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真幸はマンションに着くと、ソファに腰掛けて頭を抱える工を見ながら真春に電話をかけた。
『工、見つかって良かった。直ぐに行きます』
電話を切ると真幸は工に真春の言葉を伝えた。
「この先どうするかはてめぇで決めろ。もう俺はお前を飼うつもりはねぇ。五島組に戻るのか、この世界から足を洗うのか。どうせお前はまだ五島のオジキとも盃交わしてねぇんだ。この世界から消えるのが一番なんじゃねーの?」
真幸の言葉を聞き終え工は頷く。
「はい。カタギの生活に戻ります。この世界にいた事を全て忘れたい。この先は、ただ乙也を弔って生きていきます」
真幸は工の心情を聞きながら笑う。
「いっそ坊さんにでもなれば?お前は初めからそっちの道に進むべきだったんだよ。何を間違えて、ヤクザなんかの世界に飛びこんじまって」
「本当ですね。犯罪者でも引き受けてくれる所があるんでしょうかね。実際はもう何人も殺してるのに。でも、探してみます」
真面目に工が答えるので、真幸は腹を抱えて笑う。
「真顔で言うことか!ったく、笑わせんな。でもお前の坊主頭、似合いそうだな」
工は不思議だった。こんな状況で自然に会話が出来ることに。
でも、初めて真幸と出会った時から、たまにこんな風に自然と会話が出来ていたなと思い出した。
「頭は俺の恩人です。あなたがいたから、俺は死ぬのが怖くなかった。あなたに忠誠を誓ったことで、この命を捧げるのも惜しくなかった」
工の告白に真幸は呆れる。
「死ぬ為に一緒にいたと言われてるようだな。まぁ良いけどさ。お前が生きる事を決めたんなら、俺のそばに置いていた意味もあったって事だろ」
真幸のそばにいたから、真春と出会った。
死を選んでいた男が生きる希望を持ったことに、真幸なりに良かったと思う。
インターホンが鳴り、真春が到着した事が分かると、工は一気に緊張して身構える。
「…………お待ちかねの王子様の到着だ」
真幸は玄関に向かった。
もう逃げないと、工は目を瞑って真春が目の前に現れるのを待った。
「工!」
真春の慌てた声に工はゆっくりと目を開いた。
「工!無事で良かった!本当に、良かった!」
真春が工に近づこうとするのを、工は腕を伸ばして手で制した。
「それ以上、近づかないでください。俺が話したいことは一つだけです。それが終わったら俺は直ぐにここを出ていきますから」
工の冷たい口調に、真春は唇をキュッと噛んだ。
「真春さん、ご迷惑をかけて本当にすみませんでした。俺は、もう、死ぬことは選びません。だから、もう二度と会いません」
工の言葉に真春は険しい顔になる。
「そんなの信じられないよ!俺が見ていないところで死ぬつもりでしょ!そう言わないと俺が納得しないからでしょ!」
もっともな事を真春が言うと真幸は笑う。
「だよねー。見てなければなんでもできるもんな」
真幸は茶化す。
「…………信用されないのは分かってます。でも、もう本当に死にません。この世界からも足を洗います」
「やだ!嫌だ!俺の前から消えるなんて嫌だ!俺は信じない!生きるって言うなら、俺のそばで生きてよ!もう、工を困らせない!工を欲しがらないから!」
真春の言葉が工に突き刺さる。
真春に愛されているから離れたいのに。
真春を愛しているから離れたいのに。
「…………手紙を書きます。一年に一度。3月15日に必ず着くように」
工が微笑しながら真春に言うと真春は驚く。工が自分の誕生日をきちんと覚えてくれていたのが嬉しい。
「…………分かった。工が生きてくれるなら、それで良い。だけど、最後に、ふたりきりでちゃんと話がしたい。それで工を見送りたい」
「…………分かりました」
工も最後、きちんとお別れがしたかった。
真春は真幸を見る。
「今から工のアパートに行きたい。真幸さん、お願い。外に俺のボディガードがいるんだ。俺の言うことは聞かないけど、真幸さんの言うことなら聞くと思う。お願いします。ボディガードを父さんのところに返してください」
真春はそう言って深々と頭を下げた。
「しょうがねーな。ったくよぉ、面倒くせぇ」
真幸はそう言いながらも電話をかけた。
「もしもし。真春をもう少し借りますよ」
電話の相手は飯塚組長だった。
『あの用心棒は見つかったんか?』
飯塚組長に尋ねられて、真幸は工をチラッと見る。
「ええ。そちらの子分をひとりで帰しますから。責任は全て俺が取りますんで」
『ほー。まぁ好きにしろ。真春が逃げねーんなら、好きにするが良いさ』
楽しそうな飯塚組長に真幸は苦笑する。
「逃げられるのが怖いなんて、随分お気に入りですね」
真春を人質に取られてる真幸は、皮肉まじりに言う。
『ああ。情が湧いて来たわ。儂もおいぼれて来たのかもな』
よく言うわと真幸は思いながら、飯塚組長から承諾を取れた事を真春に伝える。
「工。真春を最後ちゃんと家まで送れよ。それまでがお前が取る責任だ」
真幸が言うと工は頭を下げた。
「…………頭。お世話になりました。ありがとうございました」
工の別れの挨拶を聞いても、真幸はなぜか寂しさがなかった。あまりにも呆気なくやってきた別れに現実味がない。
「ああ。元気でな」
工は笑顔を真幸に向けた。
