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第弐章 壊れゆく、日常――デパート編。

肆拾玖話 脅威、其の伍。

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「とにかく急げ! 今の内だ!」

 磯巾着擬きのようなモノを横目で警戒しつつ、目的の駐車場に向かう俺達。


 だがしかし。


 そうはさせないと言わんばかりに、触手のようなモノが頭上から雨霰と降り注ぎ行手を阻む!


「――チッ! 映画のワンシーンのように、簡単には逃してくれんか!」

 すんなり進まないことに悪態をつく俺。

「アイが撤退を支援。――皆、急いで」

 器用にも抑揚なく叫ぶアイ。

 多方向から掴み掛かってくる触手のようなモノを、アイは持ち前の機動力で完璧に躱していく!

 地面を蹴り上げ空中に舞い上がると、向かってくる触手のようなモノを次から次へと上空から狙撃して木っ端微塵に粉砕して、皆の退避を支援、退路を確保していく。

「ハッ! パパのエロゲみたく捕まるかっての!」

 しれっと俺の趣味をバラして退避する未来。

 まるで新体操の床選手のようにキレのある動きを見せた。

 地面を縦横無尽に駆け抜け、迫る触手のようなモノを踏み台にしたりと難なく躱す!

 更に掴み掛かってくる触手のようなモノを尽く、アイアンキャンディで木っ端微塵に吹き飛ばしていく!

「あらあら。夜の彼方は……もっと激しくてよ」

 夫婦の秘め事を公然と暴露する最妃。
 
 未来以上にキレのある動きに優雅さが加わり、まるでアクション映画の女スパイのように跳ね回る!

 ベレッタを右に左に巧みに持ち替えては、洗練された体術と組み合わせて軽く往なす。

 掴み掛かってくる触手のようなモノを尽く撃ち抜き、それらを潰し又は破壊してく!


 そんな斗家美女軍に対し、俺はと言うと――。


「クソッ! 俺は普通のおやぢなんだぞ!」

 ゼェハァ言いながら皆について行くも、脚がもつれて何ぞかに躓いて転けてしまう。

 向かってくる触手のようなモノを、尻餅をつきながらも慌てて狙いを定め、俺的ドラグーンをブっ放して必死に撃ち落とす!

「ダイハード的な動きは、俺には無理だっつーの!」

 華麗に捌く家族らの動きとの差に悪態をつき、尻をはたきつつ起き上がり独り言ちる。

「――うひぃ⁉︎」

 間髪入れず、次々と頭上から襲いくる触手のようなモノから必死に逃げ回るなり躱すなりしつつ、危なげにひたすら逃げ惑う俺は、皆に比べて圧倒的にダサかったり。


 必死に避けるも間に合わず、遂に捕まってしまう俺!


「――そこッ!」

 俺譲りの電波台詞を宣いつつ、香ばしいポーズで格好良く決めたアイ。

 俺に迫る触手のようなモノに振り返りもせず、左脇から俺的ビームライフルの銃口を向けて狙撃する!

 着弾した場所から融解し、捥げ落ちていく触手のようなモノ。

「助かった、アイ!」

 拘束から解放された俺は、転げ落ちる勢いのままに、身を隠すに丁度良い瓦礫に、なんとか飛び込んだ!

「あー、ウッザァー! キリがないって! パパ、大丈夫?」

「……ですわね」

 そこに集まってきた未来と最妃。

「ハァハァ……確かにな、フゥ……俺がなんとかやってみる!」

 目配せをし、少し離れた瓦礫に身を隠して狙撃中のアイに、俺的ハンドシグナルで行動の指示を出す。


 “ 状況の打破。支援要求。俺、特攻。”

 “ 肯定。アイも手伝う。主装備変更。ヤツから離れて。”


「最妃、未来。先に行ってくれ! 直ぐに追いつくから!」

 少し戸惑って躊躇する最妃は、俺を心配そうに見やる。

「彼方……」「大丈夫だ、俺とアイを信じろ」

 渋々小さく肯いた最妃は、未来を伴い一気に駆け出した!

 瓦礫を盾にしながら、真っ直ぐ俺的素敵カーの停めてある方へと向かった!

 俺はアイの方を見やり、大きく頷く。

 次の瞬間、各々の瓦礫から同時に飛び出す俺とアイ。


「木っ端微塵に吹き飛べや、このキモタコ野郎!」

 再び磯巾着擬きのようなモノに向かって駆け出した!

 磯巾着擬きのようなモノの目前で、俺は素早く俺的痛カーゴパンツに隠された七つのポケットの内のひとつに手を突っ込み、取り出した俺的ガチャポンを即座に投げつける!

 一方、俺的ビームライフルから俺的バズーカに切り替え、軍人さんもビックリに香ばしく担いだアイ。

「墜ちろ! 墜ちろ! 墜ちろ! 墜ちろーっ!」

 地面を蹴り抜き一際高い位置まで上昇すると、何処ぞで聞いた有名な台詞何ぞを叫びながら、天辺の口のような部分に目掛けて全弾発射した!


 俺的バズーカの弾に俺的ガチャポンが着弾直後、誘爆して辺り一帯に轟く爆発音!


「どわぁ~」

 凄まじい爆風に煽られ、吹っ飛された俺!
 翻筋斗打ってかなりの距離を転がされてしまう。

「んっ!」

 対してアイは、迫り来る爆風を上手く乗り熟し、難なく着地を決める。

 未来と最妃もアイと同じく煽られることもなく、離れた場所に華麗に着地をした。

「……あ痛たた。なして俺だけ~」

「彼方!」「パパ、早く!」

 遠くの着地点から俺を見やり、心配して叫ぶ最妃と、その隣で手招きしつつ、必死に俺を呼ぶ未来。

「活動一時停止。緊急離脱推奨」

 起き上がる俺の横に静かに着地するアイは、状況報告をしながら俺を引き起こし、肩で支えてくれた。

 磯巾着擬きのようなモノは肉塊を撒き散らし、凡そ半分くらい吹き飛んでいた。

 だがしかし、根元に横たわるヒトだったモノ達を取り込み、急速に再構築されていく――。

「そうだな……恐らく、完全体に再生するまで、そう長くはかからんだろう」

「肯定。――急ぎ離脱します」

 俺を背中に担ぐと蹲み込み、一気に地面を蹴り抜いて跳躍するアイ。


 皆の元へと合流し、引き続き、俺的素敵カーの元へと急ぎ向かうのであった――。



 ―――――――――― つづく。
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