インシデント~楜沢健の非日常〜

五嶋樒榴

文字の大きさ
156 / 206
●100万分の1●

プロローグ

しおりを挟む
2022年。

楜沢健は救命救急センターのある病院に救急車で搬送され、到着後直ぐにストレッチャーで処置室に運ばれた。
健は白昼、大勢の通行人がいる街中で、疋田逸郎ひきたいつろうに刺されたのだった。

「家族とはまだ連絡が取れないか?検査結果を早く!」

「免許証から警察が連絡していると思います!」

医師や看護師達は懸命に、健が受けた右の腰の刺創の処置を施す。

「先生!血液検査の結果なんですがッ!」

それを見た年配の医師が、検査結果に驚きの表情をする。

「……嘘だろ?……マジかよ。まさか…………なんて」

医師の言葉に、処置室の空気が一気に張り詰める。

「直ぐに輸血が出来ない以上、とにかく止血が最優先だ!血液センターに連絡してくれ!俺が説明する!それと希釈式自己血輸血の準備を!」

処置室は戦場と化した。
輸血が出来ないと言うことで行われる希釈式とは、術前に健の血液を採取し、術中健自身の血液を希釈し、術後採血した血液を戻す方法だった。
健が受けた傷は内臓に達してはいなかったが、これ以上一滴の血も無駄には出来ない状況でもある。万が一大量出血を起こせば血液が足りなくなる。

「楜沢健の家族の者です!」

健が処置を受けている間に連絡を受けた、養父の楜沢葵がやっと病院に到着した。
葵を待っていた30代の男性看護師は、葵に現在の状況を説明する。
直ぐに輸血が出来ない状況を知り、葵は真っ青になり目の前が真っ暗になった。

「我々も最善を尽くしておりますが、万が一、輸血に頼らなくてはならなくなった場合や血液センターにストックがなかった場合など、最悪の状況も覚悟してください」

看護師も辛い立場での宣告だった。
万が一輸血になった場合、助けられる命を助けられないかもしれないのだ。

「最悪の状況だと?そんなもの覚悟できるかッ!」

葵は取り乱し、両手で頭を抱えるとその場に蹲る。

「助けてやってくれ。お願いだ……まだ健を連れて行くな。弥之、雛絵さん……健を、健を助けてくれッ!」

葵の悲痛な叫びに、看護師は跪くと葵の体を支えて立ち上がらせようとする。
その時、バタバタと足音が響き渡った。
健の実の弟の、石浜静真が遅れて駆けつけたのだった。

「おじさん!兄さんは?」

静真が真っ青な顔で葵を見る。

「……まだ処置が終わっていない。でも大丈夫だ。健はこんな事で死にはしない。絶対に戻って来る」

葵が静真と長椅子に腰掛けたので、看護師は家族が到着した事の報告をするために処置室に入っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...