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第二部 新たな出逢い。そして――。
三十二発目 幼女バトル勃発。その時、保護者たる俺は――。
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「わたし、つよい、なの!」
身の丈もある巨大な盾を地面に突き立てるナイチチちゃんは、そう言って自らを鼓舞する。
例の如くな絶対防乳の姿勢で乳構え、彼女らを迎え撃つようだ。
どんな敵であろうと関係なく、如何なる状況でも常に率先して矢面に立つ勇敢な美幼女は、相手が何であろうとも怯えることなく、皆を守る難攻不落な幼塞と化し、一人そこに留まり迎え撃つ。
「ある、いく、です!」
「はわわっ⁉︎ また、ふんだ、なの!」
だがしかし。
そんなナイチチちゃんを容赦なく踏み台にするアルチチちゃんは、空中へと舞い上がる。
そして身の丈もある専用の戦鎚を振り翳し、単身での強撃に打って出てしれっと無碍にするときた。
「ひんじゃくぅ、ひんじゃくぅ、じゃ!」
身の丈を優に超える白銀の鉾槍で、アルチチちゃんの重い一撃をだるんだるんと軽く受け流すタレチチちゃん。
「もえろ、あたくしの、こすも、だわ!」
すかさず身の丈を優に超える炎を纏う長槍で、体勢を崩したアルチチちゃんの真横から、隙を突いたばいんばいんな鋭い一撃を見舞うハミチチちゃん。
「めっ、なの!」
そこに揺らし歩く幼塞たるナイチチちゃんが間一髪で割り込み、ばい~んと弾き返した。
「ぺちゃんこ、です!」
無事に着地したアルチチちゃんが、素早く地面を蹴り抜き、弾き飛んで体勢を崩すハミチチちゃんとの間合いを一気に詰める。
「ぐす……あにょうれいん……にょ」
シタチチちゃんが身の丈もある弦の張られてない長弓で、その間合いを埋め尽くすほど、大量のマジックアローを降らせ邪魔をする。
――とかなんとかな、手に汗握ってドキドキハラハラな白熱した幼女バトルを、絶賛、繰り広げてる真っ最中だったり。
俺にしても手を出したくても出せない退っ引きならない状態で、直ぐ側で拝謁させられてるだけの状況に陥ってる現状。
敵味方に別たれた容姿が同じ五人の幼女――至高の御方たる幼乳神様達による夢の共演。
まさにお遊戯会よろしくな、何処かほっこりするような、小動物らが戯れるキャットファイトの様相。
崇高で尊い御召し物を盛大にこんにちは。
凶悪に揺れ動くお至宝様。
真剣な表情でも純真無垢な天使然とした御尊顔。
歴戦の猛者であっても耐え難し破壊力。
――と、いつもなら尊い姿にほっこりして見守っているところ。
だがしかし、現実はまるで違っていた――。
一歩間違えば大惨事必至なヤバさテラMAXな、俺の見解が甘かったでは済まなそうな、凄まじい大人顔負けの緊迫したヤバい攻防を繰り広げている始末。
「向こうの三人は小悪魔だね。って、草生やし放題でほっこりするつもりだったのに……これは洒落になんないって。こんなの……どうやって止めれば……」
未だ不足の事態に備え身構えているも、どう対処すれば良いか解らない俺は、目で追いつつそう呟く。
すると――。
『放っておけば良かろう?』
背後から、突然、そんなことを平然と言われた。
なので慌てて振り返る。
「――え?」
振り返って目にした姿はセバスちゃんでもヨメさんでもなかった。
『貴様……少々、稀有な存在のようであるな』
背後に居たのは、天空から優雅に舞い降りて悪意を撒き散らしていた、あの漆黒の巨大な竜。
