インシデント~楜沢健の非日常〜

五嶋樒榴

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●人生の墓場●

2-4

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智和が仕事から帰ってくると、文香と健が揃って出迎えた。
何か嫌な雰囲気を察して、智和は神妙な顔で文香と健を視界に入れた。

「お帰りなさい。早速だけど大事な話があるの」

大事な話と聞いて、智和は嫌な予感がしてつい身震いする。
文香は冷静で、顔色も悪くはない。
3人がダイニングの椅子に腰掛けると、文香は直ぐに唇を開く。

「やっとあなたの尻尾を掴んだわ。私はこの日を待っていたのよ」

健が蓮司に頼んで集めた智和の不貞の証拠を、文香は落ち着き払った態度で智和に差し出した。

「お前、わざと俺を泳がしていたのか?」

智和は苦々しく思いながら文香を睨む。

「そうね。私があの日飛び降りた時から、私の計画は始まっていたのよ」
 
「計画?自殺しようとしていて何が計画だ!たまたま運が良くて死ねなかっただけだろ!」

あの時死んでいてくれたら良かったのにと智和は思った。
それをまるで、初めから仕組んでいたと言われては、負け惜しみにしか智和には聞こえない。

「どうして私があのマンションから飛び降りたと思う?」

文香の問いに、智和は怪訝な顔をする。

「俺への当てつけだろ?」

文香は首を振る。

「丁度下にクッションになってくれる車があったからよ。帆の屋根なら、硬い屋根と違ってクッションになってくれるだろうと、3階から飛び降りて怪我をしても死ぬことはないと思ったのよ」

全て文香の捨て身の計画だった。
智和はそんなのは、まだ戯言だと思っている。

「はぁ?わざとだと言うのか?」
 
「なぜ、そんな危険なことを」

いくらなんでもそんな事はあり得ないと、健も思って文香に尋ねる。

「だって、私はこの人と離婚したくて堪らなかったから。でも死にたかったわけじゃない」

文香は冷ややかな目で智和を見る。
 
「じゃあなんで怪我の後、離婚を撤回したんだ!離婚に俺だって合意したじゃないかッ!」

納得がいかない智和は文香に噛み付く。

「だって離婚したって、私は損するだけだったもの。不貞行為が立証されなければ慰謝料だって貰えないし。財産分与にあのマンションをもらおうと思ってたけど、あなた、あのマンションはお父様から贈与で貰ったものだったでしょ?それじゃ財産分与で私は貰えないと知ったからよ」

「どういう事だ?」

文香が言っている事を智和は理解できなかったが、健はそうだったとハッとした。
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