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日本酒
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幼馴染の篠崎晴美は、同じ歳でほぼ生まれた時からの幼馴染だった。
晴美は宗嗣の隣の家に住んでおり、幼稚園から大学までエスカレーター式の学校で一緒だった。
晴美の父親はそのエスカレーター式の学校の大学教授だった。
お互い度々違う相手と付き合ってはいたが、宗嗣の1番はやっぱり晴美だった。
でも今更どう自分の気持ちを伝える為に切り出せば良いのかも分からなかった。
晴美は大学卒業後、大手ゼネコンのOLとなり、宗嗣との付き合いもだんだんと無くなっていた。
それでも宗嗣は、毎朝飼い犬ラブラドールのクリスティの散歩の時間を晴美の出勤時間に合わせ、少しでも会いたいと思っていた。
「晴美、おはよう」
駅に向かって歩く晴美の背後から宗嗣は声をかけた。晴美はロングの髪を上げていて、キリッとした印象だが、顔は美人と言うより可愛い。
「おはよう、宗嗣。クリスティ」
クリスティは晴美に慣れているので、晴美が差し出した手に顔を近づける。
「毎朝クリスティに会って元気もらってるわ。最近は特に仕事忙しいから」
笑顔でクリスティの相手をする晴美を、宗嗣は優しい表情で見つめる。
「そんなに仕事大変?」
心配そうに宗嗣は尋ねる。
「新しくきたチーフが若いんだけど凄い仕事できる人でさ。でも仕事は楽しいから」
笑顔で晴美は手を振り駅の中に入って行った。
でも毎朝のルーティーンも、その朝が最後になった。
晴美が出勤時間を変えてしまったからだ。
最近なぜ会えなくなったのか分からず、宗嗣は時間をずらしクリスティの散歩をするものの、不思議なほど朝に会えなくなった。
「仕事忙しいって言ってたもんね。仕方ないか」
庭でクリスティにブラッシングしながら呟く宗嗣。クリスティはクゥーンと宗嗣の気持ちに応えるように寂しそうに鳴いた。
「こんにちは」
女性の声に聞き覚えがあり、宗嗣はその声の方に振り向いた。
「!」
宗嗣は女性を見て驚いた。
目の前に立っていたのが、見合い相手の丸葉銀行頭取の娘、藤島飛鳥だったからだ。
「どうしてここへ?」
まだ信じられなくて、宗嗣の声が少しかすれた。
「近くまで来たのでお寄りしようと、宗嗣さんのお父様にご連絡をさせて頂いたら、今日は宗嗣さんがいらっしゃるとおっしゃっていたので」
漆黒の美しいストレートの長い髪をなびかせ、整った顔立ちでにっこり笑いながら飛鳥は言った。
「おぼっちゃま」
宗嗣が産まれる前からこの家にいるお手伝いの八重が、屋敷の縁側から宗嗣に声をかけた。
「旦那様が、藤島様にお花を生けるよう仰ってますよ」
「まぁ、嬉しい。生で見れるんですね」
嬉しそうに飛鳥は言った。宗嗣は渋々飛鳥を屋敷に入れ花を生ける事になった。
「せっかくですからお持ち帰りできるもので」
早くに帰って欲しい宗嗣は、小さな花器に、秋色紫陽花とピンクの薔薇と白のカラーを生け始めた。
「わぁ可愛らしい。フラワーアレンジメントみたいですね」
飛鳥の言葉に宗嗣は内心苦笑した。
「生け花とフラワーアレンジメントの違いはお分かりになりますか?」
美しい指で生けながら宗嗣は飛鳥に尋ねる。その姿に飛鳥は見惚れた。
「さあ。フラワーアレンジメントはお教室に通ってますが、生け花は良く分かりません。でも勉強します。宗嗣さんのお仕事を理解したいので」
よくそれで僕と結婚したいと思ったものだと、宗嗣は思うと可笑しくて笑いが止まらなくなりそうだった。
「次回までに生け花とフラワーアレンジメントの違い、勉強してき」