その禍々しく巨大な頭が、俺の目と鼻の先にあったのだった。
「――な⁉︎」
あまりのことに萎縮し、驚くだけで全く対応できず、情けない声を出しただけ。
『小僧、そう怯えるな。我は貴様らに危害を加える気は失せた。少々、確かめたいことがあるのでな? それを確認してからだ。小僧、少しばかりそのように動かずじっとしておれ。直ぐに済む』
俺の身長に匹敵するほどの瞳孔が縦に細い巨大な赤い眼をギロリと向けて、酷く低い迫力ある声で頭の中に直接そう伝えてきた。
漆黒の竜――暗黒竜が仰る通り、自分の身体の中を醜悪な虫が蠢き這いずり回っていくような嫌悪感、絶望を知るに等しい死の恐怖、それを確実なものと幻視させる悪意は全く感じず完全に失せていた。
だがしかし、それでもただ睨まれるだけで、全身から嫌な汗が噴き出す。
『小僧、安心するが良い。我は約束を決して違えぬ』
目蓋を半分閉じた赤い眼が、一瞬、妖艶に輝いたように見えたその瞬間――。
「あ……」
急激に思考が曖昧になって意識が遠退く。
全身から力が抜け、漆黒の両手剣が手から滑り落ちる。
そのまま膝が折れへたり込んだ俺は、地面へと倒れ込んでしまった。
船酔いのような頭を揺らされる妙な浮遊感。
そんな摩訶不思議な感覚を経て、思考が朧げになっていく。
「ナ……ナイチ……チ……ちゃ――」
ナイチチちゃんらの戦っている姿が次第に遠退き、そのまま闇に閉ざされたのだった――。
◇◇◇
足元には澄みきった湖のような水面が広がっていた。
遥か先には地平線が窺える。
空と言うかな上空の半分は白く輝き、残り半分は闇に覆われた、現世とはかけ離れた雰囲気の、なまら広大な空間が伸び広がっている――。
そんな俺の隔離された深層世界の中心に、立つと言うよりは胡座を組んで浮かぶ、或いは揺蕩っている者が居た。
不愉快さを隠す気もなく、突如、侵食してきた暗黒竜に向けて、凄味ある睨みを効かせていた――このオレだ。
「オイコラ、この駄竜っ! 許可もなく俺の中に入ってくんなっ! 潜在意識の最下層まで最も簡単に降りてくるなっつーのっ! あまつさえオレ覗き見んじゃねーよっ、駄竜っ!」
中指を立ててメンチ切っての暴言三昧。
『小僧……貴様はもしや――しかしそんな筈が……言葉遣いにしても……』
巨大な首を訝しげに傾け、鼻を鳴らし思案する暗黒竜。
「アァ? テメェ……誰に向かってほざいてる? オレに向かって小僧だぁ~? 貴様だぁ~? 何様のつもりだぁ~?」
『――あ、いえ、その。ですが……』
顎をしゃくって堂々とメンチを切ってやるオレのあまりの態度の悪さに、流石の暗黒竜もドン引いてタジタジ。
「けっ、喧しい! たかだか羽根の生えた卑しい雌蜥蜴の分際で……図体がデカっいだけの駄竜如きがオレ様に口答えすんな、ボケ!」
仰々しく腕を振り抜き、中指をおっ立てつつ更に罵倒する。
『小――貴、いや……もしや魔王……様っ⁉︎ えー⁉︎ 嘘、嘘、嘘っ、なんでっ⁉︎ そんなっ、まさかっ⁉︎」
オレの正体に目処がついたのか、瞳孔が縦に細い爬虫類然とした赤い眼を見開いて驚愕した。
「けっ、ペット以下の単なる乗り物の分際で、オレ様を疑うとはな? 気配で察しろよ、ド阿呆っ! 長い隠居生活で遂にボケやがったか? ならばその身体で思い出させてやんよ、オラオラオラー!」
『ちょ、ちょ、待ってっ⁉︎ き、消えちゃう⁉︎ 我――いえ、私は今はアストラル体でっ⁉︎ 直接そんなことされたら――あ、ちょっ、らめぇ⁉︎ いやぁ⁉︎』
