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第三四幕。
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醜く肥え太っていた商人は、姿が変わっても同様に醜い蛙の姿だった。
私の二、三倍はある身体は、両性類独特の滑りを帯びて鈍く光っていた。
身体中に浮き出ている人面模様は、怨みがましく呪う悲痛な面持ちの、正しく人の肉で出来た顔で埋め尽くされていたのだった。
「ヒィ! た、助け――あがぁっ!」
直後、気色の悪い腐った色をした舌を伸ばし、脚を失った男を捕らえ捕食する。
咀嚼する度に骨が砕ける鈍い音と、グチュグチュと肉が潰れる汚らしい音が響き渡る――。
そして失った腕に相当する前脚を即座に再生し、舌舐めずりをしつつ視線をこちらに移してきた。
「魔族では無く、醜悪な魔物だったとは恐れ入る」
宝剣を身構え、油断無く見据える私。
魔物の視線の先は、紅達に向けられていた。
次の獲物として狙われている紅達を庇う様に、私は一歩、前に出る。
「儂、暫く蛙は食しとうないの……」
『紅様に同意でス……』
冗談が言える程の余裕を見せる二人も、私の後方で身構えつつ待機する。
――ここで人面蛙が動いた!
「GEKO!」
頬袋を膨らまし、私に何かを飛ばした人面蛙!
この瞬間、またしても私以外の全ての動きが遅くなった!
先程、下衆共に制裁を加えた際に使った能力を、今回も意図する通りに行使出来た私。
お陰で吐き出された物が、汚らしい水の塊の様な物であると即座に認識した。
「私が加速している風でも無い様だし……時間停止、或いは遅延能力の一種だろうか? 今後、意思一つで自在に引き出せる様、訓練しておかねばならないか」
そう愚痴りながらも紅と眼帯の女性、人質の女性を射線上から退避させておく。
蛙に向き直り、予備の剣を抜いた所で元に戻った。
先程迄、紅達が居た所に着弾した水の塊は、床で弾けて強烈な水煙と嫌な臭いを巻き上げて、周囲を一瞬で溶かしてしまう。
どうやら現実で言う所の強酸に等しい成分の模様。
「あれ?」『えッ⁉︎』
何が起きたのか解っていない紅と眼帯の女性は、当然、驚きの声を上げた。
「終わりだ。蛙」
「GEKO⁉︎」
私は人面蛙の後ろに立っていた。
声を掛けるとほぼ同時に、両手に携えていた剣を鞘に戻した。
蛙の傍を普通に横切って、紅達の元へと戻っていく――。
「主人?」「旦那様?」
「もう終わっているから。倒れた下衆共を縛って置いてくれるかな? 紅は済まないが衛兵を呼んできて貰えるだろうか?」
人面蛙の事等、全く意にも介さず二人に指示を出す私。
「GEKO!」
「蛙。言い忘れたけど――動かな……遅かったかな?」
人面蛙が汚らしい声で憤怒の唸りを上げた直後、河原の小石程度に小刻みに寸断され、豆腐が潰れる様に崩れ落ち絶命した!
