インシデント～楜沢健の非日常〜

●アンビバレント●

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賢一郎の事件は、あっという間に世間に広まった。
高校1年生が起こした両親殺害事件。
それをテレビの夕方のニュースで知った、賢一郎の同級生の呉田蓮司くれたれんじは、あまりの衝撃に目を見開いた。
賢一郎とは幼馴染でもあり、自宅も近かった。

「このお宅って、飯豊さんちよね。やだわ、本当にこんな身近で殺人事件が起こるなんて」

蓮司の母、都子は、テレビに目が釘付けになっている。

「……蓮司、大丈夫？」

テレビの前から動かない息子を、都子は心配そうに見る。

「……嘘、だろ？なんで？」

蓮司はショックで頭の中が追いつかない。
今日、賢一郎が学校を休んだ理由もこれで分かった。
賢一郎は大人しく目立つ存在では無かったが、特に家庭環境も何も悪くない。
学校で悩みが有ったようにも思えない。
賢一郎が両親を殺害する理由が、蓮司が知っている賢一郎のどれにも当てはまらないのである。

「明日から学校、大丈夫かしらね」

「知るかよ！」

蓮司はそう言って2階の自分の部屋へ駆け上がった。
他にもテレビで事件を知った同級生とのグループLINが、一気に流れ込んできた。

【やべぇ。マジかよ】

【飯豊、マジ？】

【信じられない！何かの間違い？他に犯人がいるんじゃ無いの？】

【どうして？信じられない！】

【嘘だろ。あいつ、やべぇ奴だったん？】

【怖いよね。あたし、隣の席だったけど、別に前の日も普通だったよ】

【両親死んで、あいつどうなるの？刑務所行くの？】

【少年院じゃねーの？】

LINが勝手に盛り上がり始める。堰を切ったように止まる事を知らない。
蓮司は何も書き込まず、見るのもやめた。
とにかく真実が知りたい。
本当に賢一郎が犯人なのか、もし犯人なら、その動機が知りたかった。