すいぎょのまぢわり

五嶋樒榴

文字の大きさ
上 下
50 / 85
第十話

しおりを挟む
とうとう絢斗とキスをしてしまった茉理は、その夜目が冴えて眠れなくなった。
緊張して、何がなんだか分からないうちに絢斗とキスをしてしまった。
もちろん後悔はないが、明日からどんな顔をして、どんな風に絢斗に接すれば良いのか分からない。


分かってる!
俺は絢斗が好きだ。
だから恋人として付き合うことも決めたんだ。
でもさ、俺たち、男同士で、この先どうすりゃ良いわけ?
キスして、それでどうなんの?
それだけで済むようには、とてもあの肉食恐竜が許すわけがない!
あー!
俺の運命や如何に!
ってなんのナレーションだよッ!


考え悩んだところで、キスしたことも無かったことにはできない。
別にキスが嫌だったわけではないが、この先にどう進めば良いのかまったくもって分からない。
茉理はスマホを手に取ると、恐る恐るその手のサイトを検索してみる。
次々と情報だけは出てくる。


無理無理無理無理!
………………。
これ以上見たら、絶対後悔する。


茉理はそう思ってスマホを見るのをやめた。
目を瞑って無理にでも眠ろうと頑張ったが、寝たのはもう明け方近かった。
朝になり、眠い目をシパシパさせながら学校へ行く準備が済むと、絢斗とどんな顔で会えばいいかわからないまま門の前で待った。
ドキドキして待っていると、絢斗が目の前に立った。

「はよ」

いつも通りの絢斗に茉理は拍子抜けするが、さすがに外なので当たり前かとホッとする。

「おはよ。夜、眠れなかった」

つい茉理は言ってしまった。

「………………考えすぎんなよ。お前が思ってることは先を行き過ぎてんだろうから」

図星だったので茉理は真っ赤になる。

「俺が先に行き過ぎてんのかなぁ。絢斗はそのつもりがないって思ってていい?」

茉理に改まって言われると、絢斗もなんて返事をしていいか分からない。

「んー。難しいな。そのつもりとかってより、ほら、なんて言うか、雰囲気?流れ?でもさ、茉理が嫌だとか怖いとか思ってることはしない」

絢斗はそう言ったが、茉理はジッと絢斗を見る。

「………………なんだよッ!信用してねーの?」

焦って絢斗は言う。

「信用してるけどさ。でも、いざとなると、俺が自信ない。絢斗に嫌われたくなくて、嫌なことも我慢するかも」

茉理が可愛いことを言うので、絢斗は恥ずかしくなる。

「っとに、純情乙女かよッ!そんな事言われたら、何もできなくなるだろッ!」

このキャラはズルいと絢斗は思った。
いざとなると、素直に可愛いことを言う。
そしてそれが堪らなく絢斗は萌えてしまう。


ガキの頃からそうだもんなぁ。
こんなに見た目も性格も可愛かったら、惚れないわけがないだろッ!


茉理のツンデレな性格が、今頃になって恨めしい絢斗だった。
しおりを挟む

処理中です...