怒るオレから筆舌し難い折檻を受ける暗黒竜。
仰向けに横たわる暗黒竜の大切な秘部を足蹴にしての、容赦のない強烈なストンピングをお見舞いしてやる。
「けっ、身のほどを知れ! 駄竜如きが偉そうに。最早、堕竜だ、堕竜! ああ、スッキリした」
『こんにゃの……ひらなぁい……も、もぅ……お嫁に……あふぅ……いけにゃい……あふぅ』
更に舌をダラリと垂らし、更に涎まで垂らして悦っている暗黒竜の巨大な顔に親指を下に向けて見せつけての勝利宣言……と言うか単に罵倒だな。
「阿呆か。堕竜以前に、空を飛べるだけの卑しい雌蜥蜴風情が何をほざくか。潜在意識の奥深くな身体なき精神世界で激しく、なまら激しく依存するくらい激しく悪戯しただけやろーが? ――って、まぁ良い。お前さ、ちょっとオレでなく俺の肉便――ウォッホン。下僕……雌だから下婢か。今日からカのつく召使いな?」
仰向けに横たわる暗黒竜の腹の上に、胡座を組んでドカリと座るとそう告げた。
『――っひぇ?』
長い首を鎌首状に持ち上げて、キョトンとする暗黒竜。
最早、威厳もへったくれもないないな、お前。
「その身体――雌蜥蜴の尊厳を全て差し出すんなら、オレに不敬を働いた罪は不問にしてやるっつってんだよ」
『下婢……下婢でしゅか』「アァ?」
『ヒィっ⁉︎ 下婢、素敵ですっ! 下婢、実に良い響きですっ! あ、身に余る素晴らしき下婢、有り難き幸せな下婢に御座いますっ! ま、魔王様っ!』
「けっ、今は俺と同化してる身のオレだからな。呼び方はせめて――そうだな、ご主人様くらいにしとけ。それとな、オレでなく俺だって言ってる意味、いい加減に察しろ、この阿呆堕竜」
思いっきりグゥで腹パン。
『あ痛っ⁉︎ ――畏ま……解りました』
「うん、素直で結構。あとお前さ、羽根付き蜥蜴の中では美人の部類な雌だったろ? 下婢として付き従う普段の姿だけどな、駄肉たっぷりの超絶美人で居てやれ。潜在意識の奥深くに潜ってる今なら、オレでない俺の好みも読み解けるだろ? 存外、悦ってくれるだろうしな俺――うひひ」
『なんでしょう……私の知っている魔――ご主人様とはだいぶ口調も雰囲気も……モヤっとする性格だけ同じで……あ痛っ⁉︎ た、叩かないで下さい! えーと、駄肉たっぷりの美人に御座……ですか?』
「おう。んで誠心誠意、俺を守ってやれ。その駄肉で徹底的に揶揄ってやれ。それとな――こほん」
咳払いのあと胡座を組んだままに姿勢を正し。
「――ちっちょい娘ら五人のことも宜しく頼む。自由に動けない俺とオレの代わりに……どうか守ってやってくれ」
巫山戯た態度を改めて、真摯に頭を下げる。
『魔――ご主人様っ⁉︎ 我――いえ、わ、私……いえ、下婢如きに頭を下げるなど――』
「良いんだよ。今は魔王であって魔王じゃない、オレであって俺だ。そこを間違ったらな、寝てる時にお前の潜在意識に潜り込んで――雄を見れば発情しっ放しでドン引きさっせるくらいでそれに依存するほどの過酷な悪戯をだな……夜な夜な繰り返し施すっかんな? うひひ」
暗黒竜の秘部から下腹部を、それはもう筆舌し難い怪しげな手の動きで徹底的になぞってやる。
『――アヒィッ⁉︎ ダ、ダメ、ダメなのぉ~⁉︎ イヤァ~っ!?』
『くっくっく。頼むぜ堕竜? ほれほれ、ここがええのんか、ええのんか』
手、脚、尻尾をピンっと伸ばし、舌と涎をだらしなく垂らしてブルブルと身悶え震える暗黒竜は、長い首をウンウンと必死に動かしイエストカゲと成り下ったのだった。
存外、無様過ぎるわ……お前。