「生け花は引き算の美学、フラワーアレンジメントは足し算の美学とよく言われています」
飛鳥の言葉を宗嗣は遮った。
「生け花は元来余計なものを出来るだけ無くし、その美しさを引き立てるんです。フラワーアレンジメントは隙間なく埋め、どの角度から見ても立体的なのでブーケなどに用いられますよね。華道は色々流派がありますから、生け方もその数あります。我が一水流は、四季折々の花たちの盛りの生命力を、喜び、儚げ、華やかさで表現します。伝統的な生け方から、一見するとフラワーアレンジメントのように見える自由な発想の生け方など、現在は多種多様なんですよ」
宗嗣の説明に飛鳥は聞き入っていた。
「日本の伝統芸能は、一朝一夕に理解するのは難しいでしょうね」
そう言って、生けた花を飛鳥に向けて見せる。
「ただ見ているだけでは退屈でしたでしょう。あちらでお茶でも。八重、これをお土産にして差し上げて」
縁側にいた八重に宗嗣は言った。さっきから嫌味を含んだ宗嗣の物言いに、八重は内心落ち着かなかったので、やっと解放されて安堵した。
「申し訳ありませんがそろそろ出掛けますので、僕はここで失礼します。車でお見えですか?」
宗嗣があまりにも素っ気ないので、流石の飛鳥も分かったようだ。
「いえ、タクシーを呼んで頂けますか?」
寂しそうに飛鳥は言う。
「分かりました。では、とりあえずあちらへ」
すっと宗嗣は立ち上がって、飛鳥をリビングに移動させようとしたが、足が痺れていた飛鳥は立ち上がりよろめいた。焦って宗嗣は飛鳥を支え抱きかかえた。
「大丈夫ですか?」
宗嗣がそう言うと、飛鳥が宗嗣の首に腕を回しいきなりキスをした。
びっくりして宗嗣は飛鳥の腕を両手で離し、飛鳥を半ば睨むように見つめた。飛鳥は一人で立っていられなくてその場にへたり込んだ。
「アクシデントなので、飛鳥さんも忘れてください」
そう言って、背に怒りを表し、宗嗣は部屋を出て行った。
晴美にはなかなか会えなくなり、飛鳥からはモーションをかけられ、宗嗣のイライラはマックスだった。
晴美は宗嗣の隣の家に住んでおり、幼稚園から大学までエスカレーター式の学校で一緒だった。
晴美の父親はそのエスカレーター式の学校の大学教授だった。
お互い度々違う相手と付き合ってはいたが、宗嗣の1番はやっぱり晴美だった。
でも今更どう自分の気持ちを伝える為に切り出せば良いのかも分からなかった。
晴美は大学卒業後、大手ゼネコンのOLとなり、宗嗣との付き合いもだんだんと無くなっていた。
それでも宗嗣は、毎朝飼い犬ラブラドールのクリスティの散歩の時間を晴美の出勤時間に合わせ、少しでも会いたいと思っていた。
「晴美、おはよう」
駅に向かって歩く晴美の背後から宗嗣は声をかけた。晴美はロングの髪を上げていて、キリッとした印象だが、顔は美人と言うより可愛い。
「おはよう、宗嗣。クリスティ」
クリスティは晴美に慣れているので、晴美が差し出した手に顔を近づける。
「毎朝クリスティに会って元気もらってるわ。最近は特に仕事忙しいから」
笑顔でクリスティの相手をする晴美を、宗嗣は優しい表情で見つめる。
「そんなに仕事大変?」
心配そうに宗嗣は尋ねる。
「新しくきたチーフが若いんだけど凄い仕事できる人でさ。でも仕事は楽しいから」
笑顔で晴美は手を振り駅の中に入って行った。
でも毎朝のルーティーンも、その朝が最後になった。
晴美が出勤時間を変えてしまったからだ。
最近なぜ会えなくなったのか分からず、宗嗣は時間をずらしクリスティの散歩をするものの、不思議なほど朝に会えなくなった。
「仕事忙しいって言ってたもんね。仕方ないか」
庭でクリスティにブラッシングしながら呟く宗嗣。クリスティはクゥーンと宗嗣の気持ちに応えるように寂しそうに鳴いた。
