優しいあなたは罪な人

五嶋樒榴

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前に進む勇気

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詠悟は沙優の気持ちを汲み取って裕介に電話をする。

「もしもし。突然悪いな」

『いえ、大丈夫ですよ』

直ぐに裕介は電話に出た。

「あのさ、変なこと聞くけど、裕介の元嫁って美奈子って言ったよね?」

詠悟の声は冷静だった。ただ、どうして美奈子のことを今更詠悟が尋ねるのか、裕介は何があったのかとスマホで通話をしながらキョトンとする。

『……ええ。でもどうしたんです?突然』

「ちょっと気になってね。みなちゃんの旧姓なんだっけ。あと、お前が離婚した後に飲んだ時に、その浮気相手とも会ったことがあると言ってたよな?なんて奴?」

裕介が浮気相手の男と会っていたと知り美紅はさらに驚く。千秋じゃない事を祈った。

『詠悟さん?本当にどうしたんですか?』

流石に裕介も不安になる。
こんな事を詳しく聞かれたのはもちろん初めてだった。

「頼む。早く教えてくれ」

詠悟も焦ったくなる。

『美奈子の旧姓は川瀬です。相手の男は、西川千秋と言う名前です』

訳が分からないまま、詠悟に促されて裕介は答えた。

「川瀬。で、西川千秋だな」

詠悟の声に美紅は頭の中が真っ白になる。
川瀬という苗字も千秋から聞かされた通りだった。
そして千秋が裕介と会ったことがあることに、美紅を抜きにして三人で話し合ったのかと思った。
こんな残酷な出会いがあるのかと、美紅は泣きそうな顔で沙優を見た。

「美紅ちゃん。裕介さんの元奥さんて、やっぱりそうだったの?」

沙優が尋ねると、美紅は泣きそうな顔で頷いた。
詠悟は通話口を指で塞いで美紅の顔を見る。

「裕介を呼ぶかい?」

「待って叔父さん!裕介さんだって美紅ちゃん同様心の準備が必要じゃない?」

沙優が庇うように言うと、美紅は沙優に笑顔を向ける。

「できれば裕介さんとちゃんと話がしたいです。裕介さんだって、突然こんな電話をもらって気になるでしょうから」

美紅がしっかりとした口調だったので、詠悟も美紅の考えに賛成だった。

「悪い、待たせたな」

詠悟が再び裕介に話しかける。

『いえ。何かあったんですか?いつもと違うし』

「悪いが、時間があれば今から来てくれないか?」

『あの、どうしたんですか?』

「……美紅ちゃんは、お前が会ったことがある西川って男と結婚してたんだよ」

詠悟の言葉に裕介は、信じられないと凍りついた。

「もしちゃんと話ができるようなら来て欲しい。美紅ちゃんもそれを望んでる」

『……分かりました。直ぐに伺います。僕も、西川さんの奥さんのことはずっと気になっていたので』

裕介はそう言ってスマホの通話を切る。
まさか、美紅とこんな風に出会っていたとは想像もしていなかった。
運命の悪戯に翻弄されていようが、全てをはっきりさせようと、裕介は急ぎ詠悟の家に向かった。
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