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第弐章 壊れゆく、日常――デパート編。

肆拾肆話 疑問、其の伍。

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「さて、そろそろ駐車場へ向かうぞ?」

「りょ~」「肯定」

 元気なく両腕を後ろ頭に付け拗ねる未来と、軍人さんビックリの構えで慎重に歩くアイ。

「承知ですわ!」

 俺の隣で後方に警戒を送るノリノリの最妃。


 あのね、良いのかそんなで?
 大事な事を忘れてやしないかね、君ら?


 コインロッカーをあとにして、更に下へと向かう斗家の面々。

 暫く歩いたところで、館内の施設案内板を見つけた。
 館内のパンフレットもそこに備え付けてあった。

「おお! 有り難いな! パンフも持って行こう。少し先にエスカレーターがあるのな? そこから下に降りてくか」

 各階にある階段と、エスカレーターの位置が正確に把握出来たのは、かなり有り難かった。

 館内マップに従って歩みを進めて行く。

 引き続き未来とアイは、ノウの気配を探りつつ前衛で構える。

 その後方で警戒を厳重にし、辺りを注意深く見やる俺。

 最妃は俺の背後に背を預けて続き、べレッタを構えながら俺と後方に最善の注意を払う。


 最早、ダンジョン攻略中の何処ぞのパーティだわな……。


「パパ。悪いお知らせ――ナニか居そうかも」

「肯定。但し反応微弱。現在追跡確認中」

「あらあら、おいでなすった! でしたか?」

「最妃。緊張感を持って行動するようにな?」

「も、申し訳ありません」

「全く、俺嫁だわ」

 索敵特化双子組には何ぞ感じたらしく、少し真剣味を帯びて俺に注意喚起をしてきた。
 だがしかし、俺は全く感じ取れずにいた。

 やはりノウにも種類とか種別とかあるのか?
 余りにもノウのことを知らなさすぎる。

 動くだけのモノと意思を持つモノ。
 再構築できるモノとできないモノ。
 気配を纏うモノとそうでないモノ。
 ヒト払いできるモノとできないモノ。

 実際のこれらの違いは何ぞ?

 雑魚、中ボス、ラスボス……所謂、支配とかを管理を担当している階級のあるモノ。

 下位に上級、亜種に希少種、G級。段階に応じて性格も性能も違うモノ。

 スライム、バブルスライム、メタルスライム、つまり、似て非なるモノ。

 そう考えると少しは辻褄が合う。
 だが……今は確証がない。

 とにかく、今は仮定として念頭に置いておくか……。

「未来、この地図にある、テラスのガラスを割ってくれん?」

「――は?」

「態々、相手にする必要もない。……一気に地上に抜ける」

 未来は怪訝そうに俺に返事をする。
 アイも黙ってはいるが、少し怪訝そうに俺を見やる。

 最妃だけは流石に俺嫁だけはあり、意図に気付き静かに頷いた。

「アイに運んでもらえば、楽勝で一階に辿り着けるからな」

「ノウはどうするのよ、パパ」

「そこ疑問」

「家族の安全が最優先事項だ! ――そこ、見誤るな」


 俺達は、出逢いを求めるダンジョン攻略中でもなければ、秘宝を求める考古学者な冒険者でもない。
 魔王討伐に来た勇者ですらないのだ。


「馬鹿正直に危険に飛び込む何ぞ、意味不明で愚の骨頂だ」

 近くのガラスを割って、そこから一階までアイに運んでもらえば簡単に済む話。

 さっさと抜けた方が一番安全で確実なんだよ。


 ちなみに作戦名は “ 戦術的撤退いのちだいじに ” だ!


「嫌な気配を避けて、窓からとっとと外に出るぞ!」

 ノウを放置するのに躊躇いがないわけじゃない。
 だが、得体の知れないノウだけに、この先でナニが出るか全く不明。
 仮にも手も足も出ないヤツが居たら最悪だからな……そんな万一も有り得るんだ。
 戦闘は可能な限り避け、急ぎ離脱が最適解だ!

「りょ!」

「肯定」

 了承の返事をして未来はアイを伴って、気配のしない方向へと進路を変更する。
 そして、案内図にあったテラスへと向かい出す。

「――正しくてよ、彼方」

 最妃は賛成してくれたあと、俺の複雑心理を察し俺に肯いた。

 そして、索敵特化双子組が余りにも有能過ぎて、ノウを尽く回避していく斗家の面々。


 クリエイター泣かせのチート技能だよ、全く。
 漢探知する必要性すら皆無なのは助かるがな?


 まぁ、地図のない未開の地ならともかく、たかがデパートなんだから、迫る脅威さえなければ拍子抜けするほどに移動は楽勝だった。
 さっきマップも入手してあることだしな?

 そんなわけで、あっという間に駐車場に近い目的のテラスに難なく到着する。

 案内図通り、無事に到達できたことに、ひとまずホッとする俺。

 とは言え、俺的素敵カーが止めてある駐車場まで、まだ距離は残っている。

 遭遇しなかったからと言って、油断はできない。

「そこな窓を割ってくれ。未来、頼む」

 後ろから追って来ないか注意深く見やりつつ、未来にガラスを破るよう指差しで指示を出す。

「りょ……ナニ、アレ⁉︎」

「アイはここから皆を順番に連れて――」

 不安な声で呟く未来が気になって駆け寄る俺。


 そして。


「な⁉︎」

 テラスから見た外の景色に絶句した――。


 六階と結構な高さがあるとはいえ、人外のアイの機動力なら余裕で届く距離の筈だった。


 眼下に広がる場所は、ここに来る時に通った場所。


 エントランス手前にお土産屋兼休憩施設があり、中央に噴水があって芝生が敷き詰められていて、少し離れて囲むように店舗が設置されていて、更にその店舗を取り囲むように、イベントのハロウィン柄に豪華に装飾された、派手な高い塀に囲まれた中央公園があった筈なのに――。


「な、何ぞ!? どー言うことだよ! これはっ!」

「パパ……どうして⁉︎」

「不明……って、酷いっ!」

「ええ。これは流石に……度し難くてよ」



 ―――――――――― つづく。
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