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第参章 失いゆく、日常――秘密の花園編。

捌拾漆話 探索、其の参。

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「微弱怪電波確認、数、一七ヒトナナ。意思無き肉塊と識別。通路ドア内に右側、手前、五。中、八。左側、奥、四。弱怪電波反応有。防壁外側。数、二。識別不可。詳細不明。周囲ヒト反応なし。待機又は回避推奨」

 先に潜っていたアイから抑揚なく待ての指示が飛ぶ。

 続いて潜った俺達に周囲の状況を伝え終えると、俺的スカウターを下ろし隙のない臨戦体勢を取る。

「数が多いですわね……」

 防壁を潜りながら聴いていた最妃は、俺的ウィップを腰から外し俺の隣まで歩み寄って、目を細めて静かに呟き待機した。

「それだけ犠牲者が出てるってことよ、ママ」

 同じく、置かれている状況に苦い顔をして呟く未来。

「あゝ残念だがな。意思無き肉塊は、犠牲者だったモノだからな……」

 俺は二人を見ながら静かに返すのだった。

「ナニをやっている部屋かは気になる所なんだが、俺達がここに来た目的はアリサ救出であって、この施設の秘密を暴きに来たんじゃないんだ。ましてやヒトの気配を部屋からも察知していない。生存者の救助でもなく部屋の物色何ぞの為だけに、態々、意思無き肉塊の相手をしていくのは、無駄な時間と労力を浪費するだけの愚策だ。防壁シャッターを壊し、二体のノウだけ処理して下の階にサッサと進む。それが現状の最適解だ。皆んな、それで良いな?」

 俺は真面目な顔で方針に理由を添えて皆に伝えた。

「りょ!」「正しくてよ、彼方」「無難」

 話しを聴き終わると各々に納得した表情で頷く。

「では、奥に参りましょうか、彼方」

「あゝそうだな。その前に、だ」

 最妃の言葉にちょいと待ったを掛けた俺は、沈黙した意思無き肉塊の側まで歩み寄る。

 幸いにも直ぐに戦闘にはならずに済んでいる。
 追い剥ぎみたいで犠牲者に申し訳なく思いながらも蹲み込んで、着込んだモノなどを色々と物色し始めた。

「パパ、ナニしてんのよ?」

「ちょっと確認したいことがあってな? すまんが未来は防壁シャッターの方を頼む。アイは未来の援護と二体のノウの本体を探知だ。最妃は双子組の補助と各部屋の監視も頼む」

「承知ですわよ、彼方」

「りょ! お任せってね!」

「了解。特定急ぎます」「チュイン!」

 意思無き肉塊が身に付けている衣服などを漁りつつ、皆に指示を出し行動を促す俺。

 二つ返事で行動を開始した未来は、走りながら伐採ヒートホークを腰後ろから外し、防壁シャッター手前で横回転し始めて大きく跳ねた。

「邪魔な壁なら――単純に壊せば良いだけよ!」

 最初と同じように手元のスイッチを入れて加熱させ、走る勢いに遠心力を加え容赦なく叩きつけた!

 凄まじい衝突音を上げ深く突き刺さると同時に、飴細工のように融解させ溶かし斬っていく未来。

「毎回、無駄に香ばしい動きをするの、ナニ?」

 毎回、無駄な動きの未来に呆れ顔でツッコむ俺。

「力は正義!」

 ドヤ顔の未来は意味不明な理由を宣う。

「あらあら」「意味が解らん」

「同意」「チュイン;」

 最妃は相変わらず和やかに微笑むだけで、アイもリペアも未来の後ろで流石に呆れ顔だった。


 未来が防壁シャッターを斬り開いている間に、俺は床に横たわる三体の意思無き肉塊を物色した――。


「これって……お約束の職員証じゃね?」

 職員証を兼ねたパスキーを一枚だけ手に入れた。

 お約束の胸から上の顔写真が貼り付けてあって、笑顔が素敵な若い男性職員のモノだったようだ。

 他に特筆すべき重要なモノは残念ながらなかったが。

「折角だし……チラ見させて貰うか」

 俺がナニモノも居ない部屋の電子ロックだけ、順番に通して試していくと左側中央の部屋だけが、解錠を示す青いランプに変わりスライドして開く。

 恐らく部屋の入室権限を制限されていたんだろう。
 この男性は所謂、下っ端職員だったんだろうか。

「ナニやってたんだ? 胡散臭いだけに興味あるわ」

 開いた部屋のドアに寄り掛かり何ぞと覗く俺。

 部屋の中は仰々しい機械や設備で埋め尽くされ、何ぞかを研究していた部屋であることが見て取れた。

「当然、お約束だな。男性なのにファンシーな部屋ならドン引きだわ」

 興味はあるが詳しく調べる時間もないので、とっととその場を去ろうとした時だった。


 台の上に置かれる頑丈そうなケースにふと気付いた――。


「被験体、もしくはホルマリン漬けの標本か? 流石に意味のないモノは置いてないだろうが、入室制限されてた若僧だしな……期待薄だろ」

 俺は部屋に入ってケースに近付き中を見る。

 何ぞかの透明な液体らしきモノが詰められて、案の定、標本らしく中に何ぞかが揺蕩っていた。


「コイツは……機内で見た資料添付の?」

 その中に保存されて在った極小のモノとは――。



 ―――――――――― つづく。
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