六本木の鴉-カラス-(鳴かない杜鵑 episode2)

五嶋樒榴

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quattro

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ジュリに親しくしてきた男子高校生が、予備校に来なくなった。
ジュリは特に気にもしていなかったが、その高校生と仲良くしていた連中はコソコソと、しかしジュリにも聞こえる声で話をしていた。

健志たけしの奴、入院したみたいだよ。友達が見舞いに行ったけど、健志のお母さんに会わせてもらえなかったらしい。なんの病気か分からないけど、勉強のし過ぎで体壊したレベルじゃない感じする」

「最近顔色悪い時あったもんな。大丈夫かな」

ジュリは聞こえていても無反応だった。
これからいよいよ入試が始まると言うのに、その体調管理もできないようでは仕方ないとジュリは同情もしない。
予備校の授業が全て終わると、ジュリはさっさと教室を出た。

「待ってよ!伊丹さん!」

健志の側によく付いていた女子高生がジュリを呼び止めた。

「何?」

ジュリは面倒臭そうに女子高生を見た。

「今から健志のお見舞いに行くの。一緒に来てくれない?」

はぁ?と言う顔でジュリは女子高生を見た。

「なんで僕が?僕には関係ない。知り合い以下のレベルだ」

ジュリはそう言い放つと予備校の出口へ向かった。

「健志、死んじゃうかも!本当にヤバい病気なの!健志、伊丹さんのこと」

「ストップ。それ、あんたが言うことじゃないでしょ?それこそあんたはそいつのこと好きなら、僕に余計なこと言っている暇があるなら、さっさと見舞いに行けば良いじゃない」

冷たくあしらうと女子高生はなおもジュリにすがる。

「私だって、こんなこと頼みたくないよ!でも、健志があんたの名前呼んでるって聞いて!お願い!伊丹さんを見たら元気になるかも!」

女子高生が大声で叫ぶのでギャラリーが増えてしまった。
ジュリは仕方なく、渋々女子高生と健志が入院する病院に向かった。
健志が入院している個室のドアを叩くと、健志の母親が出てきた。

「おばさん!健志は?」

健志の母親は憔悴しきっていた。

「もうほとんど意識がないの。なんでこんなことに!どうして高校生のあの子が劇症肝炎なんて!何が原因か、もう!」

取り乱す母親にジュリは何も声が掛けられなかった。

「健志に会える?」

女子高生が言うと健志の母親は躊躇ったが、女子高生とジュリを病室に入れてくれた。

「こちらのお嬢さん、初めてよね?」

健志の母はジュリをジッと見つめた。

「初めまして。伊丹ジュリです」

ジュリが名前を言って挨拶をすると健志の母は顔を和らげた。
最愛の息子が、朧げに意識がある時に呼んだ名前の女の子が目の前の美少女と分かり、来てくれて嬉しい反面、意識のない息子が不憫だった。

「生体肝移植の準備をしているんだけど、間に合うか分からなくて不安なのよ」

落ち着かない様子で母親は言う。
ジュリは健志に近づく。
黄疸がひどく、体中が浮腫んでいた。
声をかけようにも、なんと言って良いか分からない。

「健志!健志!私だよ!美和だよ!」

女子高生が懸命に呼びかける。

「伊丹さんも声かけてよ!」

女子高生が泣きながら言う。
ジュリはどうして良いか分からないまま、健志の手を握ってみた。

「伊丹です。伊丹ジュリです。聞こえてる?健志君」

ジュリは静かな口調だったが、ジュリの声が聞こえたのか健志はピクリと手を動かした。
ただ、本当に聞こえていたかは分からない。不随意運動だったかもしれない。
長時間の見舞いは迷惑だと思い健志の母親に挨拶をすると、女子高生とジュリは病院を出た。

「……付いてきてくれてありがとう。じゃあ」

元気なく女子高生は帰って行った。
ジュリはその後ろ姿を見て、病院を見つめた。
原因不明の劇症肝炎と聞いたが、ちょっと前まで元気だったのにとジュリも少しだけ気になってきてしまった。 
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