――――――――――
恐怖心を、散々、煽って現れた死の権化。
暗黒竜、実は残念なただの雌蜥蜴だった⁉︎ ∑(゚Д゚)
身の丈もある巨大な盾を地面に突き立てるナイチチちゃんは、そう言って自らを鼓舞する。
例の如くな絶対防乳の姿勢で乳構え、彼女らを迎え撃つようだ。
どんな敵であろうと関係なく、如何なる状況でも常に率先して矢面に立つ勇敢な美幼女は、相手が何であろうとも怯えることなく、皆を守る難攻不落な幼塞と化し、一人そこに留まり迎え撃つ。
「ある、いく、です!」
「はわわっ⁉︎ また、ふんだ、なの!」
だがしかし。
そんなナイチチちゃんを容赦なく踏み台にするアルチチちゃんは、空中へと舞い上がる。
そして身の丈もある専用の戦鎚を振り翳し、単身での強撃に打って出てしれっと無碍にするときた。
「ひんじゃくぅ、ひんじゃくぅ、じゃ!」
身の丈を優に超える白銀の鉾槍で、アルチチちゃんの重い一撃をだるんだるんと軽く受け流すタレチチちゃん。
「もえろ、あたくしの、こすも、だわ!」
すかさず身の丈を優に超える炎を纏う長槍で、体勢を崩したアルチチちゃんの真横から、隙を突いたばいんばいんな鋭い一撃を見舞うハミチチちゃん。
「めっ、なの!」
そこに揺らし歩く幼塞たるナイチチちゃんが間一髪で割り込み、ばい~んと弾き返した。
「ぺちゃんこ、です!」
無事に着地したアルチチちゃんが、素早く地面を蹴り抜き、弾き飛んで体勢を崩すハミチチちゃんとの間合いを一気に詰める。
「ぐす……あにょうれいん……にょ」
シタチチちゃんが身の丈もある弦の張られてない長弓で、その間合いを埋め尽くすほど、大量のマジックアローを降らせ邪魔をする。
――とかなんとかな、手に汗握ってドキドキハラハラな白熱した幼女バトルを、絶賛、繰り広げてる真っ最中だったり。
俺にしても手を出したくても出せない退っ引きならない状態で、直ぐ側で拝謁させられてるだけの状況に陥ってる現状。
敵味方に別たれた容姿が同じ五人の幼女――至高の御方たる幼乳神様達による夢の共演。
まさにお遊戯会よろしくな、何処かほっこりするような、小動物らが戯れるキャットファイトの様相。
崇高で尊い御召し物を盛大にこんにちは。
凶悪に揺れ動くお至宝様。
真剣な表情でも純真無垢な天使然とした御尊顔。
歴戦の猛者であっても耐え難し破壊力。
――と、いつもなら尊い姿にほっこりして見守っているところ。
だがしかし、現実はまるで違っていた――。
一歩間違えば大惨事必至なヤバさテラMAXな、俺の見解が甘かったでは済まなそうな、凄まじい大人顔負けの緊迫したヤバい攻防を繰り広げている始末。
「向こうの三人は小悪魔だね。って、草生やし放題でほっこりするつもりだったのに……これは洒落になんないって。こんなの……どうやって止めれば……」
未だ不足の事態に備え身構えているも、どう対処すれば良いか解らない俺は、目で追いつつそう呟く。
すると――。
『放っておけば良かろう?』
背後から、突然、そんなことを平然と言われた。
なので慌てて振り返る。
「――え?」
振り返って目にした姿はセバスちゃんでもヨメさんでもなかった。
『貴様……少々、稀有な存在のようであるな』
背後に居たのは、天空から優雅に舞い降りて悪意を撒き散らしていた、あの漆黒の巨大な竜。
その禍々しく巨大な頭が、俺の目と鼻の先にあったのだった。
「――な⁉︎」
あまりのことに萎縮し、驚くだけで全く対応できず、情けない声を出しただけ。
