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●目には目を歯には歯を●

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バイト先に再び現れた健に、蓮司はわざと見ないように無視していた。
今日は仕事帰りなのか、健はスーツ姿だった。

「あ、この本探していたんですよ。ありがとう」

女子店員に愛想を振りまく健を横目で見て、蓮司は心の中で舌を出す。

「いえ、お役に立てて良かったですぅ。いつもご贔屓にしてくださってありがとうございまぁす」

女子店員の声が上擦っていて、ヤレヤレと思いながら蓮司は本を並べる。
健は本を片手に持ち、今日は客だと言う顔で蓮司のそばに寄った。

「お会計はあちらです」

蓮司は健を見ずにそう言い放つ。

「昨日はご苦労だったな。今日が休みじゃなくて良かったよ」

昨日はご苦労と言われて、何のことかと蓮司は健を見る。

「……何言ってんだよ」

「昨日の電車の中での人助けのことだが?」

なんで知っているのかと蓮司は驚く。
確かに少しはニュースになったが、自分のことは一切ニュースに流れていないはずだった。
知らないうちに、ネットに流されていたのかと焦る。

「心配するな。ネットに流れて知った訳じゃない」

考えていたことを見透かされて蓮司は焦る。

「じゃあ、どうしてッ!」

不気味に思い蓮司はムキになった。

「企業秘密だ」

またかと、蓮司は顔が強張る。

「知りたかったら俺に協力しないか?」

「協力?」

何を突拍子もないことを言うんだと、蓮司は目が点になった。

「俺のことも知る良い機会だぞ」

「別に知りたいと思ってないけど?」

「良いから良いから」

にっこり笑う健が蓮司にはどうしても不気味に映る。
あの時と同じように、やっぱり健はヤバいやつだと再認識した。
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