「こんにちは」
女性の声に聞き覚えがあり、宗嗣はその声の方に振り向いた。
「!」
宗嗣は女性を見て驚いた。
目の前に立っていたのが、見合い相手の丸葉銀行頭取の娘、藤島飛鳥だったからだ。
「どうしてここへ?」
まだ信じられなくて、宗嗣の声が少しかすれた。
「近くまで来たのでお寄りしようと、宗嗣さんのお父様にご連絡をさせて頂いたら、今日は宗嗣さんがいらっしゃるとおっしゃっていたので」
漆黒の美しいストレートの長い髪をなびかせ、整った顔立ちでにっこり笑いながら飛鳥は言った。
「おぼっちゃま」
宗嗣が産まれる前からこの家にいるお手伝いの八重が、屋敷の縁側から宗嗣に声をかけた。
「旦那様が、藤島様にお花を生けるよう仰ってますよ」
「まぁ、嬉しい。生で見れるんですね」
嬉しそうに飛鳥は言った。宗嗣は渋々飛鳥を屋敷に入れ花を生ける事になった。
「せっかくですからお持ち帰りできるもので」
早くに帰って欲しい宗嗣は、小さな花器に、秋色紫陽花とピンクの薔薇と白のカラーを生け始めた。
「わぁ可愛らしい。フラワーアレンジメントみたいですね」
飛鳥の言葉に宗嗣は内心苦笑した。
「生け花とフラワーアレンジメントの違いはお分かりになりますか?」
美しい指で生けながら宗嗣は飛鳥に尋ねる。その姿に飛鳥は見惚れた。
「さあ。フラワーアレンジメントはお教室に通ってますが、生け花は良く分かりません。でも勉強します。宗嗣さんのお仕事を理解したいので」
よくそれで僕と結婚したいと思ったものだと、宗嗣は思うと可笑しくて笑いが止まらなくなりそうだった。
「次回までに生け花とフラワーアレンジメントの違い、勉強してき」
「生け花は引き算の美学、フラワーアレンジメントは足し算の美学とよく言われています」
飛鳥の言葉を宗嗣は遮った。
「生け花は元来余計なものを出来るだけ無くし、その美しさを引き立てるんです。フラワーアレンジメントは隙間なく埋め、どの角度から見ても立体的なのでブーケなどに用いられますよね。華道は色々流派がありますから、生け方もその数あります。我が一水流は、四季折々の花たちの盛りの生命力を、喜び、儚げ、華やかさで表現します。伝統的な生け方から、一見するとフラワーアレンジメントのように見える自由な発想の生け方など、現在は多種多様なんですよ」
宗嗣の説明に飛鳥は聞き入っていた。
「日本の伝統芸能は、一朝一夕に理解するのは難しいでしょうね」
そう言って、生けた花を飛鳥に向けて見せる。
「ただ見ているだけでは退屈でしたでしょう。あちらでお茶でも。八重、これをお土産にして差し上げて」
縁側にいた八重に宗嗣は言った。さっきから嫌味を含んだ宗嗣の物言いに、八重は内心落ち着かなかったので、やっと解放されて安堵した。
「申し訳ありませんがそろそろ出掛けますので、僕はここで失礼します。車でお見えですか?」
宗嗣があまりにも素っ気ないので、流石の飛鳥も分かったようだ。
「いえ、タクシーを呼んで頂けますか?」
寂しそうに飛鳥は言う。
「分かりました。では、とりあえずあちらへ」
すっと宗嗣は立ち上がって、飛鳥をリビングに移動させようとしたが、足が痺れていた飛鳥は立ち上がりよろめいた。焦って宗嗣は飛鳥を支え抱きかかえた。
「大丈夫ですか?」
宗嗣がそう言うと、飛鳥が宗嗣の首に腕を回しいきなりキスをした。
びっくりして宗嗣は飛鳥の腕を両手で離し、飛鳥を半ば睨むように見つめた。飛鳥は一人で立っていられなくてその場にへたり込んだ。
「アクシデントなので、飛鳥さんも忘れてください」
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