『小僧、そう怯えるな。我は貴様らに危害を加える気は失せた。少々、確かめたいことがあるのでな? それを確認してからだ。小僧、少しばかりそのように動かずじっとしておれ。直ぐに済む』
俺の身長に匹敵するほどの瞳孔が縦に細い巨大な赤い眼をギロリと向けて、酷く低い迫力ある声で頭の中に直接そう伝えてきた。
漆黒の竜――暗黒竜が仰る通り、自分の身体の中を醜悪な虫が蠢き這いずり回っていくような嫌悪感、絶望を知るに等しい死の恐怖、それを確実なものと幻視させる悪意は全く感じず完全に失せていた。
だがしかし、それでもただ睨まれるだけで、全身から嫌な汗が噴き出す。
『小僧、安心するが良い。我は約束を決して違えぬ』
目蓋を半分閉じた赤い眼が、一瞬、妖艶に輝いたように見えたその瞬間――。
「あ……」
急激に思考が曖昧になって意識が遠退く。
全身から力が抜け、漆黒の両手剣が手から滑り落ちる。
そのまま膝が折れへたり込んだ俺は、地面へと倒れ込んでしまった。
船酔いのような頭を揺らされる妙な浮遊感。
そんな摩訶不思議な感覚を経て、思考が朧げになっていく。
「ナ……ナイチ……チ……ちゃ――」
ナイチチちゃんらの戦っている姿が次第に遠退き、そのまま闇に閉ざされたのだった――。
◇◇◇
足元には澄みきった湖のような水面が広がっていた。
遥か先には地平線が窺える。
空と言うかな上空の半分は白く輝き、残り半分は闇に覆われた、現世とはかけ離れた雰囲気の、なまら広大な空間が伸び広がっている――。
そんな俺の隔離された深層世界の中心に、立つと言うよりは胡座を組んで浮かぶ、或いは揺蕩っている者が居た。
不愉快さを隠す気もなく、突如、侵食してきた暗黒竜に向けて、凄味ある睨みを効かせていた――このオレだ。
「オイコラ、この駄竜っ! 許可もなく俺の中に入ってくんなっ! 潜在意識の最下層まで最も簡単に降りてくるなっつーのっ! あまつさえオレ覗き見んじゃねーよっ、駄竜っ!」
中指を立ててメンチ切っての暴言三昧。
『小僧……貴様はもしや――しかしそんな筈が……言葉遣いにしても……』
巨大な首を訝しげに傾け、鼻を鳴らし思案する暗黒竜。
「アァ? テメェ……誰に向かってほざいてる? オレに向かって小僧だぁ~? 貴様だぁ~? 何様のつもりだぁ~?」
『――あ、いえ、その。ですが……』
顎をしゃくって堂々とメンチを切ってやるオレのあまりの態度の悪さに、流石の暗黒竜もドン引いてタジタジ。
「けっ、喧しい! たかだか羽根の生えた卑しい雌蜥蜴の分際で……図体がデカっいだけの駄竜如きがオレ様に口答えすんな、ボケ!」
仰々しく腕を振り抜き、中指をおっ立てつつ更に罵倒する。
『小――貴、いや……もしや魔王……様っ⁉︎ えー⁉︎ 嘘、嘘、嘘っ、なんでっ⁉︎ そんなっ、まさかっ⁉︎」
オレの正体に目処がついたのか、瞳孔が縦に細い爬虫類然とした赤い眼を見開いて驚愕した。
「けっ、ペット以下の単なる乗り物の分際で、オレ様を疑うとはな? 気配で察しろよ、ド阿呆っ! 長い隠居生活で遂にボケやがったか? ならばその身体で思い出させてやんよ、オラオラオラー!」
『ちょ、ちょ、待ってっ⁉︎ き、消えちゃう⁉︎ 我――いえ、私は今はアストラル体でっ⁉︎ 直接そんなことされたら――あ、ちょっ、らめぇ⁉︎ いやぁ⁉︎』
怒るオレから筆舌し難い折檻を受ける暗黒竜。
仰向けに横たわる暗黒竜の大切な秘部を足蹴にしての、容赦のない強烈なストンピングをお見舞いしてやる。
「けっ、身のほどを知れ! 駄竜如きが偉そうに。最早、堕竜だ、堕竜! ああ、スッキリした」
