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第一部 現代編――。

第一一話 MVPは下衆徒君。

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「……ここは」

 俺の部屋に連れ帰り、布団に寝かせていた姫君の目蓋がゆっくりと開く。

「――よう。やっと目が覚めたか、姫君?」

 軽い挨拶で、目を覚ます姫君に声を掛けた。

「……ア、アーネスト様っ⁉︎」

 布団から上半身を起こし、慌てて毛布で胸回りを隠すと、キョロキョロと周りを見渡す姫君。

「では、ここは……」

 一泊の間を置いたあと、そう尋ねてきた。

「お察しの通り、こっち現代の世界の俺んだな。――さて、姫君はどうして素っ裸でこっちに渡ったんだ? 見るからに不本意っぽくあるんだけど……あっち異界で何かあったのか?」

 姫君は工事現場に素っ裸で倒れていた。
 しかも高位の悪魔まで引き連れて。
 正しい手順で異界渡りをして来たとは、到底、思えない状態だったんだよね。
 まぁ、はついてはいるけども。実に面倒臭い事態が転がり込んだ予感がね?

「はい……。実は……魔物の群勢が城に攻め入り、命からがらこの異界へと逃げてきたのです」

 俯いて静かに話す姫君。

「――やっぱり。高位の悪魔がくっついて来てたから、そうじゃないかとは思ってたよ」

 護衛もなく単身で命からがら逃げてくる状況。それはつまり、姫君の住む居城は、既に落とされたと見て間違いないな。
 それがなし得る軍勢であれば、最悪、彼の国自体も滅ぼされてるだろうな、きっと。

「はい。私達にはどうにもでき――えっ⁉︎ 高位の悪魔がこっちにっ⁉︎ 私はなんて愚かな――」

 向こうの状況を考察していた俺の耳に、素っ頓狂な悲鳴に近い叫びが届く。
 こっちの現世に悪魔が現れたと知り、目を見開き慄く姫君だった。

「ああ。マリーが嬉々として嬲って、徹底的にミンチにしてたから問題ないけどな?」

 大したことはなかっと安心させる意味で、俺は両手を大きく広げ肩を竦めて戯けてみせた。


 ◇◇◇


 魔力などのファンタジーなエネルギーには無縁の現代。
 だがしかし。こっちの世界にあって向こうの世界にないエネルギーも実はある。


 それは、電力。


 ミサに使っているように、魔力の代用として利用可能なエネルギーとなる。

 まぁ、それ以外には俺達人間の魂も代用可能なんだけど。生命力を吸い取って魔力の代わりに充てるって訳だ。

 ただし、人間一人から搾取できる量はたかが知れている。向こうの住人である姫君やマリー、人ならざるミサと下衆徒君ならば、内包している魔力量は規格外だろうけども。

 そして俺達の世界の住民に魔力はない。比べると乏しい生命力を内包するだけ。
 訓練された軍人らは別として、大半の人間は非力で無力な訳だ。
 異界の住民。ましてや悪魔と真っ向から本気でやり合って、勝てる可能性はゼロに等しい。

 もしも電力を奪われ、この世界に悪魔が蔓延ることにでもなれば、それはつまり。


 無限の殺戮……世界の終わりを意味するのと同義に陥入る事態となる――。
 

 だから姫君の世界では世界結界を施し、唯一の転移門を奪われないように死守している。
 それでも悪魔がこっちに渡ってしまう万一に備え、俺やミサ達がここに居るって訳だ。
 姫君もそれが解ってるから、悪魔が着いてきたことに取り乱したに過ぎない。
 早く手を打たないと、もっと面倒臭いことになりそうだな――。

「――感謝するが良い、じゃじゃ馬。誠心誠意、妾を崇め奉ってもやぶさかではないぞ?」

 美幼女姿のマリーが、悪人面全開のすんごいドヤ顔になって指を差す。

「――そうですか……良かった。えっと……ゲシュタルト様は?」

 マリーを華麗にスルーして、キョロキョロと部屋を見渡す姫君。

「――ここに」

 部屋の隅っこで完全に空気と化していた、中年太りの禿げたおっさんな下衆徒君。姫君に呼ばれ、即座に枕元で傅いた。


 気配の消し方が暗殺者っぽいのな。
 別に普通に居れば良いん違う?
 なんで空気と化してたんだよ?


