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真幸は工の腕を握り、寺の駐車場に来た。空港でレンタカーを借りここまで来たのだった。
「乗れ」
真幸は工を助手席に乗せ、自分は運転席に座る。
「さっき言ったよな。真春は生きる希望だって。死にたいと思っていたのに、そんな希望見つけちまったら、そりゃ苦しむわな。でもそれだけ真春が好きなんだろ。死んだ恋人だった男よりも。いい加減認めろや」
真幸が諭すように言う。
「…………真春さんのこと、最初はマジにウザいと思っていました。でも側にいるうちに、頭に忠誠を誓いながら、実は真春さんを見ていたと気がついた。でも認めたくなかった。真春さんを乙也より愛してしまうのが怖かったんです。俺のせいで乙也は苦しんで死んでいったのに、生き残ってる俺が乙也を忘れるのが怖かったんです」
観念したように工は言葉を発する。
真幸は車のエンジンをかけた。
「俺はお前に抱かれたいと思いながら、どうしても奴が忘れられなかった。そしてお前も失った男を忘れられなかった。どこかで分かってたんだ。お前は絶対俺を抱かないと。俺に対しては我慢できる奴なんだって。でも真春は違ったんだろ?我慢できないから遠ざけ続けた。嫌われるようにしていた。全て奴には効果なかったがな」
呆れたように笑い真幸は言う。
「そうですね。全く効果が無かった。本当に嫌になりました。それなのに腹が立つほど俺は真春さんに惹かれた。その存在が脅威だった。ダメだと言い聞かせないと自分を保てなかった」
真幸は工の言い分を聞きながら、段々惚気にしか聞こえなくなっていた。
「乙也は俺の全てです。それなのにその乙也を守れなかった。真春さんを守ろうと必死だったのは、自分のためもあったんです。もう二度と愛する人を失いたく無かった。腹を刺された時、死にたくないと思った時、俺は真春さんから逃げなくてはと思いました。真春さんを愛していると認めたら、俺の乙也への愛が終わってしまう。俺はただの欲望の塊になる。そんな卑しい自分になりたく無かった。全ては自分が傷つきたくない、ただの俺のエゴです」
「饒舌だな」
真幸はそう言って笑う。
「そのエゴのために、お前は死のうとしたんだろ?残される真春がお前と同じように後悔しながら生きていくのを望んでいたんだろ?」
真幸の言葉を否定できない。だが、全てを肯定もできなかった。
「時間が経てば、俺のことなんて忘れますよ。元々真春さんは男が好きなわけでもない。俺がいなくなればまた女に興味を持つでしょうし」
「それ、お前が言うか?」
「え?」
真幸の言っていることが工は理解できない。
「時間が経って、お前は乙也を忘れたのか?お前は忘れないのに、なんで真春は忘れるって言い切れる?自分のせいでお前が死んだら、あいつはお前のように残りの人生を生きるって思わないのか?」
工はそれを聞いて黙る。
「確かにお前は乙也と恋人同士だった。真春とは違う。真春はお前と付き合ってもいねーしな。だけどさ、付き合ってるとか、身体の関係が有るとか、そう言うもんじゃねーだろ。あいつはお前を愛してる。それが全てだ」
真幸は言い終えると黙った。工も何も言う事がなく黙ったまま。
ふたりはそのまま秋田空港まで戻ってきた。
レンタカーを返し、次の東京行きの時刻をチェックする。
「最後のチャンスだ。一緒に東京に帰るか、このままここで別れるか。お前が決めろ」
突き放すでもなく真幸は言った。
工は真っ直ぐな目で真幸を見る。
「…………俺は、生きます。もう死を選ばない。真春さんともちゃんと向き合います。でも、俺は、真春さんとお別れします。真春さんを愛してるから、真春さんに幸せになってもらいたいから」
工の言葉に真幸は笑う。
「お前の好きにしろ。お前が死なないなら、あいつもお前と別れられるだろ」
工が頷くと、真幸はふたり分のチケットを購入した。
ふたりを乗せた飛行機は一路東京へと向かった。
