田辺君はずるいから

五嶋樒榴

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32ずるい・不足

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いつものように夕飯を食べ終え、後片付けをする諭。

「諭先輩。今夜は泊まって行けます?」

ここ数日レポートが忙しくて、夕飯を食べた後に諭は直ぐ自分の部屋に帰っていた。

「うん。大丈夫だよ」

久しぶりのお泊まりに諭は照れる。

「じゃあ、風呂入ってこーよお」

ご機嫌で田辺は風呂に入りに行く。
諭はドキドキしながらベッドに寄りかかる。
まだ来ないかなとソワソワする諭。

「ふー。さっぱりしました。お先です」

スウェット姿で戻って来た田辺に諭はドキンとする。

「ん?どうしたんですか?」

「な、なんでもないッ!俺もお風呂入ってくるッ!」

諭の行動が怪しくて、田辺は諭のシャツの後ろ襟を掴む。
まるで首根っこを掴まれた猫である。

「俺がいない間、何してました?」

「な!何もしてないッ!ベッドに寝っ転がって、田辺の枕、抱いてなんてないからッ!」

「……………なるほど」

やってたなと言う目で見る田辺。
真っ赤になって涙目になる諭は、枕の匂いをクンクン嗅いでいたことはもちろん言えない。

「ったく、どこの変態っすか」

ニヤリと笑う田辺。

「だって、だって、田辺不足で寂しかったんだもん。俺のせいだけどさー!」

田辺に抱きつく諭。頭を撫でていい子いい子する田辺。

「とりあえず、早くお風呂入って来てください」

コクンと頷く諭。
洗面所でモゾモゾとシャツを脱ぐ。

「……………あ、あのさぁ」

「なんです?」

「服脱ぐの、ジーと見られると、恥ずかしいんだけどぉ」

諭がモジモジする。

「気にしないでください。諭先輩が可愛すぎて離れたくないだけですから」

恥ずかしいが嬉しい諭。
田辺も諭不足だったようだ。
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