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第三章「私の相棒」
「03-012」
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有無を言わせない、という迫力のある表情はとてもその見てくれとはかけ離れている。言葉を出すことができず、恐る恐る頷くしかできなかった。それはハクも同様らしく、さっきまでの威勢はすっかり影を潜めている。
「改めて、ハク、あんたは負けだぁね。認めないと」
『ぐっ……』
ハクは言葉につまる。歯切れの悪さが気に入らなかったのか、千枝は「認めないと、ダメだよねぇ?」と改めて笑顔をハクに向けた。目が笑っていない。
この拘束から解放されるには、従順になるしかないとハクも悟っているのだろう。ふんっ、と気怠そうに鼻を鳴らした。
「よぉし! それじゃ、一件落着ってことで」
この少女らしき女性はどれだけの力を持っているのだろう。異形の力を持つ自分たちを容易く押さえつけるだけの力があるということは、千枝も同じ力を持つ同類ということだろうか。いずれにしても、刃向かうだけ無駄――そのことを理解し、もう抵抗する意思がないよと千枝に目配せをすると、意図を汲み取ってくれたのか、パンッと両手を叩く。すると、たちまち体の自由を奪っていた無数の鳥居が霧のように消えさった。
「いてて……」
仮想世界の痛みを感じながら立ち上がり、背伸びをしながら空を見上げてみた。相変わらずの青空だが、放り込まれたときとはまた違う、朝焼けのように透き通っているように思える。
――何かを、成し遂げたからなのだろうか。
しばらくぶりに得られた達成感に舌鼓を打っていると、刻を同じくしてハクが『全く……これだから生娘は好かん』と愚痴を零しながら空中へ浮いた。
ただ、先程までの敵意はない。寧ろ、友好な関係を結ぼうとしているのだろうか。その小さな手を目一杯こちらに伸ばし『断腸の思いとはこのことだな』と力ない笑みを浮かべた。
「一応、私が勝ったんだからもう少ししおらしくしたらどう?」
負けず嫌いなところや、素直じゃないところは通ずる物がある。もしかしたら似たもの同士なのかもしれない、と明日香はハクと同じ力ない笑みをもって、その小さな手を取った。
『勘違いはするでないぞ、其方はたまたま運が良かっただけだ』
「うん。またやろ! そしたら、また私も強くなれる」
ふと返した言葉がえらく強気なのは、ハクの言葉に充てられたからだろう。少しずつ買われているのかもしれないと、自分の成長らしき芽を確認しながら、明日香は「ま、しばらくは遠慮して欲しいけどね」と保険をかけておいた。
※
明日香が自身の繋魂であるハクとの縁を結べたことを確認すると、渚が「フー」と息を漏らした。同時に、瞼を瞑っていた明日香が「きゃっ⁉」と喚声を上げて体を起こす。
まだ、仮想空間ハロウから現実に意識が戻ったことを実感できていないのだろう。目を丸くしたままな明日香に「お疲れ」と大翔は声をかけた。
「えっ……えっ⁉」
自分の顔をぺたぺたと触り、触感を確かめる。間抜けな姿だが、ハロウを初めて利用した人間が必ずとる行動だ。人は古来より夢かどうか確認するため、自身の頬をつねり現実かどうかを確認していたが、その延長だろう。想像した通りの反応を見せる明日香に「安心しろ、ここは現実だ」と言って額を小突いた。
「そ、そっか」
「よくやったよ。おけーり」
「た、ただいま」
「これで晴れてお前も〝いくさびと〟だ。おめでと」
「いくさびと?」
「あんたら戦うことができる人のことだよ。おめでとぅ!」
大翔の言葉に補足を加えた千枝が、明日香に飛びかかった。先程、ハロウで鳥居に縛り付けられたことがトラウマにでもなっているのか、ビクリと体を震わせて「そ、そうなんですね」と言葉を震わせた。
「ナナカントッカは戦う専門とサポート専門に別れててね。単純に、繋魂と縁を結べるかなんだけど、これがまた確率が低くてね。正に、選ばれた人ってやつなんだよ」
「あーしやカブさんなんかはダメでねぇ。選ばれなかった側ってワケ」
「選ばれなかった側? でも津ノ森さん、さっき……」
「あれはあそこだけ限定なんだぁ。ほーんと残念」
「そうなんですね……」
「ま、こっちはこっちでやりがいあるから別にいいんだけどねぇ。ま、取りあえずあーしの仕事は以上!」
バンバンと背中を叩いてから千枝は「じゃ、そーゆーことで」と踵を返した。
「え? 終わりなんですか?」
「うん。今はもうあーしにやれることないよ。あとは、そこのツンツン頭にバトンタッチ」
そう言い残すと、千枝はかぶらぎ診療所を後にする。取り残された格好になった明日香に「ま、そゆこと。明日からこんな感じ」と大翔は明日香にスケジュールのデータを転送した。
「ちょ、これ……!」
明日香がおののくのも無理はない。転送したスケジュールは、朝から晩まで〝実戦〟と書き記しただけのシンプルなもの。まだ何も学んでいない卵状態な明日香には酷な内容だ。
「ま、経験あるのみってやつだ」
いち早くなんとか戦力になって貰いたいというメッセージを込めたスケジュールだが、その意図を汲み取ってくれている様子はない。先程までハロウで見せてくれた自信満々な表情はすっかり消えており、慌てふためくその姿を笑いながら、大翔は「じゃ、今日はもう帰って寝とけ」と言い放った。