約一年近く一緒に過ごせたことに、真幸を守れたことに工は満足していた。
『工、見つかって良かった。直ぐに行きます』
電話を切ると真幸は工に真春の言葉を伝えた。
「この先どうするかはてめぇで決めろ。もう俺はお前を飼うつもりはねぇ。五島組に戻るのか、この世界から足を洗うのか。どうせお前はまだ五島のオジキとも盃交わしてねぇんだ。この世界から消えるのが一番なんじゃねーの?」
真幸の言葉を聞き終え工は頷く。
「はい。カタギの生活に戻ります。この世界にいた事を全て忘れたい。この先は、ただ乙也を弔って生きていきます」
真幸は工の心情を聞きながら笑う。
「いっそ坊さんにでもなれば?お前は初めからそっちの道に進むべきだったんだよ。何を間違えて、ヤクザなんかの世界に飛びこんじまって」
「本当ですね。犯罪者でも引き受けてくれる所があるんでしょうかね。実際はもう何人も殺してるのに。でも、探してみます」
真面目に工が答えるので、真幸は腹を抱えて笑う。
「真顔で言うことか!ったく、笑わせんな。でもお前の坊主頭、似合いそうだな」
工は不思議だった。こんな状況で自然に会話が出来ることに。
でも、初めて真幸と出会った時から、たまにこんな風に自然と会話が出来ていたなと思い出した。
「頭は俺の恩人です。あなたがいたから、俺は死ぬのが怖くなかった。あなたに忠誠を誓ったことで、この命を捧げるのも惜しくなかった」
工の告白に真幸は呆れる。
「死ぬ為に一緒にいたと言われてるようだな。まぁ良いけどさ。お前が生きる事を決めたんなら、俺のそばに置いていた意味もあったって事だろ」
真幸のそばにいたから、真春と出会った。
死を選んでいた男が生きる希望を持ったことに、真幸なりに良かったと思う。
インターホンが鳴り、真春が到着した事が分かると、工は一気に緊張して身構える。
「…………お待ちかねの王子様の到着だ」
真幸は玄関に向かった。
もう逃げないと、工は目を瞑って真春が目の前に現れるのを待った。
「工!」
真春の慌てた声に工はゆっくりと目を開いた。
「工!無事で良かった!本当に、良かった!」
真春が工に近づこうとするのを、工は腕を伸ばして手で制した。
「それ以上、近づかないでください。俺が話したいことは一つだけです。それが終わったら俺は直ぐにここを出ていきますから」
工の冷たい口調に、真春は唇をキュッと噛んだ。
「真春さん、ご迷惑をかけて本当にすみませんでした。俺は、もう、死ぬことは選びません。だから、もう二度と会いません」
工の言葉に真春は険しい顔になる。
「そんなの信じられないよ!俺が見ていないところで死ぬつもりでしょ!そう言わないと俺が納得しないからでしょ!」
もっともな事を真春が言うと真幸は笑う。
「だよねー。見てなければなんでもできるもんな」
真幸は茶化す。
「…………信用されないのは分かってます。でも、もう本当に死にません。この世界からも足を洗います」
「やだ!嫌だ!俺の前から消えるなんて嫌だ!俺は信じない!生きるって言うなら、俺のそばで生きてよ!もう、工を困らせない!工を欲しがらないから!」
真春の言葉が工に突き刺さる。
真春に愛されているから離れたいのに。
真春を愛しているから離れたいのに。
「…………手紙を書きます。一年に一度。3月15日に必ず着くように」
工が微笑しながら真春に言うと真春は驚く。工が自分の誕生日をきちんと覚えてくれていたのが嬉しい。
「…………分かった。工が生きてくれるなら、それで良い。だけど、最後に、ふたりきりでちゃんと話がしたい。それで工を見送りたい」
「…………分かりました」
工も最後、きちんとお別れがしたかった。
真春は真幸を見る。
「今から工のアパートに行きたい。真幸さん、お願い。外に俺のボディガードがいるんだ。俺の言うことは聞かないけど、真幸さんの言うことなら聞くと思う。お願いします。ボディガードを父さんのところに返してください」
真春はそう言って深々と頭を下げた。
「しょうがねーな。ったくよぉ、面倒くせぇ」
真幸はそう言いながらも電話をかけた。
「もしもし。真春をもう少し借りますよ」
電話の相手は飯塚組長だった。
『あの用心棒は見つかったんか?』
飯塚組長に尋ねられて、真幸は工をチラッと見る。
「ええ。そちらの子分をひとりで帰しますから。責任は全て俺が取りますんで」
『ほー。まぁ好きにしろ。真春が逃げねーんなら、好きにするが良いさ』
楽しそうな飯塚組長に真幸は苦笑する。
「逃げられるのが怖いなんて、随分お気に入りですね」
真春を人質に取られてる真幸は、皮肉まじりに言う。
『ああ。情が湧いて来たわ。儂もおいぼれて来たのかもな』
よく言うわと真幸は思いながら、飯塚組長から承諾を取れた事を真春に伝える。
「工。真春を最後ちゃんと家まで送れよ。それまでがお前が取る責任だ」
真幸が言うと工は頭を下げた。
「…………頭。お世話になりました。ありがとうございました」
工の別れの挨拶を聞いても、真幸はなぜか寂しさがなかった。あまりにも呆気なくやってきた別れに現実味がない。
「ああ。元気でな」
工は笑顔を真幸に向けた。
約一年近く一緒に過ごせたことに、真幸を守れたことに工は満足していた。
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