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第一六幕。

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 一度、宿の方に顔を出し、荷物の要る要らないを軽く整理した後、件の試練の間へと足を運ぶ。

 村外れの一角に神殿が建っており、その中から迷宮へと降りていくんだそうだ。
 村道を私と紅とで並んで歩く――。

「なぁ、紅。これって出所は何処から――」

 私が身につけている装備――腰の宝剣や防具を指し、紅に聴いてみた。

「知らぬと言っておろうに。儂には興味の無い物故に、本当に覚えておらぬ。嘘では無い。我が家に在ったと言う事実しか、な?」

 顰めっ面で答える紅。

「な? じゃないって、紅。――本当に宝探しになってたなんて、洒落にならんぞ?」

 試着時に妙にしっくり来ると思っていたのは、私の気の所為では無かったのか。
 宝剣にしても、鍛冶屋の店主には悪いが、買った剣とは比較にならない程、軽さも手の馴染み方も段違いだったしな。

「良かったではないか。主人の剣が妖刀やら魔剣の様な呪いの剣で無くて」

 私の顔を覗き込み、戯けてみせる紅。

「そんな危ない物は置かないでもらいたい! もしも発見する様な事がこの先であれば、持ち帰る迄もなく真っ先に叩き折って処分だからな、紅?」

 一応、釘を刺しておく私。
 間違って呪いの装備を着用しようものなら冗談では済まない。
 それで無くても私の身体は、呪い以上に複雑怪奇な状態なのだからな。

「――解っておる。言ってみただけだの」

 私の前に歩み出るとクルリと回り、悪戯っ子の笑顔で私に答える。
 そんな紅がとても可愛いらしく思えた――。

 村外れの少し先にある、ちょっとした丘の上に、目指す神殿が見えてきた。
 ただ、神殿と言う仰々しい名称よりは、小さな教会と言った方がしっくり来る様相だった――。

 敷居を潜り中に入ると、神官服に身を包んだご高齢の女性が、女神像の前で跪き祈りを捧げていた。

「あの、試練を受けに来ました」

 脅かさない程度の声量で、そっと用件を述べる私。

「ようこそ、若き未来の勇者様」

 ゆっくり立ち上がり私に向き直ると、丁寧にお辞儀をして歓迎してくれた。

「早速だが、どの様にすれば宜しいか?」

 面倒臭い挨拶は端折り、会釈にて挨拶を返し、試練の受け方を尋ねた私だった。

「其方の女神像に触れて頂きますと、試練の間――迷宮の入口にいざなわれます」

 先程まで祈りを捧げていた女神像を指し、そう優しく告げる女性神官。

 女神像に視線を移し良く見てみると、気の所為か超越者に酷似していた。
 あの婆さんを若くしたら、きっとこんな感じの姿だったんだろう。

「一つ、お聴きして宜しいか?」

「何を、で御座いましょう?」

「私は正規の手段でこの世界に呼ばれた者では無い。それでも受ける資格と言うのはあるのだろうか?」

 勇者なんて職業は無いし、あったら逆に怖い。
 普通は、それ相応の資格を有しているからこそ、勇者と呼ばれるからだ。
 その資格を持ち得ているのか、少し不安だったので尋ねた私。

「正規の召喚を経て来訪していないと仰るのですね。それは杞憂に御座います。この地に住う、勇者を目指す志の者も受け入れて御座います。故に誰方でも挑戦して頂けます。誘われた手段については些細な問題に過ぎません」

 目を瞑り、静かに答える女性神官だった。

 そうなのか。この世界の民は誰でも勇者になれる資格を有しているのか……ならば私でも大丈夫だな。

「そうか、ならば――」

 安堵し話を続けようとする私を遮って――。

「但し、勇者の資質無き者は、総じて命を落とされる結果になってしまわれますが」

 不穏当極まる事を、顔色一つ変えずに告げてきた女性神官だった。



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 気になる続きはCMの後!
 チャンネルは、そのまま!(笑)
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