「改めて、ハク、あんたは負けだぁね。認めないと」
『ぐっ……』
ハクは言葉につまる。歯切れの悪さが気に入らなかったのか、千枝は「認めないと、ダメだよねぇ?」と改めて笑顔をハクに向けた。目が笑っていない。
この拘束から解放されるには、従順になるしかないとハクも悟っているのだろう。ふんっ、と気怠そうに鼻を鳴らした。
「よぉし! それじゃ、一件落着ってことで」
この少女らしき女性はどれだけの力を持っているのだろう。異形の力を持つ自分たちを容易く押さえつけるだけの力があるということは、千枝も同じ力を持つ同類ということだろうか。いずれにしても、刃向かうだけ無駄――そのことを理解し、もう抵抗する意思がないよと千枝に目配せをすると、意図を汲み取ってくれたのか、パンッと両手を叩く。すると、たちまち体の自由を奪っていた無数の鳥居が霧のように消えさった。
「いてて……」
仮想世界の痛みを感じながら立ち上がり、背伸びをしながら空を見上げてみた。相変わらずの青空だが、放り込まれたときとはまた違う、朝焼けのように透き通っているように思える。
――何かを、成し遂げたからなのだろうか。
しばらくぶりに得られた達成感に舌鼓を打っていると、刻を同じくしてハクが『全く……これだから生娘は好かん』と愚痴を零しながら空中へ浮いた。
ただ、先程までの敵意はない。寧ろ、友好な関係を結ぼうとしているのだろうか。その小さな手を目一杯こちらに伸ばし『断腸の思いとはこのことだな』と力ない笑みを浮かべた。
「一応、私が勝ったんだからもう少ししおらしくしたらどう?」
負けず嫌いなところや、素直じゃないところは通ずる物がある。もしかしたら似たもの同士なのかもしれない、と明日香はハクと同じ力ない笑みをもって、その小さな手を取った。
『勘違いはするでないぞ、其方はたまたま運が良かっただけだ』
「うん。またやろ! そしたら、また私も強くなれる」
ふと返した言葉がえらく強気なのは、ハクの言葉に充てられたからだろう。少しずつ買われているのかもしれないと、自分の成長らしき芽を確認しながら、明日香は「ま、しばらくは遠慮して欲しいけどね」と保険をかけておいた。
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明日香が自身の繋魂であるハクとの縁を結べたことを確認すると、渚が「フー」と息を漏らした。同時に、瞼を瞑っていた明日香が「きゃっ⁉」と喚声を上げて体を起こす。
まだ、仮想空間ハロウから現実に意識が戻ったことを実感できていないのだろう。目を丸くしたままな明日香に「お疲れ」と大翔は声をかけた。
「えっ……えっ⁉」
自分の顔をぺたぺたと触り、触感を確かめる。間抜けな姿だが、ハロウを初めて利用した人間が必ずとる行動だ。人は古来より夢かどうか確認するため、自身の頬をつねり現実かどうかを確認していたが、その延長だろう。想像した通りの反応を見せる明日香に「安心しろ、ここは現実だ」と言って額を小突いた。
「そ、そっか」
「よくやったよ。おけーり」
「た、ただいま」
「これで晴れてお前も〝いくさびと〟だ。おめでと」
「いくさびと?」
「あんたら戦うことができる人のことだよ。おめでとぅ!」
大翔の言葉に補足を加えた千枝が、明日香に飛びかかった。先程、ハロウで鳥居に縛り付けられたことがトラウマにでもなっているのか、ビクリと体を震わせて「そ、そうなんですね」と言葉を震わせた。
「ナナカントッカは戦う専門とサポート専門に別れててね。単純に、繋魂と縁を結べるかなんだけど、これがまた確率が低くてね。正に、選ばれた人ってやつなんだよ」
「あーしやカブさんなんかはダメでねぇ。選ばれなかった側ってワケ」
「選ばれなかった側? でも津ノ森さん、さっき……」
「あれはあそこだけ限定なんだぁ。ほーんと残念」
「そうなんですね……」
「ま、こっちはこっちでやりがいあるから別にいいんだけどねぇ。ま、取りあえずあーしの仕事は以上!」
バンバンと背中を叩いてから千枝は「じゃ、そーゆーことで」と踵を返した。
「え? 終わりなんですか?」
「うん。今はもうあーしにやれることないよ。あとは、そこのツンツン頭にバトンタッチ」
そう言い残すと、千枝はかぶらぎ診療所を後にする。取り残された格好になった明日香に「ま、そゆこと。明日からこんな感じ」と大翔は明日香にスケジュールのデータを転送した。
「ちょ、これ……!」
明日香がおののくのも無理はない。転送したスケジュールは、朝から晩まで〝実戦〟と書き記しただけのシンプルなもの。まだ何も学んでいない卵状態な明日香には酷な内容だ。
「ま、経験あるのみってやつだ」
いち早くなんとか戦力になって貰いたいというメッセージを込めたスケジュールだが、その意図を汲み取ってくれている様子はない。先程までハロウで見せてくれた自信満々な表情はすっかり消えており、慌てふためくその姿を笑いながら、大翔は「じゃ、今日はもう帰って寝とけ」と言い放った。
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