インシデント~楜沢健の非日常〜

五嶋樒榴

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●人生の墓場●

2-5

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間抜けな顔をしている智和を見て文香は笑う。
入院中に、文香は自分が不利にならないように色々勉強したのだった。

「財産分与って、結婚後に2人で築いたものじゃないと分けられないのよ。だからあのマンションを売って、この家をあなたに建ててもらったの」

智和が世間体を考えてバリアフリーの家を建てたのも、結局は文香の思惑通りに動いた。
全てが計画的だったのかと健も驚く。

「……くそッ!まんまとお前に誘導されたってことか」

智和は悔しくて堪らない。

「そうよ。離婚をしていずれこの家を貰うことを考えていたのよ。うまい具合にあなたはまた浮気を繰り返してくれた。今までの浮気も黙っていたけど、もう証拠は集めていたのよ。私もあなたの会社から役員報酬を貰っていたから、昔と違って興信所を使うこともできたから」

「興信所を雇うお金があったのに、今回はなぜ私を使ったんですか?」

なぜ自分を巻き込んだのか健は知りたかった。

「離婚に向けての話し合いをするのに、健ちゃんに全て事情を知っておいて欲しかったからよ。信用できる味方は多い方が有利だもの」
 
確かに、離婚の手続きから財産分与までスムーズに行うのに、身軽で、尚且つ知識を持っているコネがある人物が、近くにいることは手っ取り早いのは分かるが、文香の思惑はそれだけでは無い気がした。

「それと、沙耶子ちゃんが健ちゃんに好意を持っていたから。夫との浮気を健ちゃんに知られたら、きっとショックを受けるだろうって思ったの」

沙耶子へのささやかな復讐だった。

「これは、私の最後の復讐だったの。こんな体になったのは計算外だったけど」

動かない足を摩りながら文香は悲しそうに微笑んだ。

「復讐か。でも所詮お前が出来ることは、この家を手に入れるだけだろ?俺と離婚すれば、今の会社の役員報酬だってもう受け取れないだろ!直ぐに株主総会を開いてお前を解任させる」

家ぐらいならくれてやると、智和は余裕の笑みで文香を見た。
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