異世界に来たので魔王城のメイドとしてスローライフを楽しむ予定です~あと魔王はブタです~

PIGPIG

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序章

ステータスを確認した

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「それでは、まず、今後のことを考えないといけませんね。ああ、私の前で記憶喪失のフリをする必要はありませんので。どうか、普段通り接してください」



 ハクガさんに連れてこられた場所は応接間だった。向かい合うソファ。その間に長方形のテーブル。壁には二つの大きな本棚と、絵画が飾られている。

 上座に座らされたわたしは、一段落できるなんて思っていると、そんな予想外の言葉を聞いてしまう。

 ハクガさんはさらりとわたしの記憶喪失のフリを見抜いたのだ。



「何時気づいたのですか?」



 たいして喋っていないのに、どうしてバレたのかが分からない。

 するとハクガさんはくすっと笑って、こう答えた。



「だって、私はサキュバスですので、人の心を読むことなんて造作もありません」



「なる…………ほど」



 サキュバスですのでなんて言われても、私はサキュバスなんて未確認生物、詳しく知らないから当たり前のように言われても困るのだけども。

 なんて思いながら、失敗したなと内心焦る。



 そもそも、わたしが思っていることすべてがハクガさんに筒抜け?



 なんてすごい能力、それでいて相手にとって酷い能力なのだろう。

 今のところ酷いことも、恥ずかしいことも考えていないけども、今後心が読まれても良いようにしないといけない。

 というか心を読まれるが純粋に恥ずかしい。

 無心でいなくちゃ。



「安心してください。あくまで抽象的なものでして、何を思い、何を考えているのかを一文字一句理解できるわけではありません」



 無心。無心。無心。なんて心の中で繰り返していると、ハクガさんはそんな言葉を付け加えた。

 それを聞いて少し安心する。

 抽象的なものが良く分からないけども、心の声を一文字一句読まれているわけではないみたいだ。



「記憶喪失のフリをしたのも、結局のところは自身を守ろうとしたのでしょう?」



 ハクガさんに言われて、全くその通りのためにわたしは頷く。



「ごめんなさい。気づいたらここにいて、咄嗟の判断でうそをついて」



「いえいえこちらこそ、ごめんなさい。そして安心してください。危害を加えるつもりはありません」



「ありがとうございます。魔族って優しいのですね」



 わたしはぽつりと思ったことを呟いた。わたしが思い描く魔族と大きく異なるからだ。

 するとハクガさんは少し困った様子で答える。



「あることを除き、人間に危害を加える魔族はまずいません。それを置いておいて、私たちが魔族の中でも特殊なのも事実です」



 ハクガさんはさてと話を本題に戻す。



「それで、どうしましょうか。一番の手はあなたを人間界に送ることですが」



「…………人間界」



 人間界に行って、わたしはどうなるのだろうか。

 言葉は通じるみたいだけども、いや言葉もあくまで魔族とだけで人間には通じないかもしれない。知識や常識は大きく異なるだろうし。

 そんな世界で一人で生きていく?

 多分無理だ。



「人間界が怖いですか?」



「少し」



 わたしはハクガさんの質問に素直に頷く。



「それは、嘘をついた理由でもあるのでしょうか? とにかく、ひとまずこの城で保護の名目の元、数日住まわせることは出来ますが…………」



「この城で働くことはできませんか?」



 わたしはそんなことを提案した。



「働く、ですか?」



「ダメですか?」



「ダメではありませんが、魔界で働きたいなんて、不思議な方ですね」



 そうなのだろうか。

 この世界の常識を知らないから分からないけども、そこまで可笑しいことをわたしは言ったのだろうか。



「人間が働く魔王城。人手は足りていませんし、人間も働ける魔王城というのは、魔王様にとっても都合が良いはず。あまり悪い提案ではない? ですが、人権問題が中々」



 ぶつぶつとハクガさんは呟く。



「少しそれについては確認が必要ですね。まず人間界にあるであろうあなたの人権をこちらに移せるかどうかも大事ですし」



「人権?」



「ええ、あなたの人権をこちらに移さないと、人間を誘拐し、無理やり働かせていると捉えられても困りますから」



 わたしの知る人権と言葉の意味は少し違うみたいだ。

 移すなんて、まるで。住民票みたいな言い方だ。



「人権って何ですか?」



 素直に聞いたわたしにハクガさんは少し驚いた表情をした。



「人権は…………人の権利と氏名、住所などについてまとめられた公文書のことです。人間一人一人が持っていて、国が管理しています」



「多分、それ、ないです」



「ない? そんなはずはないと思います。だって」



 ハクガさんはそう呟いて、わたしがウソをついていないことを、抽象的な心を読む力で見抜く。



「もっと特別の事情があるのでしょうか? とにかく、人権がないのは働く上では少し好都合ですね」



「そうなんですか?」



「人権がない、ということは、その人間に対して何をしても許されると同義ですので」



 なんだか少し怖い言葉を聞いた。

 確かに人権とはそういうものかもしれない。



「人権がないと分かれば、他の魔族であればあなたに酷い目を負わせたかも。人間界でも安全ではありませんね。人権がない人間に喜々として危害を加える人間もいることでしょうし。最初に出会ったのが私たちで本当に良かったと思います」



 まるでどうあがいても、危害を加えるつもりが無いという風に聞こえる。

 どうしてそこまでここにいる魔族は優しいのだろうか?

 ただ、今回は人権がないことが功を奏したみたいだ。



「あなたの今後も含めて、ここで働くは一番良い考えでしょうね」



 ハクガさんはそう答えて、わたしは内心喜ぶ。



「今日は客室でゆっくりしてください。本はたくさんありますから、暇をつぶすのは簡単だと思います。働くについては、これから私の方で詰めていきますので」



「ありがとうございます」



「それでは、とりあえず、ステータスを確認させてください」



「…………ステータス?」



 ゲームの世界で聞く単語がふらっと出てきた。

 首を傾げるわたしにハクガさんは当たり前の知識のようにうなずく。



「与える仕事の目安になりますので」



「どうやって確認するのですか?」



「ステータスも知らないですか?」



「単語は知っていますが、多分ハクガさんの知るステータスは知らないです」



「そうなんですね。ステータスは、ステータスを確認したいと思えば、その者の目の前に表示されます」



 思うだけでステータスが表示される。

 少し信じられないことだけども、異世界では普通なのだろうか。とにかく異世界に来たのだから、、もしかしたらわたしのステータスはとんでもない高い表示を出されるかも。

 なんて希望を抱きながら、わたしは心の中でステータスを確認したいと考える。



 淡い光がわたしの前で発行し、それはゲーム画面のように現れた。

 黒い面に白い文字で描かれている。



 体力:E 魔力:E 攻撃力:E 防御力:E 魔法攻撃力:E 魔法防御力:E

 俊敏性:E 知力:E 魅力:C 品性:D 精神:C

 スキル:0



 どうなのだろうか。

 見たところ、あまり良くなさそうな。

 そんなわたしのステータスを確認してハクガさんは少し気まずそうに呟く。



「…………正直に申しますと、全体的に低いですね」



「…………低かった」



 わたしは落胆の声を漏らした。
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