インシデント~楜沢健の非日常〜

五嶋樒榴

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●愛したのが始まり●

5-2

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「……健?」

長男として水島健となっていて、その名を静真は呟く。
健も除籍になっていて、養子縁組と書いているところを見ると、養父が楜沢葵と記されていた。

「楜沢、健?」

再び静真は呟く。

「楜沢健って、あの楜沢さん?」

静真の口から健の名前が出て、祥子はびっくりして声に出すと静真に近付き戸籍謄本を覗き込んだ。
婚約者だった健が、まさか静真の兄だとは夢にも思っていなかった。

「2人とも健君を知っているのか?」

驚く弘に、静真は頷く。
だが、余計な心配はさせたくないので、祥子の元婚約者だとは言えない。

「祥子の父親の仕事絡みで偶然知り合っただけで、親しい付き合いは全くない」

静真の返事に弘と裕子は罪悪感に苛まされる。
本当なら、兄弟としてきちんと出会わせてあげたかった。
だが、2人はそれをしてやれなかった。

「……お前がまだ小さい時に、健君の養父の楜沢さんにお願いされたんだ。兄の健君と会わせてほしいと。だけど俺達は断った。お前が大人になるまで知られたくなかった。お前を奪われたらと、お前が俺達と親子じゃないと知ったらショックを受けるだろうと、それが怖くて仕方なかった。すまない!本当に今まで黙っていてすまなかった!」

弘の気持ちも、今の静真なら十分に理解できる。
本当の息子だとずっと信じていた。弘と裕子に愛されて育ってきたと、自分が1番よく分かっている。

「静真の事、本当に息子だと思っているんだよ。私たちの大事な一人息子だもの」

泣きながら裕子は静真に訴える。

「母さん、分かってるよ!俺だって、父さんと母さんの息子だって、本当の親子だって思ってるよ!」

静真は泣き崩れる裕子を抱きしめる。
幼い頃、抱きしめてくれた母の温もりは今も変わる事はない。
いつの間にか、自分よりも小さくなった裕子を静真はただ強く抱きしめる。
弘も顔を下に向けて泣いていた。
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