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●人生の墓場●

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次の日、文香の元に訪れた沙耶子は、文香に対してオドオドしていた。

「どうしたの?今日は元気がないわね。昨日、何かあったの?」

文香に尋ねられて、沙耶子は真っ青な顔になる。
昨夜、智和とホテルのレストランで食事をした後、そのホテルの部屋で一晩過ごしてしまったのだった。
もちろん、それは沙耶子にとって苦痛以外の何ものでもない。
結局は脅迫されて、関係を持たされたのだから。

「い、いえ。今朝から生理痛で、それだけです」

沙耶子は咄嗟に嘘をついた。

「そうだったのね。あまり無理をしないでね。あ、そうだ。冷蔵庫にアップルパイを残しているのよ。昨日、健ちゃんが来てくれてね」

健の事は沙耶子も知っている。
背が高く、とても足が長くてスタイルがいい容姿端麗な健に、沙耶子は密かに憧れを持っていた。

「いついらっしゃったんですか?」

会いたかった気持ちが勝り、前のめりで沙耶子は聞く。

「沙耶子さんが帰った後よ。仕事が忙しくてなかなか来れなかったんだけど、久しぶりに会えて私も嬉しかったわ」

沙耶子とは対照的に、文香は機嫌が良い。

「……そうだったんですね」

沙耶子はガッカリする。
健には会えなかったし、智和の相手はさせられるわで、散々な夜だったと沙耶子は泣きたくなって来た。

「沙耶子ちゃん。本当に辛かったら今日は帰っても良いわよ。昨日は主人も仕事で帰ってこれなかったけど、今夜は帰ってくるだろうし」

智和の話になり、沙耶子はギクリとする。
文香に智和との関係をバレるわけにはいかない。

「いえ、大丈夫です。ちゃんとお仕事はさせていただきますから」

もう2度と、智和とは2人で会わないと決めているので、沙耶子は昨夜のことは、絶対に文香に知られてはいけないと思った。
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