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●アンビバレント●

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賢一郎が両親を殺害し地方裁判所での結審が終わり、判決後しばらく経った後に健の元に1本の電話が入った。

「楜沢さん、町田支店の支店長から本部長宛のお電話ですが」

健は電話に出る。

『お疲れ様です。すみません、本部長にご相談があるのですが』

何事かと健は考えた。

「どうしました?本部長が外出中なので私が代わりにお伺いします」

『実は……』

支店長は言い出しにくいようだった。

「何ですか?」

『先程、お客様がお見えになったのですが。不動産の売却を望まれているんですが、その、問題がありまして』

支店長の口ぶりに、事故物件かと直ぐに健は思い付いた。
しかも、事故物件でも余程の物件だと推察した。

「どんな事故物件ですか?」

皆まで言わなくても、察してくれて支店長はホッとした。

『1年半ぐらい前に起きた、未成年の子供が両親を殺害した事件があったんですが』

健は直ぐにはピンと来なかった。
でも場所的に、朧げながら記憶を辿る。

「あったような……でもハッキリとは記憶がないな」

『先日裁判が終わって刑が確定したようです。それで、その物件を売却したいと親族が相談に来られて』

「相談に来た方と言うのは?」

『被害者の男性のご両親です。被害者の子供は、両親を殺した少年だけだったようで』

刑が確定しての売却と聞いて、その未成年者が相続欠格になったのかと健は頭の中で色々考える。
相続人である子供が相続出来ないとなると、所有者の直系尊属の両親に相続権が移るからだ。

『……今回の事件は、未成年が絡む大きな事件だったので、その物件をどう対応したら良いかと』

事件は風化されつつあったが、ここで動きがあればまた注目されるのでないかと支店長は考えて、独断できないと本社の不動産部の本部長に連絡して来たのだった。

「分かりました。その物件は私が預かります。近いうちに、その売主さんに詳しい話をしてみましょう」

事故物件など珍しいことではないが、事件が大きかっただけに慎重に扱わなくてはならないかと健も思った。
電話を切ると、健は部下に売主との接触を指示した。
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