「乗れ」
真幸は工を助手席に乗せ、自分は運転席に座る。
「さっき言ったよな。真春は生きる希望だって。死にたいと思っていたのに、そんな希望見つけちまったら、そりゃ苦しむわな。でもそれだけ真春が好きなんだろ。死んだ恋人だった男よりも。いい加減認めろや」
真幸が諭すように言う。
「…………真春さんのこと、最初はマジにウザいと思っていました。でも側にいるうちに、頭に忠誠を誓いながら、実は真春さんを見ていたと気がついた。でも認めたくなかった。真春さんを乙也より愛してしまうのが怖かったんです。俺のせいで乙也は苦しんで死んでいったのに、生き残ってる俺が乙也を忘れるのが怖かったんです」
観念したように工は言葉を発する。
真幸は車のエンジンをかけた。
「俺はお前に抱かれたいと思いながら、どうしても奴が忘れられなかった。そしてお前も失った男を忘れられなかった。どこかで分かってたんだ。お前は絶対俺を抱かないと。俺に対しては我慢できる奴なんだって。でも真春は違ったんだろ?我慢できないから遠ざけ続けた。嫌われるようにしていた。全て奴には効果なかったがな」
呆れたように笑い真幸は言う。
「そうですね。全く効果が無かった。本当に嫌になりました。それなのに腹が立つほど俺は真春さんに惹かれた。その存在が脅威だった。ダメだと言い聞かせないと自分を保てなかった」
真幸は工の言い分を聞きながら、段々惚気にしか聞こえなくなっていた。
「乙也は俺の全てです。それなのにその乙也を守れなかった。真春さんを守ろうと必死だったのは、自分のためもあったんです。もう二度と愛する人を失いたく無かった。腹を刺された時、死にたくないと思った時、俺は真春さんから逃げなくてはと思いました。真春さんを愛していると認めたら、俺の乙也への愛が終わってしまう。俺はただの欲望の塊になる。そんな卑しい自分になりたく無かった。全ては自分が傷つきたくない、ただの俺のエゴです」
「饒舌だな」
真幸はそう言って笑う。
「そのエゴのために、お前は死のうとしたんだろ?残される真春がお前と同じように後悔しながら生きていくのを望んでいたんだろ?」
真幸の言葉を否定できない。だが、全てを肯定もできなかった。
「時間が経てば、俺のことなんて忘れますよ。元々真春さんは男が好きなわけでもない。俺がいなくなればまた女に興味を持つでしょうし」
「それ、お前が言うか?」
「え?」
真幸の言っていることが工は理解できない。
「時間が経って、お前は乙也を忘れたのか?お前は忘れないのに、なんで真春は忘れるって言い切れる?自分のせいでお前が死んだら、あいつはお前のように残りの人生を生きるって思わないのか?」
工はそれを聞いて黙る。
「確かにお前は乙也と恋人同士だった。真春とは違う。真春はお前と付き合ってもいねーしな。だけどさ、付き合ってるとか、身体の関係が有るとか、そう言うもんじゃねーだろ。あいつはお前を愛してる。それが全てだ」
真幸は言い終えると黙った。工も何も言う事がなく黙ったまま。
ふたりはそのまま秋田空港まで戻ってきた。
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「最後のチャンスだ。一緒に東京に帰るか、このままここで別れるか。お前が決めろ」
突き放すでもなく真幸は言った。
工は真っ直ぐな目で真幸を見る。
「…………俺は、生きます。もう死を選ばない。真春さんともちゃんと向き合います。でも、俺は、真春さんとお別れします。真春さんを愛してるから、真春さんに幸せになってもらいたいから」
工の言葉に真幸は笑う。
「お前の好きにしろ。お前が死なないなら、あいつもお前と別れられるだろ」
工が頷くと、真幸はふたり分のチケットを購入した。
ふたりを乗せた飛行機は一路東京へと向かった。
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