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第参章 失いゆく、日常――秘密の花園編。

佰拾捌話 虚像、其の弐。

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「出てくるモノか……。お約束にも色々あるし、流石に解らんと言っておくよ? 意外に……未知なる友人とかが封印的眠りについてたりとかしてな?」

 存外、当てずっぽうの適当に答えた俺。

 該当する可能性のあるモノが沢山あり過ぎる……なので、そうしたのだ。

 ただ、俺達に最も関連性の高い、そうあって欲しいと願う意味で、最後にそう呟いたけど。


 すると――。


『――貴方、本当にナニモノなの? ヒトなの?』

「……なんと~⁉︎ まさかの正解かよ~⁉︎ 俺は天才か~? まぢか~⁉︎」

 演劇かよってな仰々しい大袈裟な身振り手振りで、意外だったわ~っと驚くフリをする――棒読みで。

『……残念でした! 正しくは『概ね、正解』よ。中に在るのはうつわのみだから』

「……残念、器かよ~? それは~、一体、何ぞ~?」

「パパ?」「キショいのよ?」

 更に態とらしくも仰々しく驚いてみせる俺。
 未来とアリサがジト目でも気にしない。


 ファーストの『器』と言う意味。

 それは恐らく本体とか身体とかのことだろうよ。
 話の流れから、ってのも解らなくもない。


 と言うか、バレバレじゃん?


 折角なのでファーストに付き合って、あえて驚いておいてやろうかなと思った空気が読める俺。

『そう、器。貴方達で言う身体のことよ? 記録……そうね、魂と言うのかな。大昔にちょっと訳有りで、その紫、紅、碧、桃にある魂が分割されて保管されたの。三つと鍵と黄が揃って、初めて元の一つの情報となるってわけよ』

 気分が高揚した口調で頭に響くファーストの声。

「ふーん。なるほど、なるほど~。俺もそこまでは~、予想外だったわ~」


 ――なんてな。やっぱりかよ。


 器は器でも神に疑問符ではない、予想通りの方だったと肯定しくさる解答に、俺の返答は棒読みだったり。

 もしもファーストに表情があったなら、きっとドヤ顔をして宣ってんだろうな?



『貴方……中身、実は解ってたでしょう? ……まぁ良いわ。誇って良いわよ? そこまで解ってたのって貴方くらいよ? どっかの誰かさんなんてさ――』

「――喧しいのよ? ぶっ壊すのよ?」

 馬鹿にされた台詞が響ききる前に銃声が響いた。

 像の直ぐ横に大穴を開ける勢いで、アリサがマスケット銃をぶっ放したのだ。


 穴は開かんけど。
 つーか、それで開いたら、俺はヤバい技術者の称号を得るわ。


『待て待て待って! 言う前に撃たないで! 普通は抑止してから行動するのに……』

「アリサだからな……止むなし。さっき俺もまぢで撃たれた……辛うじて威嚇で済んだけど」

 半ば呆れ気味にファーストに伝える俺。

 何故か美幼女っつーよか、俺以上の電波微妖女になってしまってるからな、今のアリサは、うん。


 魔法微妖女アリサ。
 ありそうなタイトルだな――ぷっ。


「ボク……パパはできる子、出来杉君だと思ってた」

 唐突に俺の背後から未来が褒める。


 出来杉君って……。
 ははーん、俺を褒めてアリサに追い討ちを仕掛けてるんだな、未来。
 顔が実に悪い子になってんぞ?


「お姉ちゃん! その台詞は違うから! 子じゃなくて親だから! あとね、アイにも解ってたから! ちゃんと解ってたから!」

「……チュイ~ン?」

 慌てて未来にダメ出しをするアイに、本当に? ジト目のリペア。

 でもね、その解っててたアピールが、未来の思惑通りに、アイも意図せずアリサに追い討ちを掛けてるって気付いてる?

「流石、私の彼方でしてよ。……普通のヒトでは思いもつかない難しいことですのに」

 唯一、真面に褒めてくれる最妃。

 アリサに差し障りのないように、無難な言葉を選んでな?
 やっぱ、空気読める俺嫁は最高だよ!


 涙目でワナワナと肩を震わせ悔しがってるアリサは、そっとしておいてやろう。


「……何ぞ照れ臭いが。で、俺達をそいつに合わせてくれるのか?」


 と、言うかな。
 もう会ってるし。話してるし。


『勿論! アタシはその為にここに在るのよ? 長かった~、やっと解放されるよ! サクッと開けちゃうから待ってて――』

「ちょ~、待ってくれ~、ファースト~。使命と言うか任務と言うか~、役目が終わった貴女はどーなるんだ~? まさか~、活動停止とかしないよな~?」

 とことん戯言に付き合ってやる、存外、空気読める優しい俺。


 相変わらず下手な演劇っぽい口調で。


『そこまで⁉︎ ――貴方、本当にナニモノなのよ? 流石のアタシも本気でビックリよ?』

 ワザと怪訝そうな口調で頭に響くファーストの声。

「パパの悪ノリ」「あちらもでしてよ……」

 気付いた未来と最妃が呆れている。

「義兄さん……」

 アリサが何ぞ言いたそうにして俺を見やる。

「あのな、ファースト――」

『――アタシは言わば動作様式を限定されたモノに過ぎないから気にしなくて良いわよ……とも思うけど、貴方に興味があるから一緒に居たい気もする。でもね、それは無理ってモノ……見ての通り、アタシはオブジェ。ただの飾りよ……フフフ』

 俺がそろそろ止めようかと言い掛けてるのを遮り、やや小さな声で言葉を絞り出し、寂しそうな雰囲気で戯言の続投ときた――。

 空気も読まず悪ノリを悪化させ、より深みのドツボへとハマっていくファースト。

「……左様に御座いますか」

 俺は途中で気付いてた。
 ファーストの邪悪な真意――悪戯心に。


 俺が不適切な笑顔で宣う時にそっくりな物言いだからな。
 特に思わせぶりなフフフ。
 そんな感じで言うところが、俺やアリサに匹敵するほどに似通ってんだよ。


『開けるから下がってなさい、よっと』

 その言葉が響いたあとで、像の真下辺りに洞窟温泉で目にした扉が唐突に現れた。

 そして黄色に染まり光り輝く扉。


 つまり、扉は例のゲート。
 音もなく静かに開いていくのだった――。


 あゝ……最早、お約束的大惨事の予感しかしないわ、俺。



 ―――――――――― つづく。
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