなければと息を吐いた。
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