優しいあなたは罪な人

五嶋樒榴

文字の大きさ
159 / 195
前に進む勇気

15

しおりを挟む
しばらく無言が続き、龍彦はただビールを喉に流し込んでいた。

「私たち、付き合う時に嘘も秘密も無しにしようって言ったよね。確かに言いづらいことってあるかもしれないけど、千秋さんから電話が来たことも、どう言えば良いか悩んだけどたっ君に秘密にしたくなかった。でもそれで、たっ君に不快な思いをさせてたんでしょ?」

正直に話すことだけが全てじゃなかったのかと美紅は後悔した。
でも龍彦とは、どんなことでもちゃんと話し合いたいと思った。

「……違うんだよ。確かに西川さんに、美紅にもう二度と連絡をしないでくれとは言ったよ。だけどそれで西川さんと関係が悪くなっている訳でもない。信じて欲しい」

「……信じてないわけじゃないよ」

ずるい言い方をしていると、龍彦も自分自身でよく分かっている。
そして、美紅を不安にさせてしまったことも、そんな態度に出ていたことも反省したが、もう、千秋との事以前の問題だった。
どうすれば、美紅を傷つけないのか。
美奈子と偶然出会い、美奈子から好意を寄せられても、美奈子が千秋と不倫していなければこんな事を悩む必要はなかった。
美奈子の存在は美紅にとっては劇薬なのだ。
千秋から頼まれたからだけじゃない。
龍彦が美奈子の存在を美紅に知られたくなかった。

「西川さんのことで不安にさせてごめん。でも本当に西川さんとの間で、美紅が気にすることは何もないよ。本当だよ」

千秋のことでは、本当に何もない。美紅に嘘もついてはいない。
ただ美奈子の存在を隠していることは美紅に嘘をついている。それは正直ジレンマだった。
そして千秋のことではないときっぱり否定する龍彦に、美紅ももう信じるしかないと思った。
まさか龍彦の近くに美奈子がいるとは全く想像もしていない。

「たっ君、ごめんね。料理冷めちゃったね」

龍彦の食事が進んでいない事に美紅は恐縮する。
食事が済むまで、話すべきではなかったのにと美紅は後悔した。

「ううん。冷めても美紅の料理は美味しいから」

龍彦がにっこり笑うと、美紅はフッと息を吐いて微笑む。

「絹子に言われた。私がたっ君を好きすぎるから、余計なこと考えすぎなんだって」

「それって、俺的に嬉しかったりするけど?」

美紅はプッと吹き出して笑う。

「みんなと飲み会、楽しみだね」

「だな。久しぶりだしね」

いつものような会話に戻り、龍彦は再び食事を始めた。
美紅は考えすぎだったのかと反省しながら、聞きたいことが聞けたことにひとまずホッとした。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

理想の『女の子』を演じ尽くしましたが、不倫した子は育てられないのでさようなら

赤羽夕夜
恋愛
親友と不倫した挙句に、黙って不倫相手の子供を生ませて育てさせようとした夫、サイレーンにほとほとあきれ果てたリリエル。 問い詰めるも、開き直り復縁を迫り、同情を誘おうとした夫には千年の恋も冷めてしまった。ショックを通りこして吹っ切れたリリエルはサイレーンと親友のユエルを追い出した。 もう男には懲り懲りだと夫に黙っていたホテル事業に没頭し、好きな物を我慢しない生活を送ろうと決めた。しかし、その矢先に距離を取っていた学生時代の友人たちが急にアピールし始めて……?

処理中です...