『こんにゃの……ひらなぁい……も、もぅ……お嫁に……あふぅ……いけにゃい……あふぅ』
更に舌をダラリと垂らし、更に涎まで垂らして悦っている暗黒竜の巨大な顔に親指を下に向けて見せつけての勝利宣言……と言うか単に罵倒だな。
「阿呆か。堕竜以前に、空を飛べるだけの卑しい雌蜥蜴風情が何をほざくか。潜在意識の奥深くな身体なき精神世界で激しく、なまら激しく依存するくらい激しく悪戯しただけやろーが? ――って、まぁ良い。お前さ、ちょっとオレでなく俺の肉便――ウォッホン。下僕……雌だから下婢か。今日からカのつく召使いな?」
仰向けに横たわる暗黒竜の腹の上に、胡座を組んでドカリと座るとそう告げた。
『――っひぇ?』
長い首を鎌首状に持ち上げて、キョトンとする暗黒竜。
最早、威厳もへったくれもないないな、お前。
「その身体――雌蜥蜴の尊厳を全て差し出すんなら、オレに不敬を働いた罪は不問にしてやるっつってんだよ」
『下婢……下婢でしゅか』「アァ?」
『ヒィっ⁉︎ 下婢、素敵ですっ! 下婢、実に良い響きですっ! あ、身に余る素晴らしき下婢、有り難き幸せな下婢に御座いますっ! ま、魔王様っ!』
「けっ、今は俺と同化してる身のオレだからな。呼び方はせめて――そうだな、ご主人様くらいにしとけ。それとな、オレでなく俺だって言ってる意味、いい加減に察しろ、この阿呆堕竜」
思いっきりグゥで腹パン。
『あ痛っ⁉︎ ――畏ま……解りました』
「うん、素直で結構。あとお前さ、羽根付き蜥蜴の中では美人の部類な雌だったろ? 下婢として付き従う普段の姿だけどな、駄肉たっぷりの超絶美人で居てやれ。潜在意識の奥深くに潜ってる今なら、オレでない俺の好みも読み解けるだろ? 存外、悦ってくれるだろうしな俺――うひひ」
『なんでしょう……私の知っている魔――ご主人様とはだいぶ口調も雰囲気も……モヤっとする性格だけ同じで……あ痛っ⁉︎ た、叩かないで下さい! えーと、駄肉たっぷりの美人に御座……ですか?』
「おう。んで誠心誠意、俺を守ってやれ。その駄肉で徹底的に揶揄ってやれ。それとな――こほん」
咳払いのあと胡座を組んだままに姿勢を正し。
「――ちっちょい娘ら五人のことも宜しく頼む。自由に動けない俺とオレの代わりに……どうか守ってやってくれ」
巫山戯た態度を改めて、真摯に頭を下げる。
『魔――ご主人様っ⁉︎ 我――いえ、わ、私……いえ、下婢如きに頭を下げるなど――』
「良いんだよ。今は魔王であって魔王じゃない、オレであって俺だ。そこを間違ったらな、寝てる時にお前の潜在意識に潜り込んで――雄を見れば発情しっ放しでドン引きさっせるくらいでそれに依存するほどの過酷な悪戯をだな……夜な夜な繰り返し施すっかんな? うひひ」
暗黒竜の秘部から下腹部を、それはもう筆舌し難い怪しげな手の動きで徹底的になぞってやる。
『――アヒィッ⁉︎ ダ、ダメ、ダメなのぉ~⁉︎ イヤァ~っ!?』
『くっくっく。頼むぜ堕竜? ほれほれ、ここがええのんか、ええのんか』
手、脚、尻尾をピンっと伸ばし、舌と涎をだらしなく垂らしてブルブルと身悶え震える暗黒竜は、長い首をウンウンと必死に動かしイエストカゲと成り下ったのだった。
存外、無様過ぎるわ……お前。
――――――――――
恐怖心を、散々、煽って現れた死の権化。
暗黒竜、実は残念なただの雌蜥蜴だった⁉︎ ∑(゚Д゚)
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