すいぎょのまぢわり

五嶋樒榴

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第九話

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絢斗はいよいよだと思い、目を瞑る茉理の頬に右手を添え少し上を向かせる。
茉理は目も唇もギュッとして、強く瞑っているせいか眉間にシワが寄っている。
ムードも何もあったもんでは無いが、絢斗的にキスをすることが目的なので他の事はどうでも良かった。
絢斗も顔を少しずらし、鼻が当たらないように茉理の顔に顔を近付ける。
少し唇を開いて茉理の唇にくっ付けた。

「んッ!」

唇が触れ合うと、茉理は小さく声を出しギュッと更に、目も唇も体も力を入れる。
絢斗は茉理の唇を塞ぎながら、茉理の下唇を吸う。

「んんッ!んんッ!」

茉理が小さく抵抗する。
それでも絢斗はキスを辞めない。
茉理の唇が開くのを待つ。


っとに。
天岩戸かよッ。


絢斗はそう思いながら、茉理を左手で抱きしめた。
身動きが取れず息苦しい茉理は暴れ始める。
どっちが先にギブアップするのか、まるで我慢比べになっていた。

「んッ!んんーッ!」

ついに茉理が先に力を抜いた。
絢斗は舌を伸ばしたが、茉理が食いしばっている歯にガッチリとガードされていて、さすがに絢斗も諦めて唇を離した。

「………………まぁ、とりあえず、キスしたし、うん」

まるで自分に言い聞かせる絢斗。
茉理ははぁはぁと息をして真っ赤になっている。

「満足した?」

茉理が聞くと絢斗は茉理をギュッと抱きしめる。

「満足するわけねーだろ!お前は全力で拒否ってるしよ!口閉じまくってるから鼻息荒くて、雰囲気ぶっ壊しだしよ!………………でも、嬉しかった」

絢斗はフッと笑ってそう言うと、茉理の髪を撫でる。
茉理は恥ずかしくて、抱きしめられたまま動くに動けない。

「1日に最低一度はキスさせろ」

絢斗の言葉に、茉理はドキンドキンする。

「次からはディープだかんなッ!もう一回したんだから大丈夫だろッ!」

茉理は絢斗にしがみついて動かないし声も発しない。

「聞いてんのかッ!」

少しだけイラッとして絢斗が言う。

「き、聞いて、るよぉ」

弱々しい声の茉理。

「っとに。可愛すぎかよッ!」

絢斗は満足げにそう言うと、茉理をずっと抱きしめ続けた。
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