すいぎょのまぢわり

五嶋樒榴

文字の大きさ
上 下
55 / 85
第十話

しおりを挟む
天気の良い青空の下のベンチで、鼻歌混じりのライオンと、終始機嫌の良い狼。
仔猫と仔ウサギは、食料の調達に行っていた。

「昨日と打って変わってご機嫌じゃねーか」

様子を窺う狼が尋ねる。

「まぁね。ちょっと。いや、だいぶ良い事があったかなぁ」

ふふふふとだらしない笑顔のライオン。

「どうせ昨日、とうとうヤりましたって話だろ」

ツヤツヤのライオンを見て狼は言う。

「まぁね。って、最後までシてないわよ。絢斗さん、お下劣なんだから」

デレデレしてライオンが言うと、狼はふんと鼻で笑う。

「どうせその手前まで、たっぷりねちっこく攻めまくったんだろ」

狼の言葉に図星のライオンは赤面する。

「そう言うお前も、朝から機嫌いいじゃん。お前こそ茉理とナニしたか?」

今度は仕返しとばかりにライオンが突っ込む。

「茉理からキスしてくれた」

嬉しそうに狼は報告する。

「はい?それぐらいでご機嫌とか、小学生かッ」

あははとライオンが笑う。

「なんとでも言ってくれ。俺はそれだけでも、まぁそれだけじゃ正直満足しないが、でもやっぱり嬉しいわけよ」

狼の満ち足りた笑顔にライオンは驚く。

「お前って、意外と大人だったんだな」

「テメェが盛りすぎんだよ!だから臨にライオンって言われるんだ。この肉食獣がッ」

何も言い返せないライオン。

「なんかさ。付き合う前までは、すげー焦ってたわけよ。受け入れてもらえないジレンマとかさ。でも少しずつでも、茉理が俺にちゃんと応えてくれると、キスひとつでも嬉しいわけよ」

聖人君子のような狼に、ライオンは耳打ちして囁く。
悪魔の囁きを聞いて、ふむふむと納得してニヤリとする狼。
所詮狼は、聖人君子にはなれそうになかった。
しおりを挟む

処理中です...