3 / 10
第一章 人外の冒険者。
02 俺にビビる新人受付嬢。
しおりを挟む
程なくナイース街に戻った俺たちは、見張りの門番に軽く挨拶をし中へと進む。
「もうすっかり街の住人だね」
「この街だけだよね。何も言われずに素通ししてくれるの」
「まぁな。他の村や街ではこうはいかないな。いつも誤解を解くところから始まるってのにはうんざりする」
「ホントだよね。亜人種の人達もいっぱい住んでるのに……ノワールが蜥蜴人ってだけで、何処に行っても酷い扱いばかりだもん」
「僕も女の子扱いばかりだから少しは気持ちがわからないでもないし……何か良い方法ってないもんかなぁ」
「二人ともありがとう」
普段の拠点として随分と長居してる所為もあり、門番らに止められての誰何は今更ない。ここの冒険組合に所属している者だからってこともあるにはあるが。
今では身分証すら見せることなく素通ししてくれるし、行きつけの場所では歓待されるまでにもなっている。そんな扱いをしてくれるのは、実際この街くらいだ。
道すがらそんなことを話しつつ、二人が請け負った依頼の達成報告をする為に冒険者組合へと赴く。
この報告手続きをちゃんとしておかないと、受けた依頼が達成とはならない。当然、報酬も支払われない。
また依頼の内容如何によっては確たる証拠も提示しなければならなず、受諾よりも報告の方が実は割りと面倒臭かったりする。
「よう」
そんなわけで受付窓口へと顔を出すのだが、いつもの担当ではない別の受付嬢が座っていた。
「こここ、こにゃにゃちわぁっ⁉︎ 」
すくっと立ち上がって開口一発、思いっきり噛んだ受付嬢――名をオーネイさんと言う。
見た目は十代後半から二十代くらいのやや童顔。丁寧に編み込んだ髪を、邪魔にならないよう上品に纏めている。
片眼鏡の所為で知的な印象を受けるが、全体的にはふんわりとした独特の雰囲気を持つ、ややおっとりした子である。
実はこの冒険者組合には、組合長以上の権限を持つ人物が居る。つまり影の実力者……って言うと俺が裏通りで干されるか。
元特等級冒険者で現受付嬢統括である兎人族のアーネさんってのがそうなんだが、その人が直々に何処からか拉致ってきた秘蔵っ子らしい。
そんな経緯で配属されたばかりの新人受付嬢は、当然ながら研修上がりたて。真新しい制服の所為もあって実に初々しい。
「そんなに緊張しなくても。いきなり噛みついたり喰ったりしないって」
窓口から乗り出すように覗き込み、目の前で俺の長い舌を出したり引っ込めたりして軽く揶揄っておく。
「ははは、はいぃっ! ししし、失礼しましたぁっ!」
強張った顔で必死に謝る仕草が、なんかとっても可愛いらしい。
俺と懇意に接してくれる一部の人を除き、大概の奴は辛辣かつ塩対応が定石。その所為で酷く荒んだ俺の心が癒されるよ。
(まぁ……眼帯の強面かつ魔物然とした蜥蜴人だし。慣れてない新人に緊張するなと言う方が酷か)
住人らに忌み嫌われ、この姿に怯え怖がられてもぶっちゃけ止むなし。その辺りはもう随分と慣れた。
ナイース街には人種以外にも多種多様な種族の者が集っている。エルフやドワーフに獣人などの亜人種、魔に連なる者がそう。
街のそこら中で見かけるし、兎人族が受付嬢を任されるくらい確執も少なく、割りと上手く共存できている。
だがしかし。それはあくまでも『基本的に人と大差ない容姿』だからである。
魔物にしか見えない奴は流石に居ない。実際、俺ぐらいだ。
街の外に行けば、当然ながら人に似通った魔物も生息してはいるが、あれは交流できる種族として認知されていない。当然、亜人種とは扱いが異なる。
あくまでもゴブリンなどと同じに扱われ、単に魔物と一括りにされている。
本来なら俺のような魔物然とした蜥蜴人なんて者が、何の制限もなく街で暮らし、自由に行動を許される筈もない。
更に武装まで許可されて、冒険者稼業に身を置くことまで許されるってのは、到底あり得ない話しとなる。実際、俺以外の前例は皆無だからな。
「良し。ちょっと深呼吸」
「は、はいぃっ! ヒッヒフー、ヒッヒフー」
「もう大丈夫だな?」
「――は、はい。ノワールさん。お、お恥ずかしいところをお見せしました……き、今日はどのようなご用件でしょう」
「上出来。今晩のメインディッシュに、オーネイさんを頂きに……」
瞳孔が縦に細い異形の眼でギロリと睨み、長い舌を出したり引っ込めたりしつつニヤリと薄笑っておく。
「――えぇっ⁉︎」
顔面蒼白で動きが完全停止。呼吸までもが止まったかのように微動だにせず。
「――って、冗談だ。この二人、カテルとカテネの依頼完了報告に来ただけだよ。不備がないか確認と事後処理を頼む」
「「宜しくお願いします」」
二人を指し、丸められた羊皮紙をそっと差し出す。
「もうっ! 洒落にならない冗談はやめて下さいっ!」
頬っぺたをぷくっと膨らませ、奪うように取り上げて内容を確認するオーネイさん。
「ついでで悪いが、今日の獲物の査定と買取の手配までを一緒に頼む」
「承りました。纏めますので少しお待ち下さいね」
素早く笑顔に戻ると依頼の報告書に目を通し、熟達の受付嬢も舌を巻く手際で素早く纏め始めるのだった。
さっきまでのゆるふわ感は完全に鳴りを潜め真剣そのもの。アーネさん直々に拉致ってきただけはあるのな。できるオーネイさんって感じ。