「ああっ、ゲシュタルト様!」

 今は醜い下衆徒君を目にするや否や、すかさず抱きつく姫君。

「――ご無事で何よりに御座います」

 そのまま甲斐甲斐しく包み込むように支える下衆徒君だった。


 感動のご対面って場面なんだろうが、姫君の背中をまさぐる手つきが、存外、如何しいく感じるのは何? 俺の気の所為か?


「キモい」「激しく同意」『私も同意』

 マリーが醜悪な者を見る目で蔑み、俺もミサもそれに肯いて同意した。

「見た目は吐き気を催すほどに、整理的嫌悪感を覚える酷く醜悪なお姿であれど、私が心よりお慕い申し上げているゲシュタルト様ご本人には相違なく、また本質も変わりません! 如何しくて結構! 弄られて本望! ……ああ、お会いしたかったです!」

 俺達をキッと睨み、威勢良く啖呵をきり、再び下衆徒君にしっかりと身体を預ける姫君。


 何故か顔は明後日の方に背けて。


「無意識にトドメさせる姫君に脱帽」

 呆れた口調で俺が呟く。

「うむ。ポンコツは止むなし。下衆が、少々、哀れだの」

 呆れた口調でマリーも呟く。

『同情の必要は御座いません、アーネスト様、マリー様。下衆徒様は、自称、変態紳士に御座いますゆえ』

 下衆徒君がこっそり持っている何かに気づき、ジト目の視線を送って鋭いツッコミを放つミサ。

「私は……姫君……はぁはぁ……貴女には……はぁはぁ」

「――ゲ、ゲシュタルト……様?」

「貴女には――この下賤の者が身に纏う卑猥な薄い衣を……はぁはぁ……是非ともお召しになられ……はぁはぁ……」

 カタカナで『ヒメ』と書かれたスクール水着を何処からか出しておっ広げ、首から提げるカメラが、下衆徒君が今から何をしようと目論んでいるのかが伝わった。


 確かにお金は大事。生きる為には必要不可欠。でもね?


「私共の糧となりて――あ、痛いっ⁉︎」

「暴走するのも、時と場合と場所を弁えろっつーの。そんな場合か」

 背後から軽くチョップを喰らわしてやった。

「外見の醜悪さに……遂に気高い心までを侵されてしもうたか、下衆」

 とかなんとかなマリー。


 その美幼女にあるまじき薄ら笑いは、きっとザマァとか思ってんだろうな、うん。


『マリー様も時折、思考が幼児化しておられますよ?』

「なぬっ⁉︎」

 何処か他人事のように言っているマリーを、ミサが容赦なく断罪したあと。

『下衆様。気色悪さ炸裂に御座います。皆の前ではどうか自重して頂きますように』

 下衆徒君はそれ以上に断罪された。

 結局、皆から総ツッコミを喰らった当の本人である下衆徒君はと言うと。

「ああ……もっとっ!」 

 とかなんとか。嬉しさに打ち震え、恍惚の表情で身悶える下衆徒君だったり。


 それはもうキモさ全開の垂れ流し。
 キモくてキモくてキモいだけの、ただのキモい下衆徒君でした。このド変態め。


「ゲシュタルト……様……」

 自分の知っている恋慕の情を抱いていた相手が、内面までもが醜く歪んだ変態さ加減を目の当たりにした姫君。当然、言葉を失って呆然自失となってたり。


 くだんの本題に入るまで、軽く一時間を無駄にした。



 ――――――――――
 悪戯はまだまだ続く。(笑)
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