優しいあなたは罪な人

五嶋樒榴

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前に進む勇気

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しばらく無言が続き、龍彦はただビールを喉に流し込んでいた。

「私たち、付き合う時に嘘も秘密も無しにしようって言ったよね。確かに言いづらいことってあるかもしれないけど、千秋さんから電話が来たことも、どう言えば良いか悩んだけどたっ君に秘密にしたくなかった。でもそれで、たっ君に不快な思いをさせてたんでしょ?」

正直に話すことだけが全てじゃなかったのかと美紅は後悔した。
でも龍彦とは、どんなことでもちゃんと話し合いたいと思った。

「……違うんだよ。確かに西川さんに、美紅にもう二度と連絡をしないでくれとは言ったよ。だけどそれで西川さんと関係が悪くなっている訳でもない。信じて欲しい」

「……信じてないわけじゃないよ」

ずるい言い方をしていると、龍彦も自分自身でよく分かっている。
そして、美紅を不安にさせてしまったことも、そんな態度に出ていたことも反省したが、もう、千秋との事以前の問題だった。
どうすれば、美紅を傷つけないのか。
美奈子と偶然出会い、美奈子から好意を寄せられても、美奈子が千秋と不倫していなければこんな事を悩む必要はなかった。
美奈子の存在は美紅にとっては劇薬なのだ。
千秋から頼まれたからだけじゃない。
龍彦が美奈子の存在を美紅に知られたくなかった。

「西川さんのことで不安にさせてごめん。でも本当に西川さんとの間で、美紅が気にすることは何もないよ。本当だよ」

千秋のことでは、本当に何もない。美紅に嘘もついてはいない。
ただ美奈子の存在を隠していることは美紅に嘘をついている。それは正直ジレンマだった。
そして千秋のことではないときっぱり否定する龍彦に、美紅ももう信じるしかないと思った。
まさか龍彦の近くに美奈子がいるとは全く想像もしていない。

「たっ君、ごめんね。料理冷めちゃったね」

龍彦の食事が進んでいない事に美紅は恐縮する。
食事が済むまで、話すべきではなかったのにと美紅は後悔した。

「ううん。冷めても美紅の料理は美味しいから」

龍彦がにっこり笑うと、美紅はフッと息を吐いて微笑む。

「絹子に言われた。私がたっ君を好きすぎるから、余計なこと考えすぎなんだって」

「それって、俺的に嬉しかったりするけど?」

美紅はプッと吹き出して笑う。

「みんなと飲み会、楽しみだね」

「だな。久しぶりだしね」

いつものような会話に戻り、龍彦は再び食事を始めた。
美紅は考えすぎだったのかと反省しながら、聞きたいことが聞けたことにひとまずホッとした。
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