----------
「もうすっかり街の住人だね」
「この街だけだよね。何も言われずに素通ししてくれるの」
「まぁな。他の村や街ではこうはいかないな。いつも誤解を解くところから始まるってのにはうんざりする」
「ホントだよね。亜人種の人達もいっぱい住んでるのに……ノワールが蜥蜴人ってだけで、何処に行っても酷い扱いばかりだもん」
「僕も女の子扱いばかりだから少しは気持ちがわからないでもないし……何か良い方法ってないもんかなぁ」
「二人ともありがとう」
普段の拠点として随分と長居してる所為もあり、門番らに止められての誰何は今更ない。ここの冒険組合に所属している者だからってこともあるにはあるが。
今では身分証すら見せることなく素通ししてくれるし、行きつけの場所では歓待されるまでにもなっている。そんな扱いをしてくれるのは、実際この街くらいだ。
道すがらそんなことを話しつつ、二人が請け負った依頼の達成報告をする為に冒険者組合へと赴く。
この報告手続きをちゃんとしておかないと、受けた依頼が達成とはならない。当然、報酬も支払われない。
また依頼の内容如何によっては確たる証拠も提示しなければならなず、受諾よりも報告の方が実は割りと面倒臭かったりする。
「よう」
そんなわけで受付窓口へと顔を出すのだが、いつもの担当ではない別の受付嬢が座っていた。
「こここ、こにゃにゃちわぁっ⁉︎ 」
すくっと立ち上がって開口一発、思いっきり噛んだ受付嬢――名をオーネイさんと言う。
見た目は十代後半から二十代くらいのやや童顔。丁寧に編み込んだ髪を、邪魔にならないよう上品に纏めている。
片眼鏡の所為で知的な印象を受けるが、全体的にはふんわりとした独特の雰囲気を持つ、ややおっとりした子である。
実はこの冒険者組合には、組合長以上の権限を持つ人物が居る。つまり影の実力者……って言うと俺が裏通りで干されるか。
元特等級冒険者で現受付嬢統括である兎人族のアーネさんってのがそうなんだが、その人が直々に何処からか拉致ってきた秘蔵っ子らしい。
そんな経緯で配属されたばかりの新人受付嬢は、当然ながら研修上がりたて。真新しい制服の所為もあって実に初々しい。
「そんなに緊張しなくても。いきなり噛みついたり喰ったりしないって」
窓口から乗り出すように覗き込み、目の前で俺の長い舌を出したり引っ込めたりして軽く揶揄っておく。
「ははは、はいぃっ! ししし、失礼しましたぁっ!」
強張った顔で必死に謝る仕草が、なんかとっても可愛いらしい。
俺と懇意に接してくれる一部の人を除き、大概の奴は辛辣かつ塩対応が定石。その所為で酷く荒んだ俺の心が癒されるよ。
(まぁ……眼帯の強面かつ魔物然とした蜥蜴人だし。慣れてない新人に緊張するなと言う方が酷か)
住人らに忌み嫌われ、この姿に怯え怖がられてもぶっちゃけ止むなし。その辺りはもう随分と慣れた。
ナイース街には人種以外にも多種多様な種族の者が集っている。エルフやドワーフに獣人などの亜人種、魔に連なる者がそう。
街のそこら中で見かけるし、兎人族が受付嬢を任されるくらい確執も少なく、割りと上手く共存できている。
だがしかし。それはあくまでも『基本的に人と大差ない容姿』だからである。
魔物にしか見えない奴は流石に居ない。実際、俺ぐらいだ。
街の外に行けば、当然ながら人に似通った魔物も生息してはいるが、あれは交流できる種族として認知されていない。当然、亜人種とは扱いが異なる。
あくまでもゴブリンなどと同じに扱われ、単に魔物と一括りにされている。
本来なら俺のような魔物然とした蜥蜴人なんて者が、何の制限もなく街で暮らし、自由に行動を許される筈もない。
更に武装まで許可されて、冒険者稼業に身を置くことまで許されるってのは、到底あり得ない話しとなる。実際、俺以外の前例は皆無だからな。
「良し。ちょっと深呼吸」
「は、はいぃっ! ヒッヒフー、ヒッヒフー」
「もう大丈夫だな?」
「――は、はい。ノワールさん。お、お恥ずかしいところをお見せしました……き、今日はどのようなご用件でしょう」
「上出来。今晩のメインディッシュに、オーネイさんを頂きに……」
瞳孔が縦に細い異形の眼でギロリと睨み、長い舌を出したり引っ込めたりしつつニヤリと薄笑っておく。
「――えぇっ⁉︎」
顔面蒼白で動きが完全停止。呼吸までもが止まったかのように微動だにせず。
「――って、冗談だ。この二人、カテルとカテネの依頼完了報告に来ただけだよ。不備がないか確認と事後処理を頼む」
「「宜しくお願いします」」
二人を指し、丸められた羊皮紙をそっと差し出す。
「もうっ! 洒落にならない冗談はやめて下さいっ!」
頬っぺたをぷくっと膨らませ、奪うように取り上げて内容を確認するオーネイさん。
「ついでで悪いが、今日の獲物の査定と買取の手配までを一緒に頼む」
「承りました。纏めますので少しお待ち下さいね」
素早く笑顔に戻ると依頼の報告書に目を通し、熟達の受付嬢も舌を巻く手際で素早く纏め始めるのだった。
さっきまでのゆるふわ感は完全に鳴りを潜め真剣そのもの。アーネさん直々に拉致ってきただけはあるのな。できるオーネイさんって感じ。
----------
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる