インシデント～楜沢健の非日常〜

●アンビバレント●

エピローグ

「エディプスコンプレックス？」

健は高槻から聞いた話を蓮司に全て聞かせた。

「もちろんこれは推測だ。事実は賢一郎君じゃなければ分からない。ただその可能性が有ったのなら、今回の事件も納得できる点はある」

健の説明に蓮司は鼻で笑った。

「……俺は、賢一郎から本当の事を聞くまでは、たとえあんたがそう思ったとしても信じない」

「別にお前に信じてもらいたいとも思ってない。専門家から聞いた見解であって、事実とは言ってはいない」

この屁理屈男と、蓮司は健を睨みつけた。

「しかし、マジであんた何者？ただの不動産屋がここまで調べる？」

どうして健がそこまで、賢一郎に拘ったのか蓮司は知りたい。

「気になった事はとことん調べたくなるタチでね。しかも商売がかかっている」

いくら市場の5割程度で仕入れたとしても、どれほどの期間で売却できるかは分からない。
あくまでも仮定ではあるが、限りなく陰湿な事件ではないことが分かっただけでも、今回のことは健にとって収穫だったのだ。

「そう言えば、俺、あんたの名前聞いてなかったわ。俺の名前を知ってるんだからそっちも名乗れよ」

生意気なガキだと健は笑う。

「楜沢だ」

「下の名前は？」

「健だ」

「ふーん。楜沢健、ね。なんか芸名みたいだな」

蓮司はクスクス笑う。

「もう会うこともないかもしれねーけど、元気でねー、楜沢サン」

「ああ。お前もちゃんと勉強しろよ。受験生」

蓮司はニヤリと笑って健に手を振る。

「おい、蓮司！」

健に下の名前を呼び捨てされて、びっくりして蓮司は振り返る。

「これも何かの縁かもな。もしまた会えたら俺の仕事手伝わねーか？」

健の誘いが胡散臭くて蓮司は笑う。

「やーだね。あんた、ヤバそうだもん」

そう返した蓮司だったが、その後再び、ある事件で再会するとは思わなかった。