インシデント～楜沢健の非日常〜

●１００万分の１●

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都内のラグジュアリーホテルのラウンジで、大知はコーヒーを飲みながらある人物を待っていた。
今日はこのホテルで大きな集まりがあり、その来賓の1人が大知の目的の人物だった。
腕時計で時間を確認し、そろそろその人物が現れるかと緊張しながら、スーツ姿の男性が通る度に大知は気にして顔を向ける。
しばらくして、ラウンジに1人の美男子が現れた。
ウエイトレスの女性に話しかけられ、美男子はキョロキョロとラウンジ内を見渡す。
雰囲気と良い、顔の感じも写真と全く同じで、その美男子が待ち合わせの相手、水島惟晴だと分かり大知はソファから立ち上がった。
実物はより一層健に似ていると思った。

「水島さん」

大知が右手を上げて声を掛けると、ウエイトレスの隣に立つ惟晴は笑顔で大知を見た。

「鵜飼さん、遅くなってすまない」

颯爽と大知の前に惟晴は立った。

「こちらこそ、お時間をいただいて申し訳ありませんでした」

大知が頭を下げると、惟晴は首を振りソファに腰掛け、ウエイトレスにコーヒーを注文して大知の顔を見つめた。

「僕に聞きたい、弥之さんの話とは？」

大知は、健の父親の弥之の話が聞きたいと、惟晴を呼び出していたのだった。

「その前に、こちらを見ていただきたいのですが」

大知は健の現在の写真を惟晴に見せた。

「……弥之さんによく似てるな。もしかして、弥之さんの息子の健君かい？」

大知は頷く。

「はい。現在は楜沢健と言います」

楜沢と聞いて惟晴は眉を顰める。

「……楜沢？……苗字が変わったのは、弥之さんの事件のせいかな？ただ、弥之さんの奥さんの旧姓は楜沢ではなかったはずだが？」

「健の親父さんの事件の後、健の母親も亡くなり、健と弟の静真は別々の養護施設に預けられたんです。楜沢さんは元々弥之さんの友人で、健を見つけ出して養子にしてくれた人です」

大知が事情を説明すると、惟晴も直ぐに理解してくれた。