田辺君はずるいから

44ずるい・温泉旅行

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「きゃーん！可愛いッ！可愛いッ！諭きゅーんッ！」

田辺と諭を出迎えた若女将、風菜は、開口一番諭に抱きついた。

「こらこら、若女将？お客様ですよ」

こめかみに怒りマークを浮き立たせて、田辺の兄、伊吹は諭から若女将を引っぺがした。

「えへへ。ごめんなさい。実物の方が断然良かったもので」

諭は固まって何も言えない。
横に立っていた田辺は予想通りだと全く動じていなかった。

「諭君、て呼んでいいかな？いつも弟がお世話になってます。兄の伊吹です」

この旅館の専務である田辺の兄、伊吹が頭を下げた。

「こ、こちらこそ、いつもお世話になってます。滞在中よろしくお願いします」

弟の恋人と言うのは正直納得できなかったが、諭が礼儀正しくて常識があると分かり伊吹はホッとした。

「蘭。女将と大女将が、夕飯を一緒に取りたいと言っていたぞ？どうする？」

伊吹が言うと田辺はチッと舌打ちする。

「えー。俺は諭先輩と2人きりで部屋で食いたいんだけど。一応、俺達客だよ？」

嫌そうな顔で田辺が言うと、諭が田辺の腕を握った。

「せっかくだから、みんなで頂こうよ。無理言って部屋を用意してくれたんだから」

やっぱり諭はそう言うよな。と思って、余計なことを口走った伊吹を田辺は思いっきり睨んだ。

「に、睨むなよッ！ったく、マジこえーからッ！」

この家のヒエラルキーが分かってきた諭だった。