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第四六幕。

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「紅――。鍛治師の言っていた、少々、厄介な魔物の事なんだが……」

「ん? 何じゃ? 臆したのか、主人よ?」

「もしかして、さっきのトロールの事じゃ無いかと思うんだが?」

「――あ」

 厄介な魔物が棲み着いていると鍛治師からは聴いていたし、洞窟の奥から現れたのなら間違い無いだろう。

「もしそうなら、意図せずとも排除出来たと、喜びたい所なんだが……」

 ただ……さっきの話しでは無いが、トロールが一体のみであるとは限らない。
 油断すれば、少年の仲間達の様になる。
 中に進む際は力を過信せず、慎重に行動するべきだな。


 それはそうと、重大な問題が一つ。


「紅――この山道の有り様、どう言い訳するべきだろうな?」

「知らぬ! と、言いたい所ではあるが……確かに困ったのう……」

 山頂から見下ろすと、それはもう酷い有り様だった。
 簡単に言うと、岩場と荒地だった山道が急勾配の斜面と化し、溶岩が固まったかの様な地表に変わり、登って来るにも一苦労と様変わりしてしまった。
 周囲に樹々等が無かっただけ良かったと言う感じだ。
 次にこの洞窟へと採取に訪れる連中が、相当、難儀する事になるのだけは間違い無い……。

「どうしようか……」「むぅ」

 私と紅が困り顔を突き合わせ、反省するよりも先に悩む方が優先された――。

 山道の大惨事について考えるのは、一旦、保留としておき、当初の目的である鍛治師からの依頼を遂行する。

 山脈の頂上付近にぽっかりと口を開ける洞窟の入口には、それこそ初等級の冒険者でも気軽に入れる、或いは準備休憩の待機場として使える様な広さになっていた。

「魔術式のお陰で、程度の低い魔物に遭遇する事は無いであろうな。余程の想定外でも無ければ問題は無かろう」

 紅の言う通り、奥に進む道は炭鉱の隧道ずいどうの様で複数人が並んで歩ける程に広く、所々に淡く灯る魔法の蝋燭が設置され、木の柱の様な人工物で補強もされ、真っ直ぐ奥に延びていた。
 現代で言うトロッコの様な物があれば、正しく炭鉱と言って問題無いだろう。

 天井や壁一面、地面に描かれた奇妙な図柄は、超越者の所で見た物と似た様な感じ。
 中に入る人達の安全を維持する何かには違いないと、異世界人で魔法の知識が皆無な私でもそのぐらいは直ぐに理解出来た。

 天然洞窟、或いは迷宮の様な不親切な作りでは無いのが幸いだな。
 試練の間の様な複数に分岐する洞穴で無くて良かったと思う。

 しかし、安全性も高く人の出入りの多そうなこの場所に、さっきのトロールが棲みついていたのが少々気になるな。

「私が先頭を務めよう。紅は少年の補助と後ろを頼む」

「あ、はい」

「紅、少年の様な初等級の冒険者でも進んで行ける場所には違いないだろうが、その想定外がトロールだ。神経質になっても良くは無いが、一応、警戒は怠るな」

「解っておると言うに! ――小童は念の為、儂と主人の間に入ると良い」

 縦列になって隧道を進んでいく。

 時折、魔鉱石、鉄鉱石等の採掘場所と言うかな開けた場所を通るが、今回の目的はそこでは無い為、更に奥へと進んで行った――。



 ――――――――――
 気になる続きはCMの後!
 チャンネルは、そのまま!(笑)
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