インシデント~楜沢健の非日常〜

五嶋樒榴

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階下に降りると、丁度ペンションのオーナーの麗花が健に微笑んだ。
儚げな美しい人。と言うのが、初めて会った時の麗花への第一印象だった。

「もうほとんど経営されていないのに、無理言って宿泊させてもらってすみません」

健が恐縮して頭を下げると、麗花は静かに首を振ってリビングへと健を促した。

「いえ、滞在していただいた方が査定もしやすいでしょうし。でもまさか、本社の方に、わざわざお越しいただくとは思っていなかったので驚きましたけど」

麗花は健に紅茶を淹れ始めた。

「初めにご連絡して頂いた営業所から連絡をもらって、丁度私も骨休めがしたいと思っていたところだったので、良い口実ができました」

ペンションを売りたいと言う話が本社に上がって来た時は、特に気にも留めてはいなかったのだが、マドカが夏休みにどこか連れて行けとずっと催促していたので、一石二鳥かとこのペンションにやって来たのだった。
健は事前に準備しておいた、土地と建物の登記事項証明書をファイルから出すと眺める。

「どうぞ」

麗花が健に紅茶を差し出した。

「いただきます。では、早速本題なのですが、こちらの所有者の東田朱鷺子さんは、櫛野さんとどう言ったご関係で?」

「朱鷺子は私の叔母です。その前の所有者の聖川正寿朗ひじりかわせいじゅろうは私の祖父です」

聖川正寿朗から、朱鷺子は相続でこのペンションを取得していた。

「祖父が亡くなった時に、私の母の妹だった叔母がこのペンションを相続したんです」

麗花の説明に健は納得した。

「そうでしたか。櫛野さんのご両親は?」

「両親は私が産まれて間もない頃に事故で亡くなり、私は祖父母に引き取られました。その後祖母が病気で亡くなり、結婚していた叔母が、その旦那さんの東田さんと一緒にこのペンションにやって来ました」

正寿朗1人では麗花の世話どころか、ペンションの経営も成り行かないからだった。

「祖父は将来的には私にこのペンションを継がせようと思ったそうなんですが、亡くなった時、私はまだ子供でしたので叔母が相続したんです」

しかし、現在のオーナーは麗花であることが健は気になった。

「あの、東田ご夫妻はもうこちらにいらっしゃらないのですか?所有者である朱鷺子さんがいらっしゃらないと売買を進めることが出来ないのですが」

麗花はため息をつく。

「お恥ずかしい話なのですが、叔母は東田さんにDVに遭っていて、数年前にこの家を出て行ってしまったんです。東田さんは叔母を追ってやはり出て行ってしまいました」

まさかの展開に、健は言葉を失い麗花をただ見つめた。
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