「あ、主人は一体……何をしでかしたのだ⁉︎」
『妾にも解りませヌ⁉︎」
驚愕の表情で慄く二人は、お互いの顔を突き合わせた後、ゆっくり私の方へ顔を向けるのだった――。
「面白い顔だな? 沢山、斬っただけだよ、紅に黒。最後に抑えてくっ付けておいた」
肩を竦めて両手を広げる様に持ち上げて、飄々とした態度で表現する私。
嘘は言っていない私。
実際、ただゆっくりとした動きの中で、両手の剣で賽の目に斬り刻んだだけだし。
相手が遅くなるのか、私が速くなるのかは、今の所は全く解らないが事実は事実。
「何と⁉︎ 儂ですら見えんなんだぞ⁉︎」
聴き及んで更に驚く紅と――、
『妾も……って、クロ⁉︎ 黒って言う色ハ……も、もしかして妾を指す名称でしょうカ⁉︎』
全然、関係の無い部分に喰いついて、綺麗な褐色肌の頬をほんのり朱に染めて、狼狽した眼帯の女性だった。
「クロ……、えーと、何とかかんとかさんて名前が、私には発音も難しく長いんだ。面倒臭いので聴き取れた部分の黒って呼ぶ事にしたんだが――駄目か? 駄目なのか?」
口元に人差しを当て首を傾げながら、若干、上目遣いに媚びる様に言ってみた私。
紅と同様、狼狽する仕草や表情に好感が持てたのと、私なりの悪戯心だよ。
この世界で言葉が通じるのは幸いだったが、エルフ独特の鈍りというか発音と抑揚が下を噛みそうで――名前一つでも正直面倒臭い。
『旦那様がそうしたいのであれバ、妾は構いませんのデ――その……そのお顔ハ、ご遠慮下さいませんカ……』
身悶えつつ私に了承の意を伝えてくる黒。
「あ、主人よ、その顔は確かに狡い! あざとい! 儂も何となく気恥ずかしい気分になる!」
頬を朱に染めた紅が、勇んで文句を言っている。
「え? 駄目か? 駄目なのか?」
「くぅ~⁉︎」『エ⁉︎ ア⁉︎ ウ⁉︎』
調子に乗ってもう一度見舞う私。
紅と黒の身悶える姿が中々に面白い。
この仕草は今後の私の必殺技としておこうかな。
「さて、遊んでないでお願い出来るかな? ――駄目か? 駄目なのか?」
真面目に再度見舞う私。
どうやら私は面倒臭さがりの上、無類の悪戯好きでもある様だ。謎の多い私だな。
「くぅ⁉︎ 後で覚えておれよ、主人。儂、滅茶苦茶に甘えるからな! 主人には拒否権何ぞ無いぞ!」
「望む所だよ、紅」
『妾モ――いいエ、何でもありませン』
二人は身悶えて顔を朱に染めたまま、指示通りに動き始めた。
――――――――――
気になる続きはCMの後!
チャンネルは、そのまま!(笑)
私の二、三倍はある身体は、両性類独特の滑りを帯びて鈍く光っていた。
身体中に浮き出ている人面模様は、怨みがましく呪う悲痛な面持ちの、正しく人の肉で出来た顔で埋め尽くされていたのだった。
「ヒィ! た、助け――あがぁっ!」
直後、気色の悪い腐った色をした舌を伸ばし、脚を失った男を捕らえ捕食する。
咀嚼する度に骨が砕ける鈍い音と、グチュグチュと肉が潰れる汚らしい音が響き渡る――。
そして失った腕に相当する前脚を即座に再生し、舌舐めずりをしつつ視線をこちらに移してきた。
「魔族では無く、醜悪な魔物だったとは恐れ入る」
宝剣を身構え、油断無く見据える私。
魔物の視線の先は、紅達に向けられていた。
次の獲物として狙われている紅達を庇う様に、私は一歩、前に出る。
「儂、暫く蛙は食しとうないの……」
『紅様に同意でス……』
冗談が言える程の余裕を見せる二人も、私の後方で身構えつつ待機する。
――ここで人面蛙が動いた!
「GEKO!」
頬袋を膨らまし、私に何かを飛ばした人面蛙!
この瞬間、またしても私以外の全ての動きが遅くなった!
