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第参章 失いゆく、日常――秘密の花園編。

佰弐拾壱話 虚像、其の伍。

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「すまん、待たせたファースト。コレが記録媒体だとして、更に複製体だと言うのなら、ファースト自身やオリジナルと繋がったりして、情報のシェア共有何ぞをしてたりするのか? 簡単に言うとだな、サーバーと端末がオンラインのように――って、俺の言ってる意味は解るか?」

「失礼ね! 現代のことくらい、とっくに勉強し尽くしてるわよ! ――答えはノンノン。其々はあくまでもよ。用途に応じて細分化された記録ってのが正しいの。個々に得た情報は、オリジナルに全て伝達されるから筒抜けなの。反対にアタシらにはオリジナルのことは解らない……不便よねー。アタシに統合? 複製同士を融合すれば、そこにある分の記録は継承されるのかな?」

「あのな、尋ねてるのは俺。質問に質問で返すの、ナニ? ……ならば、俺とアイを再構成して救ってくれたり、リペアを授けてくれたりしたのは……もしかファーストなのか?」

「うーん、言っちゃうけど。アタシじゃないけど、オリジナルのアタシで間違いはないよ」

「つまり、ファーストとは別の個体……記録体の仕業ってことで良いんだな?」

「ややこしいわね。神に疑問符ってのが何人か居るって言えば解り易い? アタシはその中のひとつで、機能限定の廉価版みたいなモノ。役割は敵対勢力の排除担当ね。それ以外の知識は持ってないし。アリサから聴いたんだけど再構成だっけ? そんなことは絶対にできやしないもん。できるとすれば、アッチのアタシ、音信不通なオリジナルの方よ」

「――すまん。……もう一回、タイムだ」

 俺は踵を返し皆の元に戻ると、再び最妃の手を引いて少し離れた。

「か、彼方……ですので、私にはナニもお答えできませんわ」

 今度はやや困った顔で、聴こうとして歩み寄った俺より先に返事をする最妃。


 つまり、この話しは本当っぽいのな。


 リペア譲渡の時に頭に響いた未知なる友人の言葉は、単語主体だったが理知的だった。
 ファーストの言ってる通り、俺の知ってる神に疑問符とは別の記録体なのだろう。

 未知なる友人以上に流暢に喋ってはいるが、未知なる友人はファーストのように――、


 馬鹿っぽくはなかったからな。


 結論――ファーストは未知なる友人とは異なる存在。


 言わば残念な微笑女で確定――ぷっ。


「――ねぇ? 貴方。今さ、すっごい失礼なこと考えてなかった?」


 更に言っとこう。
 エスパーかコイツは……。


「あー。纏めるとこうだな? つまり神秘の珠玉何ぞも神の疑問符には違いはないが、個々の役割分の記録を宿しているだけの簡易的なモノだと……それで合ってるか?」

「そそ。所詮、アタシらはただの複製、消耗品に過ぎないって。でも貴方達はこの時代に生きている、替えの効かないオリジナルなんだよ? 用件が済んだならアタシに構わず、アリサを連れてサッサとここから立ち去りなさいって」

「……しかしだな」

「昔は戦乙女もビックリで強かった美女なアタシ……だったと思うけど? でも、ご覧の通りの有様で。今は単なる貴方のお気に入りの容姿をした、単なる役立たずだから。放っておいて良いからさ――ほら、さっさと行った行った」

 床に座り込んで、シッシと手で払う仕草のファースト。


 フランクな言葉遣いからかな?
 話していてどうにも憎めないヤツなんだよなぁ。
 このまま放っておくのも……うーん。


「……ファーストが複製体なのは解った。しかしだなファーストはファースト、それで良くね? 自我もあるんだし。更に言うと独立してんだろ? ならば複製体のファースト自体もオリジナルと呼べるモノで合ってると俺は思うぞ?」

「貴方……本当にヒト?」

「学術的にはヒトだが、正しくはヒトっぽい何ぞな? ファースト……この海底遺跡だっけか? いっそ破棄してしまえ」

「貴方……ナニを突然、藪から棒に言うの?」

「自分を護る自分って、ナニ? 護るべき自分が居ないのであれば、それ自体に意味がなくね?」

 床に座り込むファーストに手を差し伸べる俺。
 勿論、他意のない普通の笑顔で俺達の元へと招いたのだ。


 それはつまり、一緒に行こうと言う意味でだ。


 と、その時だった――。


「な、何ぞ⁉︎」

 突如、地響きのような音を立て、大きな揺れが起きた――。
 そのあとも小さな地震、余震のような揺れが不規則に続く。

「アリサ、ファースト。招かれざる客何ぞが上で駄々を捏ねてんじゃねーのか? この場所は大丈夫なのかよ!」

 ちょっと焦り気味で尋ねる俺。


 ファーストもアリサも慌てふためく素振りはなかった。
 なので大丈夫だろうとは思うが……。
 地下五キロメートルに生き埋め何ぞ、絶対に御免被るからな。


「大丈夫だと思う……一応、みたいなモノは張ってあるし……」

 ファーストが天井を見上げて答える。


 上の昇降機の出入口付近に残骸すらなかったのは、そーゆーことだったんかい。
 やや自信なさげに伝えてくるのが、俺的に些か不安なんだけども。

 それにしてもお約束な結界ときたか。
 最早、創作モノのファンタジーか何ぞだな、現実世界ってのも怪しいくらいに。


 更に言うと、ご都合過ぎて笑うしかないわ。


「核弾頭が直撃しても大丈夫なのよ? だって、Shelter緊急避難場所も兼ねてるのよ?」

 対してアリサは、めっさ自信満々に俺的お至宝な双丘を張ってドヤ顔で言う。


 その割に意外と脆かったように思うぞ?
 俺如きのこさえた玩具で簡単に突破できる程度だからな……防壁シャッターとか。


「とにかくだ、脱出を急ぎたいんだが。出口は当然、他にも用意されてるんだろ?」

 ちょっとした油断が大惨事に繋がる。
 上でナニが起こっているのか全く不明なら尚更だよ。

 大体、緊急時の脱出用通路何ぞは、こう言う時の為に必ず設置しておくのがお約束……てか、一般常識だからな? 在って然りだ。


 だがしかし――。


「「無いわよ?」」「は?」

 全く同じタイミングでユニゾンして、不穏当な言葉を宣ってくれやがったファーストとアリサ。


 この揺れの中、いつ止まるか解らん昇降機で五キロメートルも上がれってのか?

 未来じゃないが……あー、頭痛が痛い。



 ―――――――――― つづく。
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