田辺君はずるいから

五嶋樒榴

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21ずるい・偶然の一致

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「大丈夫だよ。ちゃんとご飯作って貰ってるから。………………うん。そっちはどうなの?うまくいってる?………………そう。分かった。………………はいはい。そのうち会わせるよ。じゃあ」

田辺が電話を切ると、諭は田辺を見た。

「誰と話してたの?」

「こっちに住んでる叔父です。お袋の弟ですよ。たまに気にして連絡くれるんです。飯とか奢って貰ったり」

「へぇ。仲良いんだねぇ」

「そうですね。お袋の兄弟の中では1番下の叔父でまだ40前だし、独身で身軽で、金は腐るほど持ってる人なんで可愛がってくれますね」

田辺の言い方に諭はクスリと笑う。

「腐るほどって。何してる人?」

「東堂の本社で取締役とかしてたかな?それ以外にも投資は色々やってるんで」

「東堂って、あの東堂だよね?黒崎や御笠と並んでる大手企業の」

「その東堂です」

一流企業の取締役なんて凄いなと諭は思いながら、自分の従兄弟も東堂の本社だと言うことを思い出した。

「俺の従兄弟も東堂の本社に勤めてるよ。何してるかまでは知らないけど」

へぇと言う顔で田辺は諭を見る。

「そうなんですね。なんて言う名前なんですか?もしかしたら叔父が知ってたり」

「景虎仁哉って言うんだ。でも、東堂の本社じゃ人数すごいし、叔父さんが取締役なら接点ないんじゃない?知らないと思う」

「一応聞いてみよう。それで叔父が知ってたら凄いですよね」

それを聞いて諭は笑う。そんな偶然はないと思っている。

「そうだね。知ってたら、びっくりだな」

「まぁ、そんな偶然なんてそうそうないでしょうけど」

結局田辺も、自分の叔父と諭の従兄弟が顔見知りだとは思っていない。
そんな軽い気持ちで田辺は後日、叔父の法然凱に景虎仁哉を知ってるのか聞いてみた。
その答えはまさかの、部下だと言う返事だった。
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