先程、下衆共に制裁を加えた際に使った能力を、今回も意図する通りに行使出来た私。
お陰で吐き出された物が、汚らしい水の塊の様な物であると即座に認識した。
「私が加速している風でも無い様だし……時間停止、或いは遅延能力の一種だろうか? 今後、意思一つで自在に引き出せる様、訓練しておかねばならないか」
そう愚痴りながらも紅と眼帯の女性、人質の女性を射線上から退避させておく。
蛙に向き直り、予備の剣を抜いた所で元に戻った。
先程迄、紅達が居た所に着弾した水の塊は、床で弾けて強烈な水煙と嫌な臭いを巻き上げて、周囲を一瞬で溶かしてしまう。
どうやら現実で言う所の強酸に等しい成分の模様。
「あれ?」『えッ⁉︎』
何が起きたのか解っていない紅と眼帯の女性は、当然、驚きの声を上げた。
「終わりだ。蛙」
「GEKO⁉︎」
私は人面蛙の後ろに立っていた。
声を掛けるとほぼ同時に、両手に携えていた剣を鞘に戻した。
蛙の傍を普通に横切って、紅達の元へと戻っていく――。
「主人?」「旦那様?」
「もう終わっているから。倒れた下衆共を縛って置いてくれるかな? 紅は済まないが衛兵を呼んできて貰えるだろうか?」
人面蛙の事等、全く意にも介さず二人に指示を出す私。
「GEKO!」
「蛙。言い忘れたけど――動かな……遅かったかな?」
人面蛙が汚らしい声で憤怒の唸りを上げた直後、河原の小石程度に小刻みに寸断され、豆腐が潰れる様に崩れ落ち絶命した!
「あ、主人は一体……何をしでかしたのだ⁉︎」
『妾にも解りませヌ⁉︎」
驚愕の表情で慄く二人は、お互いの顔を突き合わせた後、ゆっくり私の方へ顔を向けるのだった――。
「面白い顔だな? 沢山、斬っただけだよ、紅に黒。最後に抑えてくっ付けておいた」
肩を竦めて両手を広げる様に持ち上げて、飄々とした態度で表現する私。
嘘は言っていない私。
実際、ただゆっくりとした動きの中で、両手の剣で賽の目に斬り刻んだだけだし。
相手が遅くなるのか、私が速くなるのかは、今の所は全く解らないが事実は事実。
「何と⁉︎ 儂ですら見えんなんだぞ⁉︎」
聴き及んで更に驚く紅と――、
『妾も……って、クロ⁉︎ 黒って言う色ハ……も、もしかして妾を指す名称でしょうカ⁉︎』
全然、関係の無い部分に喰いついて、綺麗な褐色肌の頬をほんのり朱に染めて、狼狽した眼帯の女性だった。
「クロ……、えーと、何とかかんとかさんて名前が、私には発音も難しく長いんだ。面倒臭いので聴き取れた部分の黒って呼ぶ事にしたんだが――駄目か? 駄目なのか?」
口元に人差しを当て首を傾げながら、若干、上目遣いに媚びる様に言ってみた私。
紅と同様、狼狽する仕草や表情に好感が持てたのと、私なりの悪戯心だよ。
この世界で言葉が通じるのは幸いだったが、エルフ独特の鈍りというか発音と抑揚が下を噛みそうで――名前一つでも正直面倒臭い。
『旦那様がそうしたいのであれバ、妾は構いませんのデ――その……そのお顔ハ、ご遠慮下さいませんカ……』
身悶えつつ私に了承の意を伝えてくる黒。
「あ、主人よ、その顔は確かに狡い! あざとい! 儂も何となく気恥ずかしい気分になる!」
頬を朱に染めた紅が、勇んで文句を言っている。
「え? 駄目か? 駄目なのか?」
「くぅ~⁉︎」『エ⁉︎ ア⁉︎ ウ⁉︎』
調子に乗ってもう一度見舞う私。
紅と黒の身悶える姿が中々に面白い。
この仕草は今後の私の必殺技としておこうかな。
「さて、遊んでないでお願い出来るかな? ――駄目か? 駄目なのか?」
真面目に再度見舞う私。
どうやら私は面倒臭さがりの上、無類の悪戯好きでもある様だ。謎の多い私だな。
「くぅ⁉︎ 後で覚えておれよ、主人。儂、滅茶苦茶に甘えるからな! 主人には拒否権何ぞ無いぞ!」
「望む所だよ、紅」
『妾モ――いいエ、何でもありませン』
二人は身悶えて顔を朱に染めたまま、指示通りに動き始めた。
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チャンネルは、そのまま!(笑)
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