異世界に来たので魔王城のメイドとしてスローライフを楽しむ予定です~あと魔王はブタです~

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序章

気づいたら異世界

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 目の前に片道の異世界行き切符があったらどうしますか?



 異世界とか憧れはするけども。

 だからと目の前に異世界行きの切符があって、片道だけども行くことができます、なんて言われたら、どうするだろうか。

 それですぐに行きますとかわたしは頷けない。

 多分長考の末、首を横に振る。



 見たいアニメや漫画の続きが見られなくなるのは嫌だ。

 食生活もだいぶ変わるだろうし、トイレも汚いかもしれない。風呂も毎日入れないかもしれない。当たり前だった環境が一気に変わるなんて耐えられない。

 それに異世界には危険なモンスターもいるだろう。気持ち悪い巨大な虫とかだと見ただけで卒倒ものだ。

 魔法には憧れるけども、きつい魔法の勉強とかはしたくない。

 そもそも戦うとかしたくない。血とか見たくない。



 だから、わたしは切符があっても行こうとはしない。

 その切符が帰り保障アンド安全保障付き定期券なら、喜んで行くのだけれども。

 まあ、しょせん、楽して異世界を味わえるなら行きたいという話。



 現実の神様はその切符を使うかどうかなんて考えさせてくれないのに。



「…………ここどこ?」



 気づいたらそこは知らない部屋だった。

 何もない部屋。薄汚れた白い壁紙とフローリングの床が見える。広さは二畳ほどぐらいだろうか。そんな部屋だった。扉はない。

 部屋と呼ぶには必要であろう出入口がないから、部屋に近い何かが正しいのかもしれない。



 わたしはついさっきまで、部屋にいたはずだ。

 好きな飲み物で甘いお菓子を食べて、好きな動画を流しながら同じ漫画を読んでいた。

 そんな休日を謳歌していた。

 体を確認する。恰好は部屋にいたころと同じだ。



 意味が分からず、わたしの頭は真っ白になる。

 人って、理解できないことに遭遇すると、本当に頭が真っ白になるんだと思っていると、ことの重大さに気づき、不安や恐怖が徐々に表れてくる。



「夢だ。夢に違いない。もう、ひどいなぁ」



 わたしは頬を引っ張ってみる。

 こんな時のお約束みたいなもの。お約束通り、頬は痛かった。

 だから、夢じゃない。感じられる何もかもが夢でないことを肯定している。そんなことを薄々理解していたけども、でも否定したかった。



「…………異世界とか、なんてことないよね?」



 そう言って笑う。乾いた笑いしか出ない。

 でももしも本当にそうなら。

 わたしは嬉しい気持ちと、不安の二つを同時に感じる。

 わたしが知る異世界へ行く作品だと、主人公は王子や騎士に助けられたりしていた。もしくは神様が目の前に現れて能力を授けてくれたり。

 もしかしたらわたしにもそんな展開があるかもしれない。

 そんな展開がないのかもしれない。



「とにかく、まずは動かないと」



 わたしは立ち上がり、壁に触れてみることにした。

 まずここから脱出しないと。

 すると、壁にわたしは触れることが出来なかった。

 のけ返されたわけではない。ただ感触の無い空気に触れるように、わたしの手は壁の中に入っていったのだ。

 こてっと、わたしは壁の中に前のめりで倒れてしまう。

 予想外のことに体が対応できなかった。



「…………いたた」



 鈍い痛みが手のひらを襲う。

 わたしは顔を上げて辺りを見渡した。

 そこは横に長い廊下だった。わたしの体は半分壁に埋まっている。でも埋まっている感触はない。わたしは信じられないと言った目で体を起こした。

 壁が透き通っている。

 壁が壁として機能していない。ホログラムみたいな、あるいは幻覚?



「…………壁がない?」



 わたしは最初の部屋に戻り、別の壁に触る。

 他の壁は触れた。ここだけ触れない壁で、壁の先に通路があった。

 意味が分からない。

 普通の壁があるようにしか見えない。

 気づいたら知らない所にいる時点で理解に苦しむのに、さらにわたしの知る世界では到底不可能なことが目の前で起きている。



 それでも、前向きに行こう。

 扉のない部屋から出られたことを喜ぶことにした。

 出られない部屋よりかはマシだ。

 多分通路にも先がある。



 わたしは再び通路へ出た。



 通路にも扉はない。長さは十数メートルぐらい。横幅はあまりなく、わたしが両手を伸ばせば届くほどだった。

 部屋があるのは、ちょうど通路の真ん中あたり。

 わたしはまず、横壁に触れながら、通路の先へ行くことにした。通路の先に行くまで、横に壁は最初の部屋以外見当たらない。

 通路の先、その壁には触れられない。



「続きがある」



 後ろはどうなっているのだろう。わたしは振り返り、通路の反対も確認することにした。

 反対側にもやっぱりと言うか、壁があった。

 二つの壁。どちらから行こうか、なんてわたしは呑気に考える。



「下手したら死ぬかもしれない、のかな」



 良く分からない世界で、良く分からないことが起きている。だからそんなこともあり得るかもしれない。

 死なんて考えたくはないけども。

 悪い未来へは対策しないといけない。無造作に通路の先に出るのは危険だ。もしかしたらトラップが仕掛けられているかも。



 でももしかしたら。

 通路の先で王子様とか騎士様に出会うかもしれない。最初は不振感を抱かれるけども、少しずつわたしは仲良くなっていって。

 そんな可能性を抱くことにした。そうすると勇気がどこからともなく芽生えた。



 わたしは通路の壁に顔を入れる。

 手ではなく、先がどうなっているかだけ見ようと思った。

 顔を壁に入れるのは少し怖くて、瞳を閉じていた。壁の先で目をゆっくりと開ける。辺りを見渡す。また通路が続いていた。

 誰もいない通路。少し長い。



「良かった」



 そう呟いて、わたしは体を壁に入れて、通った時、それに気づいた。小さいそれはわたしの足元にいた。だからわたしはそれに気づくのが遅れた。



 小さなまん丸鼻。小さなつぶらな瞳。小さな耳。小さな尻尾。ピンク色の体。

 間違いない。どうみてもブタだ。家畜として食べているブタだ。ブタなのに眼鏡をかけている。

 どうしてブタが通路にいるのだろう。

 そんなことを呑気に思った時、ブタもまたわたしに気づいた。一瞬目と目が合う。

 ブタは目を細めて、わたしを怪しそうに見る。



「どうしてこんなところに人間がいるんだい?」



 少し警戒心が籠った声でブタが喋った。

 わたしは信じられないと言った目でそのブタを見てしまう。そして次の瞬間には悲鳴に近い声で叫んでしまった。



「ブタがしゃべったあぁ!?」



 もしもわたしをこの世界に送ったのが神様なら。

 そんな神様に言いたい。

 わたしの異世界での最初の出会いをブタにするなんて、生涯をかけて呪い続けてやる!
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