インシデント~楜沢健の非日常〜

五嶋樒榴

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●100万分の1●

4-7

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マンションに戻り菜々緒が風呂から上がると、逸郎は着替えが終わった菜々緒に手錠を掛けた。

「……本当に嬉しかったです」

菜々緒が今夜の事を思い出して逸郎に告げる。

「何が?」

逸郎は、何を菜々緒が嬉しいのか分からない。
さんざん母親に敵視されただけだったのだから。

「ここに監禁されているのは本当に辛いです。でも今夜は、逸郎さんに優しくされて大事にされて嬉しかった」

菜々緒の言葉に逸郎の心はズキズキする。

「俺だって、こんな事したくないさ!でも、こうでもしないと菜々緒は逃げていくだろ?俺のこと、男として愛してくれないだろ?」

逸郎は悔しそうに菜々緒から顔を逸らす。

「逸郎さんが私のこと、本当に好きだって、一緒に暮らしてよく分かりました。だって、1度だって私に何もしてこないし」

「それはッ!」

逸郎は顔を歪める。
本当は菜々緒の全てを奪ってしまいたい。
でもそれをしたら、菜々緒に嫌われると分かっている。
卑怯な手段で菜々緒を監禁していながら、逸郎はまだ菜々緒と一線を超えてはいなかった。

「本当は思い切り抱きしめたい。でも菜々緒に嫌われるのが怖い。大事なんだ。だから、ただそばにいてくれるだけで、俺は……」

逸郎の気持ちが、痛いほど菜々緒には伝わる。

「私、逸郎さんのこと、初めて会った時から優しい人だって分かってました。でもこんな事になって、すっごく憎んだ」

「……」

「怖くて、早く逃げ出したいって毎日思っていたのに、やっぱり逸郎さんはずっと優しくて。私、ここに来る前に、凄く辛い思いをしてきたから、逸郎さんの側にいるの、怖いくせに安心してる自分もいて」

真古登との生活を思えば、自由を失ったものの、今の方が愛情が溢れていると菜々緒は思った。

「……私、逸郎さんのこと、好きです」

「!」

菜々緒の告白に逸郎は目を見開き驚く。

「う、嘘だ!こんな事をする俺を好きになるわけないだろ?俺を油断させて逃げるつもりだろ?」

逸郎は狼狽える。
菜々緒の言葉を信じる事ができない。

「嘘じゃないです。私、逸郎さんに抱きしめてもらいたい」

菜々緒の真っ直ぐな目に、逸郎は疑心暗鬼のままただ見つめる。

「ダメですか?」

逸郎は、首を振ると菜々緒をぎゅっと抱き締める。

「……本当に俺を好き?俺がこれからする事に後悔しない?」

菜々緒はコクンと頷いた。

「……菜々緒、好きだ!大好きだ!愛してる!」

逸郎は思いの丈を告白しながら菜々緒にキスをする。菜々緒も抵抗せずそのキスを受け入れた。
逸郎は菜々緒の手錠を外し、菜々緒をベッドに優しく倒す。
もし明日の朝、目が覚めて菜々緒が消えていても、この幸せな時間を過ごせたら後悔はしないと思いながら、逸郎は菜々緒を抱いた。
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